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バックナンバー Vol.33

コーヒー&シガレッツ
スパイダー・フォレスト/懺悔
バッド・エデュケーション

監修:松本 透

アガペーとエロス ■ ■ ■

愛には「アガペー」と「エロス」がある。アガペーとは自己犠牲的な愛のこと。 自己犠牲的な愛を描いた小説や映画・ドラマは老若男女を問わず万人が理解でき、また感動もする。そしてエロスはずばり性的な愛のこと。 性欲が吐き出す激情であり、肉と肉、粘膜と粘膜、凸と凹のぶつかり合い。むっちりとした体臭と薄暗がり、汗と唾液と微かな腐臭。 これは確実に受け手を限定する。アガペーとエロスは対極に位置する愛の形なのである。

 『新・痴漢日記』の主人公は一見冴えない青年だが、監督や脚本家が意図したのか偶然か、アガペーとエロスをバランスよく内包した理想的な男性である。 ラストシーンでは主人公の優しさゆえのほろ苦い結末に思わず涙がホロリ。ブレイク直前の大森南朋が放つ清々しい透明感はもちろん、 脇を固める芸達者な役者たちの名演も味わい深い。この作品は痴漢を描いたエロ映画のように見えて、実は深〜い愛の物語だったりする。 そう、人は見かけによらないし、映画もタイトルどおりとは限らないのだ。

※『新・痴漢日記』('99、東映ビデオ) 

監督:富岡忠文 脚本:新田隆男 
出演:大森南朋、栗林知美、蛍雪次朗、田口トモロヲ、有薗芳記
アダルト系ビデオ映画として制作されたが、 今年3月12日〜18日に渋谷ユーロスペースでの「天然のカオス、大森南朋」と題した特集で"劇場初上映"された。
(岡崎 圭)

=1点、=0.5点。最高得点=5点
コーヒー&シガレッツ

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:ケイト・ブランシェット、ビル・マーレイ、イギー・ポップ、トム・ウエイツ
配給:アスミック・エース
http://coffee-c.com/ http://c-cigarettes.com/
コーヒー&シガレッツ

中村勝則     ★★★★☆
 さびれた喫茶店を舞台に展開される11話の会話劇…とはいえ、会話は特に盛り上がることもなく、ひたすらぎこちなくダラーッと流れていくだけ。しかし、そこにコーヒー&タバコがあるだけで、実にゴキゲンな映画になってしまうから不思議だ。はっきり言ってヘビースモーカーな僕にとって、会話の内容だのドラマチックな展開などどうでもよく、このゆるい空間を実に魅力的にとらえたジャームッシュにただただ脱帽。喫煙者バッシング(アメリカはもっと厳しい)が当たり前と化し、喫茶店ですら禁煙を謳う店が平気で存在する時代に、この映画を18年にわたって撮りだめてきた監督に心から敬意を表したいです。あえて言わせていただくと、オシャレな映画館よりも映写設備のある場末のカフェバーあたりで、タバコ吹かしながらマッタリと観たかったなぁ(^。^)y-〜
カザビー      ★★★★
 この作品は11の短編から構成されている。それぞれがカフェでの何気ない会話で、普通なら退屈なものになるはずなのだがこれがまた思いのほか面白かった! 間の取り方やちょっとした会話のセンスが抜群でじわじわとおかしさがこみあげてくる。 爆笑じゃなく「ププッ」と吹きだす感じ。鑑賞後、BGMの音楽も気にいったので某レコード店にサントラを買いに行く。 しかし、店員に「売り切れで今後の再入荷はありません。」と言われ凹んだ。誰かサントラ私に貸してください(切実)。
にしかわたく   ★★★☆
 高校のとき『ストレンジャー・ザン・パラダイス』にかぶれて以来、ジャームッシュとはもう20年近くのつきあいになる。 今思えば、このいかにも80年代的な脱力系のノリ、私にとっては唯一リアルな「青春映画」だった。それ以降新作が来るたびに劇場へ足を運んできて、 面白いのもあればつまらないのもあったが、10代の頃に感じたシンクロ感が蘇ることはなかった。 当たり前のことだが、作家も受け手も年を追うごとに変わっていくのだ。ジャームッシュが10年以上撮りためてきた短編をまとめた今回の新作を見ていると、 そんな時間の流れがひしひしと感じられ、なかなか感慨深かった。11本の中で一番好きだったのは、ぶっ飛んだビル・マーレイが素敵な「DELIRIUM」。
中沢志乃     ★★☆
 コーヒー/紅茶を飲みながら、いろいろな人が話す不思議なオムニバス映画。ギャグあり、哲学あり、涙(?)あり、最後にからくりありで、 もしかして監督は何かを訴えたいの?と思うが、今ひとつ何も訴えかけられない。「こういうこともあるよね」ということの先のメッセージが見えないのだ。 …これを受け止めるには長めのthinking timeが必要かも。思えば、早稲田松竹でジャームッシュ2本立てを見た時もそうだった。 前半は危うく"落ちそう"でしたが、好きなアルフレッド・モリーナで生き返りました!いかにもイギリス人らしい話し合い(かわし合い)が笑えます。


スパイダー・フォレスト/懺悔

監督・脚本:ソン・イルゴン
出演:カム・ウソン、ソ・ジョン、カン・ギョンホン、チャン・ヒョンソン
配給:ムービーアイ・エンタテインメント
http://www.zange-movie.jp/
スパイダー・フォレスト/懺悔

高井清子     
★★★★
 交通事故の昏睡状態から目覚め、自分が見た他殺体の記憶を辿って森の中へ……。途中その彼を見ている男性の影が誰なのか、その他のさまざまな謎も含め、 最後の最後まで展開が読めなかった。男に蘇る記憶を一緒に追いかけながら、同じように森をさまよっている不安感・ 恐怖を感じることができる巧みな構造でできている。最後にこの時間は、愛する人が与えてくれた懺悔の時間だと思ったとき、 この映画の邦題もまたすばらしいと思った。
伊藤洋次     ★★★
 冒頭から、思わず目をそむけたくなる衝撃的なシーンが続き、ぐぐっとストーリーに引き込まれる。 『殺人の追憶』や『オールドボーイ』ほどのレベルには届かないが、謎解きの面白さと展開のつなぎ方が巧みで印象に残る。 映画全体が醸し出す雰囲気も緊張感があっていい。ただ、ストーリーにもう少し目新しさがあっても良かったのでは。 最後までいくつか残る謎も、中途半端で消化不良の感じがする。観客をもう一回、映画館で見たくさせる要素はいっぱいあったのに、その点がもったいない。
鍵山直子     
 森の中の一軒家で殺人事件を目撃した主人公。興奮して道路に飛び出した彼は交通事故に遭い、記憶が曖昧に…。 物語はそんな主人公の記憶の断片を積み重ねながら、やたらミステリアスに進んでゆく。主人公を取り巻く3人の女。妻の死。婚約者の惨殺。 そして謎めいた女の登場。死体に群がるクモ。クモの森伝説とは…。何やらサイコ・ホラーっぽい匂いもプンプン。ツカミは良かった。しかし。 後半になると、いったいどこからどこまでが記憶なのか伝説なのか、謎めき過ぎてストーリーに付いて行けなかった。 どうしよう、樹海の森に迷い込んじゃったみたい!助けて下さ〜い!そんなわけで遭難しないためにも、誰かと一緒に見るのをお勧めします。 ツッコミ甲斐十分!


バッド・エデュケーション

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、フェレ・マルチネス、ハビエル・カマラ
配給:ギャガGシネマ
http://www.gaga.ne.jp/badeducation/
バッド・エデュケーション

カザビー      ★★★★★
 今回もアルモドバル節炸裂!!!ハートを撃ち抜かれました。間違いなくアルモドバル最高傑作と言えるでしょう。 あまりにも入りこみすぎてこのまま映画が終わってしまわなければいいとさえ思いました。とにかく観てください。 そしてガエル・ガルシア・ベルナルの魅力に溺れ、最後に究極の愛を知ってください。
山本聡子     ★★★★
 待ち焦がれたアルモドバルの新作、今回のテーマは"欲望"でした。それも男たちの欲望。男の裸オンパレードでよだれもんでしたが、 引き込まれるように見入ってしまったのは、その映像美以上に脚本の面白さゆえです。理性で隠しているけどみんな持っている人間の欲望をえぐり出し、 見事にエンターテインメント化してしまう。欲望と狂気、そして愛は同じものなのかもしれません。やっぱこの監督、人間への洞察力がすごいです。 最後まで真実がわからずサスペンスタッチでテンポもいいし、フランコ時代の修道院の様子は昔のスペイン映画みたいに美しい。 そして、女装も似合うガエル君に、惚れ直しました。
高井清子     ★★★★
 何だか見終わった後になって、妙にいつまでも男の涙が頭に残る作品だった。神父が愛する少年を見て潤ませる目、 映画撮影のクランクアップで思わず泣き出す弟アンヘル。どれもがどこか歪んだ愛の象徴だ。それでも禁じられた欲望や裏切りや悪意の底にある、 それを突き動かす抑えがたい衝動やある意味純粋な思いの強さに、人間らしい感情を思いっきり感じる。複雑で危険を秘めた愛は、 何も特別ではないのかもしれない。愛の本質的な切なさを教わった。
にしかわたく    ★★★★
 今回は私の好きな『ライブ・フレッシュ』タイプのサスペンス。しょっぱなからいかにもアルモドバルらしいスタイリッシュなタイトルバックで、 早くも映画にひきずりこまれた。単なる自伝的な作品で終わらせたくないという思いが強かったのか、非常に入り組んだストーリー展開で、 ガエル君の品のない女装に見とれてぼーっとしていたら訳がわかんなくなってしまった。 多少のばたつき感はあるものの、今回も映像と演出の力でごり押ししてみせるアルモドバル節は健在。 この人の映画見るといつも、強い酒飲んだときみたいな陶酔感に浸れる。堪能。
伊藤洋次      ★★★☆
 スクリーンから目が離せない――。それほどこの映画は「見せ方」が冴えていた。 物語の組み立て方が見事で、主人公であるイグナシオとエンリケの2人にどんな過去があり、今後どうなるのか、かなり気になるところ。 さらに荘厳な音楽が映画の雰囲気を引き立て、いや応なく気持ちを盛り上げる。このようにして観客は、アルモドバル監督の作る世界に吸い込まれていく。 ストーリーにはモヤモヤした感が残るかもしれないが、そういう人はぜひもう一度鑑賞を。監督の「演出」から解放されるとともに、 かなり違った見方ができるはず。2度、おいしさが味わえます。


シネ達日誌
イラストShall we Dance?
 このハリウッド作品は周防正行監督のオリジナルにかなり忠実に作られている。もしかして、原作者である周防さんから話や設定をあまり変えないように、といった要望があったのかもしれない。基本のストーリーに加え、竹中直人や渡辺えり子が演じたキャラクターもそのままだ。そんな中で新鮮だったのは、スーザン・サランドンが扮する妻の存在。妻としての女性の描かれ方が、やはりアメリカと日本では当然異なるが、その違いが今回の映画できちんと描かれているのがよかった。(古東久人)

2005.5.25 掲載

著者プロフィール
岡崎 圭 : ♀。現在無職。無類の邦画好き。邦画の推進と発展をライフワークと心に決めて勝手に活動中。今後の課題は新旧アダルト映画の研究。将来は映画コラム本を自主出版するのが夢。

中村勝則 : 1967年、岡山県生まれ。ヨコハマ映画祭選考委員。90年「キネマ旬報」で映画ライターデビュー。日本映画を中心に、VシネマやTVドラマの批評や取材記事を執筆。加えてスカパー!中毒ゆえ、最近は鈴木清順、岡本喜八、成瀬巳喜男、そして新東宝作品を録りまくってる日々。

カザビー :  1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。好きな監督は周防正行、矢口史靖、SABU、ペドロ・アルモドバル、セドリック・クラピッシュなど。 今年嬉しかった出来事は、三池崇史監督・塩田時敏さん・遠藤憲一さんからサインをもらったことと、きらきらアフロ・ザ・ムービーのイベントに行けたことです。

にしかわたく :  漫画とイラスト描いて暮らしてます。映画好きが高じて現在『季刊ロゼッターストーン』に「でんぐり映画館」連載中。 映画とコーラとポップコーンがあれば基本的に幸せ。「飲食禁止のスノッブ映画館を打倒する会」主宰(嘘)。

中沢志乃 :  1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。代表作は「ユー・ガット・サーブド」(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)。

高井清子 :  1966年愛媛県生まれ。企業勤めの後、1年間のロンドン遊学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画のプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をしています。ストレート・プレイ、ミュージカル、バレエ、歌舞伎などの観劇も大好き。

伊藤洋次 :  1977年、長野県生まれ。専門紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。映画を観て涙したことが一度しかないため、現在は泣ける映画を探索中。

鍵山直子 :  テレビ&FMラジオの構成作家。現在、i-modeとauの携帯サイトで『シネマ通信』、ボーダフォンで『シネマ・エキスプレス』を担当中。 遅れてきたヒュー・グラント・ファンです。

山本聡子 :  1973年生まれ。商社OL時代を経て、2000年より編集者を志す。現在は某メーカーにて、広報誌を作りながら、山雑誌のライターも兼業中。座右の銘は「歩くことは生きること」。当面の夢はスペイン、サンティアゴの巡礼道を完歩すること。ラテン人のように、明るく楽しく生きたいな〜と思う今日この頃。映画も男もラテン系が好きです。

古東久人 :  1959年生まれ。1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 映画雑誌に執筆。編著「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。 生涯のベストはブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。mixiネームは、Dr.コトー。

松本透 :  1974年生まれ。ネコ大好き。泡盛大好き。福岡ホークス頑張れ。サッカー日本代表頑張れ。田臥勇太のNBAデビューに落涙。強烈な映画体験求む!!現在は、なんやかんやとフリーランスな僕です。

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