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バックナンバー Vol.61

オーシャンズ13
遠くの空に消えた
ショートバス

シネマの達人が語るとっておきの一本 : 第8回 『キャット・ピープル』(1981・米)

(今月の監修:伊藤洋次)
巻頭コラム : 『ミリキタニの猫』

image  ニューヨークにすごい日系人画家がいた!  事実は小説より奇なり、といいますが、このドキュメンタリー映画は、まさしく奇跡のストーリーです。主人公の名はジミー・ミリキタニ。今年87歳の孤高の画家。1920年カリフォルニアに生まれ、3〜18歳までを広島で過ごす。しかし、戦時下の日本の体制に反発し、自由を求めて渡米。ところが、第二次世界大戦が勃発したことで、日系人強制収容所に送られる結果に…。

 アメリカに抵抗して自ら市民権を捨てた彼は出所後、反骨精神を胸に我が道を歩み続けるが、ついにはニューヨークでホームレスに。そして、あの9・11同時多発テロに遭遇するわけですが…ざっと文字で追うだけでも、想像を絶する人生としか言いようがありません。数奇な運命の中にあっても、決して誇りを失わないミリキタニ氏の生き様に、見る人誰もが勇気づけられます。そして、今まで感じたことのない感情が芽生えてきます。

 こんなに力強い映画を僕は見たことがありません。その理由は、ミリキタニ氏とリンダ監督の舞台発表に行ってわかりました。本作は当初「路上アーティストの四季」程度の記録のつもりが、ミリキタニ氏の話を聞くうちに大きく変化、成長したとのこと。まだ「続いている」物語なのです。
(文と写真:団長)

ミリキタニの猫※トライベッカ映画祭観客賞をはじめ、世界の映画祭で数々の受賞。 2007年9月8日より、ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!!
http://www.uplink.co.jp/thecatsofmirikitani/

原題 : 『THE CATS OF MIRIKITANI』
監督 : リンダ・ハッテンドーフ
撮影 : リンダ・ハッテンドーフ マサ・ヨシカワ
音楽 : ジョエル・グッドマン
出演 : ジミー・ツトム・ミリキタニ
     ジャニス・ミリキタニ、ロジャー・シモムラ


最新映画星取表 =1点、=0.5点。最高得点=5点

『オーシャンズ13』   
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン
配給:ワーナーブラザーズ映画 
http://www.oceans13.jp/
犯罪ドリームチーム「オーシャンズ」が繰り広げる大人気シリーズの3作目。メンバーのかたきを討つために集まったオーシャンズが、ラスベガスのホテルを舞台に壮大なリベンジ計画を実行する。

中沢志乃            ★★★★
 『オーシャンズ11』『オーシャンズ12』ときて3作目の今作。このシリーズの最大の見どころは大胆な盗みではなく、ジョージ・クルーニーとブラッド・ピットという年齢も近い2人が実生活さながらに仲よさそうに掛け合いをするシーンではないかと、私は思っています。リアルなネタも盛り込みつつ、今回も楽しそうで撮影現場が目に浮かぶようでした。が!今の時代、仕方がないのか、盗みに使う仕掛けの説明は細かくて少々ついていくのが大変。(私だけ?)そんなに説明せずとも「ルパン三世」のように映像で見せてくれるだけでもいいのにな。こうなったら昔のオリジナル版が見たくなりました!
高井清子            ★★★☆
 基本的には成功するという暗黙の了解があるわけだから、思いっきり意表を突いた技とか、失敗のどんでん返しとかをもっと見せてほしかった。前作や前々作ほどのハラハラドキドキ感が薄れてきたように感じる。全員とまではいわなくても、ここまで裏切りのない仲間たちの友情(男の人には当たり前?)に説得力を持たせるエピソードをもうちょっと盛り込んでもいいというか、私にはこれまでのようにロマンスなどのドラマが入っている方が好みです。個人的には、今回監視役に徹していたオーシャン(ジョージ・クルーニー)が主婦層に絶大な人気のオプリの番組を見ているシーンが、めちゃくちゃおかしかった。
伊藤洋次            ★★
 けっこうアッサリした作品でした。大物俳優が一堂に会し、しかもシリーズが3作も続いているだけに、どんなにスリリングで楽しめる映画なのかと期待していたのですが…。ジョージ・クルーニーが格好いいのはさておき、気になったのは今作でオーシャンズの対決相手、ホテルの悪徳オーナーを演じたアル・パチーノ。憎たらしさたっぷりで確かに上手いのだけれど、役柄がちょっと軽すぎ。その演技力と存在感は、他の作品で見たかった!



『遠くの空に消えた』   
監督:行定勲
出演:神木隆之介、大後寿々花、ささの友間、小日向文世
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
http://to-ku.gyao.jp/
空港建設で揺れる村に、父と一緒に都会からやって来た一人の少年。とある出来事をきっかけに村の悪ガキと仲良くなった彼は、大人たちの間でもがきながらも、村の子どもたちと力を合わせて小さな奇跡を起こす。

団長               ★★★★
 大人の理不尽さを前に、子どもの持つ素直さ、夢を信じる気持ちがとても心地好い作品でした。大人に任せているだけ、待っているだけでは何も変わらないと気づいた少年たち
が起こした奇跡…空き地に秘密基地を作ろうと燃えていた自分の子どもの頃を思い出しました。見た人それぞれが忘れていた何かを思い出したり、感じるところがあるでしょう。
信じれば、夢はかなう! そんな勇気を与えてくれます。ファンタジックなのにコミカルな雰囲気もよかったです。
伊藤洋次             ★★☆
 現役の日本人監督で好きな監督は?と聞かれたら、まっ先に「行定勲監督!」と答える私だが、この作品はどうも合わなかった…。音楽や映像はいいのだけれど、監督自身が7年温めたというストーリーの魅力がいまいち。例えばクライマックスの大事な場面でも、展開が見え見えで、見ている側として気持ちがついていけなかった。…と辛口批評はここまで。キャストの中では、ささの友間が特に素晴らしい。本人なりに演技に苦心している様子も見えるのだが、むしろその頑張っている姿に何度も心をくすぐられてしまった。日本のみならず、海外での活躍を期待したい。


『ショートバス』   
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:ポール・ドーソン、PJ・デボーイ、リー・ソックイン
配給:アスミック・エース
http://shortbus.jp/
『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルの待望の新作。ニューヨークを舞台に、人とのつながりや愛を求める男女7人を描いたドラマ。

悠木なつる          ★★★★
 セックスを真正面から捉えた本作は刺激に満ちている。なにせモザイクが多いこと! 特に、サロン『ショートバス』のフリーセックスシーンは、有無を言わせぬ迫力だ。全シーンのオーガズムが本物だという点に、監督の意気込みがうかがえる。でも、それでいて作品自体にエロチックさはない。それは、愛やセックスに思い悩む人々の姿が、温かな眼差しで綴られているからだ。以前、友人たちとセックスライフについて暴露し合ったことがある。その時、セックスは、とても奥深いものだと改めて思った。私の悩みも、『ショートバス』へ行けば解決するかしら? でも一度、足を踏み入れたら病みつきになりそう! 大切な人と一緒に観て愛を深めたい作品。
野川雅子           ★★★☆
 どこまでもリアルに赤裸々に、人間の性について描いた貴重な作品である。オーガズムが全て本物という事実に驚いたり、過激なシーンも数多く出てくるけれど、この映画を観た後、凄くあったかい気持ちに身体中が包まれた。それは、ショートバスに集う人達の沢山の愛が溢れていたから。どうして人は愛を求めるんだろう。そして愛に悩むんだろう。人間の心の根本を丁寧に繊細に描いた、星が瞬く夜空を眺めた時のように、心の中を幸せにしてくれる1本。特に印象的なのは、愛の歌をみんなで歌うラストシーン。満面の笑みで歌う姿を見ていたら、思わず涙が出る程に胸が熱くなった。好きな人を愛しく思うことの素晴らしさを、教えてもらった気がする。
中沢志乃           ★★★
 正直、感想に困る作品でした。様々な性を描いているようで、実はどうやっても拭いされないそれぞれの孤独感を描いているのかしら…なーんても思うには思いましたが、やはり100%感情移入はできなかったように思います。こんな悩みを持っている人も世の中には比較的大勢いるのでしょうが、私個人的には50歳ぐらいになった時に見直したい映画でした。
はたのえりこ         ★★★
 3組のセックスから始まるオープニング――これが主人公たちの紹介。かなり、赤裸々な自己紹介だ。『アイズ・ワイド・シャット』、『パフューム』、過激な性描写が注目された作品がいくつか思い当たるが、本作の彼らは現代を生きる普通の人々。性愛の傾向は十人十色とはいえ、その悩みは揃いも揃って同じだったりする。セックスを題材に提起されるコミュニケーションに関する問題。その解決の糸口は、まず自分に正直になって心を開放し、相手にそれを伝えることにあるようだ。これがけっこう難しいのだが、大好きな人と通じ合うためには相当の根気が必要! 最近何かと怠慢だった己を省みつつ、ライヴシーンのフィナーレで「愛は深いぞ!」と天の啓示を受けた気がした筆者だった。


シネマの達人が語るとっておきの一本 : 『キャット・ピープル』(1981・米)

 RKO製作の古典ホラー『キャット・ピープル』のリメイク。監督は『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』などスコセッシ作品の脚本で知られるポール・シュレイダー。主演ナスターシャ・キンスキー、共演マルコム・マクダウェル、ジョン・ハード。人間とセックスすると黒豹に変身してしまう“猫族”の娘の悲劇を描いた、エロチック・ホラーです。

イラスト 当時私は中一だったか中二だったか、近所の名画座で見ました。なんでこの映画だったかは覚えてません。たぶんホラーなら何でもよかったんだと思います。ナスターシャ・キンスキーはポランスキーの文芸ロマン『テス』ですでにブレイク後だったはずですが、私はこの映画で初めて彼女を見て、一発で参ってしまいました。エキゾチックな顔立ちで正統派の美人、どこかクセが強い感じがするところもツボでした(彼女の実父が怪優クラウス・キンスキーだということを後に知って納得)。何より、脱ぎっぷりがいいんです。当時は映倫もまだまだ保守的で、彼女が全裸で夜の森を彷徨うシーンなどは、画面の三分の一はあろうかという巨大なボカシが入っています(数年前に出たDVD版は未見ですが、今ならボカシなしでも公開できるレベルの露出度だと思います)。

 ホラー映画としても非常に出来がよく、豹に腕を喰いちぎられた男の傷口から白々とした骨がのぞくシーンなんかは背筋がぞくぞくしました。キンスキーに近親相姦を迫るマルコム・マクダウェルの粘着質な演技もたまりません。自分の胸に付着したゼリー状の皮膚を、鏡にむかってもぐもぐ食べるシーンの気持ち悪いこと!

 さらにこの映画は悲恋ものでもあります。愛する男と結ばれることを全身で欲してムラムラしまくっているのに、ヤっちゃったら、豹に変身した自分が恋人を食い殺してしまうかもしれないのです。主人公が最後に受け入れる悲しい運命に、中学生の私はシャツがぐしょぐしょになるくらい涙しました。

 鳥肌が立つくらい怖さに震え、悲しさに涙が止まらず、しかも同時に股間はびんびんに勃起しているという生まれて初めての訳のわからない状況。映画が終わって劇場を出た時は完全に放心状態で、時間がたつにつれ「すごいもんを見てしまった」という感慨がじわじわとこみ上げてきたのを覚えています。

 あれから20年以上たった今でも、「あの意味不明の興奮をもう一度」を合言葉に、私は映画館に通い続けています。良くも悪くも、この映画は私という人間を変えてしまいました。初体験の相手が一生忘れられないのと一緒です。世間的には失敗作との評判が大勢のB級ホラー『キャット・ピープル』ですが、間違いなく私にとっての“とっておきの1本”であります!

(文とイラスト:にしかわたく)

2007.10.26 掲載

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著者プロフィール
団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で"スイーツプリンス"の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。現在、トゥーン・ディズニー・チャンネルで吹替翻訳を手がけた『X-メン』が絶賛放映中。2月2日にデミ・ムーア主演『ゴースト・ライト』(字幕翻訳)、4月12日に『アメリカン・パイinハレンチ・マラソン大会』(字幕翻訳)発売。

高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。

悠木なつる : 1973年生まれ。紆余曲折あり、この春から堅気のOLへカムバック。映画ライターとの“二足のわらじ”を夢見て、ジャンルを問わず映画を観まくる日々。発売中の『映画イヤーブック2007』(愛育社)では、本名の“横○友○”で映画紹介記事とコラムを執筆。

野川雅子 : 1985年山形県生まれ。19歳で映画に出会い、それ以来、映画に恋愛中。人の心を描いた邦画が特に大好き。日本中に映画の魅力を幅広く伝えられる映画紹介をするのが夢。

はたのえりこ : 1979年東京都生まれ。今夏から翻訳関係の会社で人生再スタート。メジャー作品からB級ホラーまで、国籍は問わず何でもOKの雑食性です。

にしかわたく :  青年でも実業家でもない青年実業家。イラストとマンガで生計を立てる。「映画は三度のご飯より四度のおやつです」と公言するわりに、3本に1本の割合で居眠りする。単行本『僕と王様』発売中。詳しくはブログ「こんな映画に誰がした?」にて。http://takunishi.exblog.jp/

<監修>
伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

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