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第20回 三浦洋一、欽ちゃんとの出会い
目に入れても痛くないほどカワイイわが子、健康な妻、そして定収入。仕事さえ堅実にやっていれば何も問題はない我が家に、1本の電話が来た。
相手は以前入っていた劇団のマネージャーからだった。
「あんたさぁ、俳優の三浦洋一さんて知ってる」
「知ってるもなにも、大好きな俳優さんだよ」
三浦洋一さんというのは、劇団つかこうへい事務所の生え抜きで、リーゼント風のヘアースタイルが特徴的な、当時テレビや映画でブレイクしていた俳優さんだった。
「その三浦さんがさぁ、今、あるテレビ番組に主演していて、そこであんたを使いたいっていうのよ」
「えっ?三浦さん、オレのことなんか知ってるの?」
「なんでもあんたのお芝居を以前に見たことがあるみたいよ、それでズッーと気になってたんだって」
「それは嬉しいけど、こっちは今サラリーマンやってるし、もう役者に戻る気はないよ」
「そう、でも、ちょっと考えて見て、悪い話じゃないと思うの」
「考えは変わらないと思うけど」
「三日だけ考えてみてよ、ね」
そう言って電話は切れた。
うーん、確かに悪い話ではない、役者を辞める前だったら。だって、普通の人間に、 こんなに簡単にテレビに出るチャンスなんて来るわけないからだ。僕の心は多少グラついたが、このときの僕は強かった。
目に入れても痛くないほどカワイイわが子、健康な妻、定収入。この3点セットを手放すことをしたくはなかった。三日後、僕は元マネージャーに電話を入れた。
「すみませんが・・・・・・・」
「そう、わかった、お断りの電話入れておくわ。じゃあ、お幸せにね」
・・・・・・これでいいんだ、ちょっともったいない気はするけどこれでいい、僕にはカワイイ子供がいるのだから。そう自分を納得させた。
三浦さんが八方手を尽くして、僕のことを探していた
それから1週間後、またまた元マネージャーから電話があった。
「あっ、ごめんね。三浦さんにはちゃんと伝えてもらったんだけど、どうしても本人の口から聞きたいって言うのよ、だから仕事先の電話番号教えちゃった」
「教えちゃたって・・・・本人から電話があるのかなぁ・・・・・・」
「まぁ、本人かマネージャーさんからね」
「わかった、オレの口から断るわ」
「ごめんね、じゃあ、よろしくね」
電話は切れた。 しばらくして、仕事場に電話が入った。
「もしもし、わたくし、三浦洋一のマネージャーの中村啓介と申しますが」
元気のいいキレのある声が耳に飛び込んで来た。
電話の内容はこうだ。今日の夕方、麹町の日本テレビで三浦の番組のリハーサルがある。 そこで、リハーサル前に三浦と会ってもらえないだろうか、そして、そこで三浦と話し合って戴きたい。
確かそんな内容だった気がする。僕は仕事が終わってからなら、と条件をつけ、その約束を承諾した。
夕方、仕事が終わり、僕は日本テレビ内にあるパーラーに向かった。パーラーの少し重たいドアを開け中に入って行くと、 少し大きめの長い顔が目に入った。三浦洋一さんだ。
「あのー、わたくしー、中島陽典と申しますが」
そう言って頭を下げると三浦さんは席を立ち上がり、
「いたよー!この子だ!あっ、初めまして、三浦です。よかったー!会えたよ!捜したんだよ!」
「は、はい」
どうも三浦さんは僕にすごく会いたかったらしい、そのために八方手を尽くして僕を捜したらしい、それだけは伝わった。
そのとき三浦さんの隣に居た影が動いた。
「先程は御電話で失礼しました。三浦のマネージャーの中村です」
これが、中村啓介との出会いだった。この何年も後、彼が僕のマネージャーになろうとは、この時は知る由もなかった。
「この度は声をかけて戴き、本当に嬉しく思っております。でも僕はこのとおり既に会社員でありまして、今回の御誘いには・・・・・・」
「あのー、中島君、今からリハーサルがあるんだけど、見に来ませんか」
「えっ?」
「このすぐ上のリハーサル室でリハをしてるんです。見るだけでいいから、行きましょうよ」
「は、はい」
強引な三浦さんの御誘いに、僕は断る術を失っていた。
見学に行ったつもりが、いきなり台本を渡されて……
日本テレビ内にあるリハーサル室に行くと、テレビで見たことのある人たちの顔が飛び込んで来た。 そこには有名なコメディアンの方、俳優さん、女優さんがいて、台本片手にあーでもないこーでもないとやっていた。
僕は初めて見るプロの方たちのリハーサルに挑む真剣な顔に、背筋を直した。
三浦さんが僕をある人物の方に連れて行く。
「大将、彼が僕の捜していた中島君です」
三浦さんの声に大将と呼ばれた人が振り向いた。その人は欽ちゃんこと萩本欽一さんだった。
「ふーん」
大将こと欽ちゃんは、そういって僕のことジロリと見た。
「だれか、彼に台本あげて」
サッと3方向ぐらいから台本が瞬時に出てきた。
『日曜九時は遊び座です』
僕は、三浦さんと欽ちゃんの番組のタイトルをこのとき初めて知った。
大将はペラペラとページをめくり、ある箇所に目をとめて、そこを指さし僕にいった。
「ちょっとここやって見て」
えっ!ええっー!!僕は一瞬何を言われているかわからなかった。
「ハハハハ(笑)・・・・・・急にそんなこと言われても困っちゃうよねー、でも、折角来たんだから、ちょっと遊びのつもりで動いてみませんか」
そう僕に笑いかけた、小太りでメガネで髭を生やしたオジさんが、この番組のディレクター、篠木為八男さんだった。
“困ったことになったぞー”
そう思いつつも、僕は台本に目を通し始めていた。
つづく。
イラスト/Wacame
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