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第26回 「子どもにふさわしい進路の見つけ方」について


皆さんこんにちは。少子化の進行に伴い、大学の「入学者青田買い」が年々エスカレートしています。知人の大学関係者からは「年々入試が増えるばかりで…」という声も聞いています。学校の内申書の成績を重視した、従来からの「推薦入試」でしたら11月1日以降に実施しなければならないのですが、この数年急増中の、生徒の人格や特技を重視する「AO(アドミッション・オフィス)入試」ですと、実施時期の規定がないので、新年度早々入試を始める大学まで現れています。

保護者や生徒の心境からすれば、早く進路が決まれば精神的にも金銭的にも楽ですが、「早く進路が決まったからといって、幸せな未来が待っている」わけではありません。この点をよく理解しておいていただきたいものです。

今回は「子どもにふさわしい進路の見つけ方」についてとりあげます。第10回連載でも「進路指導」について考えましたが、今回は更に踏み込んで書きたいと思います。

放任主義を履き違えているのか、「どんな道に進んでも良いよ」と子どもに言うものの、では、「どんな道が世の中にあるのか」教員・保護者なりに示していないケースがあるのではないかと思うことがあります。

特に、高校生くらいになってくると、自分の能力、その学校からどういった進路に進む者が多いか、家計の状況などのことを全て総合して考えねばなりません。子どもに全て任せてしまっても、きちんと判断できる場合もあるでしょうが、実現が厳しいことを夢のように並べるだけ、自分では判断しきれない場合もあります。

厳しいかもしれませんが、思春期とは、自分が「何が得意で」、「何をしたいのか」、実現可能な範囲で考えていく時期でもあります。大きな理想を抱くことは良いと思いますが、それなら、その理想を「どうやって実現するつもりなのか」考える必要があるのではないでしょうか。実現が難しい理想を並べるのではなく、「実現できそうな理想」に向かって努力していくことが重要な時期なのです。

私が生徒と接していて、驚くのが、おとなしくて覇気がない生徒の中に「教員になりたい」と言う者がいることです。
  彼らに、「なぜ教員になりたいの」と聞くのですが、はっきりとした答えが返ってくることはあまりありません。教員になりたい、という生徒は他にもいますが、大多数はきちんと目標があり、明るくしっかりした良い生徒です。ですので、こちらの質問にはっきり答えることもできないような生徒が、そう言うのは奇異に見えるのです。

単に安定しているから、という理由で教員になれる時代は終わっていると私は思います。教員だけではありません。この連載でくり返し言っていますが、事務職の公務員でさえ、適性がなければ20代のうちに早期退職を迫られる世の中です。

また、自分の在籍している高校が難関校でなくても、公立校の場合は転勤がありますし、専門教科の学問についてレベルの高い知識がないと、公立校はもちろん、私立校でも採用してもらえません。それはもちろん大学で学ぶことなのですが、覇気がなくて教員を志望する者は、そのようなことに思い至らず、「先生は楽そうだ」と思い違いをしているのだろうか、と考えたりもします。このような者が教員になるには、大学時代に大変な自己改革と努力が必要なのではないでしょうか。

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また、理数系が苦手なのに、薬剤師になりたい、などと言う生徒もいます。薬学部に行くのは、理数系が得意な生徒が大半で、苦手だったら真剣に努力しなければ合格はまず難しいでしょう。

これからの世の中は、「自分に向いていること」でなければ、仕事をし続けることはできないでしょう。自分に何が向いているのか、ということは、学校の勉強、部活動、アルバイト、ボランティア…子どもの日常全てを通して探していく、と言っても言いすぎではありません。大学に行ったからと言って、だらだらと毎日過ごしていたら、向いていることが見つかるとも限りません。

だから、私はよく生徒にこう言います。「一生懸命物事に取り組まないと、何に向いているのかわからないよ、一生懸命取り組む中で、大人になったら何をしたいのか、探すんだよ。だから、自分なりに頑張りなさい。その人なりに努力していれば、必ず道は開けるんだよ」ということを。

私の中学・高校の同級生たちのその後の進路を見ても、向いていないのに、無理やりある仕事をしようとした人は、例外なくその仕事に就けていません。極端なケースでは、大学を卒業して、就職したのち退職、専門学校に入って老人介護について学んだ人がいました。その人は、卒業後、介護の仕事を志望したものの、学校の同級生が全て就職できたのに、自分だけ就職できなかったのです。介護の仕事は人材不足のはずなのに、そのようなことが起こるのです。気の毒ですが、面接などで、適性がないと判断されたのではないでしょうか。その人は、他の仕事で幸せに生きる道を見つけるしかないように感じました。

高校生くらいになったら、「何になりたいのか」ということを親子で話し合う必要があります。子どもの言動からわかる場合はいいでしょうが、わからない場合は、子どもの心境を見計らって、気持ちの安定している時に話をすれば良いのではないでしょうか。

「何になりたいのか」、という話が出ると、次に「そのためには何をすべきか」ということにつながると思います。たとえば、薬剤師になりたいのなら、大学の薬学部に進学しなければなりません。しかも、現在は4年制と6年制の課程があり、病院や薬局の薬剤師として働くのなら、基本的に6年制の課程に進学することが必要です(4年制の課程は、基本的に研究者を目指すための内容となっています)。

そして、その次には「実現できそうなのか」ということが出てきます。率直に言えば、薬学部を志望するのなら、理数系が得意でなければ合格は難しく、苦手なら、青春の全てを理数系の勉強に賭ける、くらいの意気込みでなければ合格できないでしょう。

更に、「家計の状況はどうなのか」、という問題に直面します。奨学金を利用することももちろん可能ですが、現在の制度では、奨学金を利用できるのは入学後です。つまり、最低限、「入学金と、最初に納める授業料を用意」できないのであれば、せっかく合格しても入学を取り消されてしまいます。なお、入学時に収める金額については、各大学の願書やHPで公開されています。
  (奨学金の利用開始時期は、制度上の問題ですので、私は、「入学したら利用できる」形で、入学前に予約できるような奨学金の制度に変更しなければならないと考えています)

現在の日本では、「保護者が子どもの教育資金を用意する」ことが当たり前になっていますが、教育費につぎ込みすぎて、保護者の老後の資金がなくなった、ということでは問題です。あくまでも「その家庭でどれだけ資金が用意できるか」試算をして、「大学に行かせたいが、これ以上は払えない」となったら、無理な部分は、奨学金や教育ローンを借り、本人に返させる形で構わないのではないでしょうか。子どもに自覚を持たせることで、必死に学生時代勉強することにもつながるでしょう。

なお、入学金を用意するのも難しそうであれば、高卒で就職し、お金を貯めてから社会人入学で大学生になることも可能です。社会人入学を認める大学は数多くあるのですから、家計の状況でやむをえなければ、そういったルートも考えて良いでしょう。

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今回は薬剤師志望のケースを例に考えましたが、最近は、カフェブームからでしょうか、女子生徒でも「経営学部で学んで、将来、自分のお店が開けたらいい」という者も多くいます。このこと自体は悪くないと思いますが、学生時代には経営の基本を学びつつ、アルバイトなどで接客を経験することも重要でしょうし、また、大学卒業後も、食品関係の会社などで経験を重ねる、といったことが必要になってくるでしょう。即座に起業してもいいでしょうが、それができる人ばかりでもないと思います。

現場で、私は「自分の力量を考えず、また、たいした努力もせずに楽観的なことばかり考える」、「実現が難しそうなことばかり目標にする」生徒を多く見てきました。細かいことではありますが、そのような生徒を減らすことで、ニートやフリーターを減らし、日本の明るい未来を作る一端とすることができるのではないか、と私は考えています。

2006.5.12 掲載

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