セクハラの現場において、明らかにセクハラに該当する（身体に触った等）様な善悪 がはっきりする事例は珍しく、殆どがセクハラになるのかならないのか悩むような案 件です。そこで、両名の言い分を聞いてみるのですが、当然両名とも自己弁護をしま す。このときに、片方若しくは両名とも嘘をついている場合があります。あるいは、 嘘とまでもいかなくとも、事実を自分に都合いいように話す方がいます。両名のヒア リングから、まず、このような嘘や事実に反する部分を排除して事実関係を考えま す。嘘が混じっている場合は殆どが嘘をついている方に責めがあるので判断しやすい のです。

問題は嘘がない場合です。客観的事実だけを見て判断するのですが、両名ともに悪意 がなく日常業務を行う上での通常の活動の延長行為をセクハラと言えるかということ です。今回のノリカやマサキの事例のようですね。結論からいいますと、ケースバイ ケースです。今回の事例でセクハラになる場合もあればならない場合もあります。そ こで、人間の心理としてどうしても白黒をつけたくなるのですが、セクハラにおいて は白黒をつけない決着方法も非常に大切な決着方法になります。というのは、前述し ましたように、同じ事例でもケースバイケースでセクハラになったりならなかったり するのがセクハラです。これを無理に白黒をつけてしまうと、この事例が先例とな り、次からの目安になってしまうからです。この事例でもしマサキの行為がセクハラ にならないと判断してしまうと、まわりの従業員さんは次からはこの程度の行為まで ならセクハラなならないと判断し、同じような行為が頻発する危険があるわけです。 セクハラは企業内という密室で行われます。大企業といえどもまだまだ情報公開が不 十分な日本の企業社会で、企業内という密室でセクハラの許容範囲がその企業独自の ガイドラインが設定されてしまうと、今後のセクハラを助長しかねません。従って、 明確に白黒をつけることは労務管理上得策ではありません。もちろん、明確にセクハ ラが行われた場合や当事者が明確な処分を強く望んだ場合などは明確に処罰すべきで す。狸事務所が作成する就業規則ではセクハラは懲戒解雇です。しかし、セクハラに 該当するか否か微妙な案件では白黒の決着をつけるより、これ以降セクハラが起こら ないように配慮する方がより重要です。

ここまでの話をすると、殆どの社長さんは「うちの会社はそんなことない」といわれ るのですが、殆どの会社はセクハラの目安を欲しがってますので、先例ができると、 先例を基準にしがちです。よく「前回はこうだった。」という話をしますよね。この 話がでた時点でいくら前回と今回は違うと理屈で理解していても、無意識に前回を基 準に考えてしまうものです。皆さんも心当たるところがあると思います。もちろん、 私もよく失敗します。

ところで、ノリカがとった上司への直訴が皆さんの同意を得られないようですが、セ クハラを行っている当人に対しては、強い態度にでにくいのが日本の企業社会です。 特にセクハラの当人が直接の上司ですと、自分の人事権を握られていますので、少々 の理不尽ではノーとは言えませんよね。そこで、男女雇用機会均等法ではセクハラの 対象者にノーと言えない日本の企業社会の現状を考えると、企業内の専門の相談員やセ クハラ対象者の上司に苦情を申し出ることは通常の事であり、男女雇用機会均等法の 趣旨でありノリカが非難されるべきものではありません。問題は降格人事（懲戒処 分）を行う際に本人に弁明の機会を与えなかった部分に問題があります。懲戒規定を 適用し降格人事をするとなると、従業員さんの生活に重大な打撃を与えます。このよ うな重大な打撃を与えるような懲戒規定の適用は、就業規則による包括的同意だけで は足らず、従業員さんに弁明の機会を与え、本人納得の上で個別同意を得た上で発動 する必要があります。このような手続きを踏まず、いきなり降格人事を発動すると、 降格人事自体が無効となります。

以上を考えると、一番悪いのは、降格人事を正当な手続きを踏まずに安易に発動した 企業でしょうね。

締切までに時間がとれれば、セクハラをなくす対策を書きます。時間がとれなかった らカンニンして下さい。
[ペンネーム]社会保険労務士　びわこの狸