5. 緑の目の吟遊詩人
 
 詩人は先程から黙ったまま、琴を奏でるだ け。しかし、その唇は黄金の声を約束してい るのにもかかわらず。
 「お願い!どうして黙っているの?」
 詩人は悲し気に瞳を伏せた。
 女は狂おしく叫ぶ。
 
 
 「お願い!声を聞かせて!替わりに何でも 差し上げるわ!」
 
 木々はざわざわと鳴り、陽のある時とは違う姿を見せていた。森の重なり合う闇は濃く、 夜に開く錆色の花が揺れる。魔女が呪術に使う、魔法の花だ。そして、野苺の赤は血の色。 蝶はなく、悪霊の目をした蛾が飛翔する。
 
 
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