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バックナンバー Vol.31

大統領の理髪師
きみに読む物語
DV ドメスティック・バイオレンス

監修:中沢志乃

ふたりの間に流れる空気、それだけでドラマ……『ビフォア・サンセット』 ■ ■ ■
 人が放つ言葉には、いくつもの感情がまとわりついている。そしてそんな言葉をやりとりするなかで、ふたりの関係も、相手も、そして自分さえも微妙に変化していく。
 それは私たちの日常でつねに繰り返されていることだけれど、その微妙な心の軌跡が生み出すドラマ、とくに恋の生まれる瞬間をとらえたのが、本作の前作にあたる『恋人までの距離(ディスタンス)』(95)であり、再会を果たせなかったふたりが今も心の片隅にひっかかるその恋の答えを探り合う本作である。
 しかも今回は9年ぶりに再会したふたりに残された85分をリアルタイムで追いかける。 だから物語は何か特別な事件が起こるわけではなく、パリを回遊するふたりの会話だけで進行する。 9年間の空白を感じさせないその自然で話題豊富な会話の展開は、ふたりが本当に心の通い合う相手であることを感じさせる一方で、 ときにはお互いの未練を探り合い、やがては迷える現在の心の内をも吐露させる。 時々ドキッと胸に突き刺さる台詞もあるが、話している内容そのものよりも、 そこに見え隠れするふたりの感情・緊張感・距離感の微妙な変化や揺れがあまりにリアルに伝わってきて、この後のふたりがどうなるのか、 余韻までも観客を離さない。そこに流れている空気そのものがドラマといった方がいい。 そしてその空気感は、類似体験の有無に関わらず、観る者の想像力を多様に刺激する。
(タカイキヨコ)

=1点、=0.5点。最高得点=5点
大統領の理髪師

監督:イム・チャンサン
出演:ソン・ガンホ、ムン・ソリ
配給:アルバトロス・フィルム(Bunkamuraル・シネマにて公開中!)
http://www.albatros-film.com/movie/barber/
大統領の理髪師

山本聡子     ★★★★☆
 笑いの力ってすごい。やっぱりユーモアは人間の偉大な才能ですよね。韓国の暗い歴史も痛快な笑いでバサバサと斬ってゆくこの映画。 小心者の庶民が大きな時代の流れに翻弄されながらも幸せを追求していく姿には、笑いとともに切ない涙がでてきます。赤狩り、拷問、マルクス病。 島国でのうのうと暮らしてきた日本人が知らなかった歴史も勉強になる。 そして最後は、笑顔で終わり。そして胃腸の弱い私は、この時代に韓国に生まれなくてよかった〜とつくづく思うのでした。
伊藤洋次     ★★★★☆
 ソン・ガンホが素晴らしい!お人好しで不器用・・・しかし、理髪師の仕事と誠実に向き合う良き父親でもある主人公ソン・ハンモを見事に演じていた。 妻(キム・ミンジャ)役のムン・ソリも相変わらず堂に入った演技。ソン・ハンモが時代に翻弄された男なら、キム・ミンジャは夫に翻弄された女。 そんな境遇でもたくましく生きる彼女には、強い存在感があった。 笑いあり、涙ありの展開はテンポが良くメリハリもきっちりしていて、最後まで全く飽きることがなかった。
中村勝則     ★★★★
 今でこそ華やかなイメージが根付いている韓国だが、ほんのひと昔前まで独裁政治による、辛く厳しい時代が平気で存在していた。 そんな時代を真正面から描きながらも、重い社会派路線にひた走ることなく、笑いと感動に満ちた心温まるドラマに仕上げたのは◎。 これはソン・ガンホの魅力あってのものだろう。時の政権に従事することしかできない主人公の姿は悲劇でしかないが、それを実に愛らしく演じ切ったのはさすが。 ラスト、家族の平和を取り戻した主人公の心の雄叫びも、心から拍手を送りたくなるのだ。
三笠加奈子    ★★★★
 韓国版『ライフ・イズ・ビューティフル』とも、『フォレスト・ガンプ』ともいえる今作品、ロベルト・ベニーニやトム・ハンクスの役どころを演じているのは、 我らが俳優ソン・ガンホである。相変わらずうまい。『男は辛いよ』を日本でもう一度復活させるとしたら、虎さんを演じられるのはこの人しかいないな。 もちろん、マドンナはチョン・ジヒョンで。そんなことより、ソン・ガンホも監督のイム・チャンサンも、「386世代」である。 これは、今30代で、80年代に青春をおくり、60年代に生まれた働き盛りの男性のこと。韓流ブームはこの386世代が支えているといっても間違いはない。 この作品を過渡期と呼ぶのは失礼かもしれないけど、彼らはまだまだ30代。 脂がのった40代になった時、どんな作品を作りだすのか。韓流ブームはまだまだ続きそう。


きみに読む物語

監督:ニック・カサヴェテス
出演:ライアン・ゴズリング、レイチェル・マクアダムス
配給:ギャガ・ヒューマックス
http://www.kimiyomu.jp/
きみに読む物語

波多野えり子   
★★★★
 「私はどこにでもいるありふれた男。…でもたったひとつ、誰にも誇れる事がある。私には全身全霊を傾け生涯を懸けて愛し続けた女性がいる。 それだけで十分だ…。」純愛映画の名言がまたもや登場。本作は見事ツボにはまってしまい、終始ポロポロと泣きっぱなし。 切なくて、でも温かくて、見終わった後にじっくり噛みしめたくなるような優しいひとときを与えてくれた。 メルヘン的な要素が少々強いけど、現実社会で夫婦が添い遂げることの素晴らしさを、十二分に訴えかけてくる秀作。
鍵山直子     ★★★
 初恋、身分の差、母親の邪魔、悲しい別れ、365通の恋文、戦争、三角関係…。まるで韓国ドラマのような劇的要素のオンパレード。 ドラマチックが止まりません!だけど安っぽい泣かせ技に走ることなく、あっけらかんと煩悩全開なところが実にアメリカ的でいい! 男の一途愛というのもいい!人生の終幕に、激しく求め合ったあの頃を夫婦で懐かしむ…そんな中高年の憧れを反映した映画。 需要に応えて大ヒットという感じでしょうか。
松本透      ★★
 朝起きるとハグをする。そして一日が始まる。そんな祖父母のことを思い出さずにはいられなかった。 もう何度も2人の馴れ初めを聞かされてるし、会うと相変わらずノロケ話をしてくれる。歳を重ね愛情の年輪を重ねていく二人を見てると、幸福な気持ちになる。 でも時々考えてしまう、必ずどちらかが先に死ぬんだと。この映画で描かれるハッピーエンドは感動的だ。 確かにある種の理想だと思う。だけど人生は愛する人が亡くなっても続くし、一人で生きていく人もいる。 この映画全般に漂う「正しさ」と、おとぎ話のようなハッピーエンドを理想化することは、僕には出来ない。
伊藤洋次     ★☆
 なんとか我慢して話を追っていたが、途中、ノアとの仲を認めない母親が自分の経験を娘アリーに語るシーンでついにギブアップ。 一気に集中力が切れました。その展開はやり過ぎ。余分な説明が入って流れが断ち切られたような感じで、ストーリーに深みを与えるどころか浅くなってしまった。 『16歳の合衆国』で好演していたライアン・ゴズリングが、今回も安定して良い味を出していたのが唯一の救い。 それにしても本編後のあの宣伝は何なのだろう?全くもって不要です。


DV ドメスティック・バイオレンス

監督:中原俊
出演:遠藤憲一、英由佳
配給:バイオタイド
http://www.fullmedia.co.jp/dv/index2.html

カザビー     ★★★★
 この作品を観て、DVを描くのに薄幸顔の女優を使うことが不可欠だと確信しました。 主役の英さんは身体の線が細いし繊細な美しさがあるので暴力が激しくなればなるほど観ていて切なくなり、同時にDVの重さを感じました。 そして同じくDV被害者役のりりぃさんの演技が薄幸クイーンを授与したいぐらいに素晴らしいです! 足を引きずりながらよろよろと歩くりりぃさんは本当にリアルで胸にグサリときました。 それに脚本もしっかりしているので見応え十分。DV予防のために女子は必見です。
タカイキヨコ    ★★☆
 家庭内暴力を振るう方も振るわれる方も、それぞれが抱える心の闇へのもがき方が物足りない気がした。確かにDVの怖さはわかった。 暴力も、愛し合っていた人が命を脅かす存在に豹変する理不尽さも、周囲の無理解さも。現に劇場のどこからかは早い段階からすすり泣く声が聞こえた。 当事者(と勝手に決めつけられないが、経験のない者は腹が立つだけで、とても泣けない)の声は大いに代弁しているのかもしれない。 でも現実に一番怖いのは、加被害者共にこの不幸を認められない苦しみや、それを断ち切ることのできない複雑な人間心理ではないだろうか。 だからこのDVしかり、児童虐待しかり、いじめしかり、この手の問題の着地点を、愛され方を知らない人間が自分の存在を確認するために他人を傷つけ、 さらにそのトラウマは輪廻するという原因だけにしてしまうことに、とても不満を感じるのだ。 だって人を愛することに不器用でない人間がこの世の中にどれだけいるだろう。 むしろ人間の不完全さがもたらす悲しさとその不幸な悪循環から抜け出すことの難しさ(あるいは勇気)とを伝える方が、 この根の深い問題の実態をより理解できるような気がするのだけれど。
中村勝則     ★★
 社会問題となっているDVに真正面から挑んだ意欲作。エンケンさんは目茶苦茶にキレまくり、 そんな彼の暴力を(本当に)受けることになるヒロイン役・英由佳の体当たり演技も確かにスゴイ! しかし何故かDVの恐怖がなかなか伝わってこない。 後半、反撃に入ったヒロインがネットを使ってその実態を公表するくだりも読めてしまうし、ヒロインのカウンセラー(小沢和義)が、 実はDV加害者だったというオチも取って付けたような感じ。 これなら、いっそホラー的要素を前面に出した方がよかったのでは…!?
松本透      
 暴力夫がカラオケで歌うのは、ブルーハーツの名曲中の名曲「人にやさしく」。そして、実は暴力夫の父親が暴力父親だったことが明かされるラスト。 監督はきっとDVという重いテーマを扱いながらも、暴力夫の方に共感を持っていたのではないだろうか。 その証拠に、虐待される妻を撮る時はきわめて客観的だが、反対に情緒的なのは、ガラス越しに妻を見る暴力夫、刑務所で弁護士と向かい合う暴力夫のシーン。 一見DV被害者を描いているようにみせかけ、「かしこい」男たちが情報をうまく整理し「かしこく」撮った、男たち向けの作品である。


シネ達日誌
イラスト  ソーシャルネットワーキングサイト「mixi(ミクシィ)」内で、 「シネマの達人」「キネマ旬報」「周防正行」「B級シネマ天国」「森田芳光」「名画座ノスタルジア」及び「ロゼッタストーン」のコミュニティを主宰(管理)しています。 興味のあるmixi会員の方はぜひお立ち寄りください。 (古東久人)
著者プロフィール
タカイキヨコ :  1966年愛媛県生まれ。企業勤めの後、1年間のロンドン遊学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画のプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をしています。ストレート・プレイ、ミュージカル、バレエ、歌舞伎などの観劇も大好き。

山本聡子 :  1973年生まれ。2年前に脱OLして編集者を志す。現在は自然の中を歩く本などを製作中。都会の喧騒に疲れると、吸い込まれるように映画館に行く。 見るのはアメリカ映画よりもヨーロッパ映画が多い。映画も男もラテン系が好きです。

伊藤洋次 :  1977年、長野県生まれ。専門紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。映画を観て涙したことが一度しかないため、現在は泣ける映画を探索中。

中村勝則 : 1967年、岡山県生まれ。90年「キネマ旬報」で映画ライターデビュー。日本映画を中心に、VシネマやTVドラマの批評や取材記事も執筆。編著に「映画イヤーブック1991〜1998」(社会思想社)、「映画ガイドブック1999〜2000」(筑摩書房)など。ヨコハマ映画祭選考委員。

三笠加奈子 :  仕事が大好きな新人ライター。著書に『外国映画の歩き方』『マンガで楽しむ旧約聖書』『マンガで楽しむ新約聖書』がある。三度の飯も好きだけど、ドイツはもっと大好きで、いつか別荘を買おうと500円玉貯金中。

波多野えり子 :  1979年元旦の翌日に東京・永福町にて誕生。映画好きかつ毒舌な家庭で育ち、「カサブランカ」からB級ホラー作品まで手広く鑑賞する日々を過ごしながら、現在編集者を志しているところ。最近は、まんまと韓国映画とドラマにハマっています。

鍵山直子 :  テレビ&FMラジオの構成作家。現在、i-modeとauの携帯サイトで『シネマ通信』、ボーダフォンで『シネマ・エキスプレス』を担当中。 遅れてきたヒュー・グラント・ファンです。

松本透 :  1974年生まれ。ネコ大好き。泡盛大好き。福岡ホークス頑張れ。サッカー日本代表頑張れ。田臥勇太のNBAデビューに落涙。強烈な映画体験求む!!現在は、なんやかんやとフリーランスな僕です。

カザビー :  1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。好きな監督は周防正行、矢口史靖、SABU、ペドロ・アルモドバル、セドリック・クラピッシュなど。今年、嬉しかった出来事は矢口監督からサインをもらったことと、田口トモロヲ監督「アイデン&ティティ」のエキストラに参加したことです。

古東久人 :  1959年生まれ。1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 映画雑誌に執筆。編著「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。 生涯のベストはブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。mixiネームは、Dr.コトー。

中沢志乃 :  1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。代表作は「ユー・ガット・サーブド」(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)。


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