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第64回 「子どもを伸ばさない環境、教員」について

皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
  新年度が始まり、約2ヶ月が過ぎました。私は職業柄、生徒たちの身分証明書などの「過去」の写真と、「今、目の前」の生徒の顔を見比べることが多くあります。
  すると、たった数ヶ月前なのに、見違えるほど成長している生徒もいれば、新しい環境になったのに、ほとんど変わった印象がない生徒もいます。詳しくはblogで書きましたので、そちらをご参照いただきたいのですが、新しい環境に行けば子どもは自動的に成長するわけではありません。そのことはお忘れにならないでいただけたらと願います。

* * * * *

今回は「子どもを伸ばさない環境、教員」について考えます。
  少子化が進む現代日本では、一部地域の公・私立中学入試を除き、多くの入試が青田買いの場となっています。大学さえ、学生確保のためにAO入試・推薦入試を実施し、大学全体の入学者定員の3割程度がそれらの入試で合格しています。AO入試は、「アドミッションズオフィス」入試の略称で、大学の求める人物像に合致している人物を、プレゼンテーションやレポートなど、学力試験なしで募集します。
  ですが、これらの入学者は、高校までの学習が定着していないことも珍しくないので、国公立大学の場合、合格してもセンター試験の受験を課し、一定以上の点数以下だと不合格にするなどの措置が取られ始めました。なお、高校レベルの内容の補習も各大学で当然と化しています。
  この結果、現行のセンター試験を大幅に改編し、高校卒業程度の学力を保証する「高大接続テスト(仮称)」の実施も検討されています。この数年以内に実施の可能性が高いので、現在小学生以下のお子さんをお持ちの保護者の皆さんは、行方のご注視をお願いします。

このような「入試さえも困難を乗り越える場ではない」のが現在の日本ですので(各校の教員は生徒・学生に厳しく指導をするのですが)、どこかで「お客様扱いされる(自分たちの都合よく扱ってもらえる)」のが当然、それがいつまでも通用すると考える親子が多く存在していると感じます。
  たとえば、授業に集中できないクラスでは、このようなことを言った生徒がいました。
  「テスト範囲が終わらなかったら、遅いクラスに合わせて範囲が短くなるんでしょ」
  私が、
  「そんなことないのよ、インフルエンザとかでなく、クラスがうるさかったのなら、クラス全員、範囲が終わるまで放課後補習を受けてもらいます」
  そう言うと、生徒たちは想定外の話だったようで、顔色が変わりました。
  このように、勝手に自分たちの都合で物事を解釈・判断し、それが必ず通じると思っているのです。もし、年齢に応じて成長できていれば、このような質問で表れるはずです。
  「テスト範囲が終わらなかったらどうなるのですか」

更に、中学生(高校生)ならこの程度のことはできてほしいと思うこと、以前の同年齢の生徒ならできていたことが、できない生徒も目立ちます。
  私が授業で使用するため、教室に持参した持ち物に興味があり、私に無断でそれを取っていった生徒がいます。
 「黙って持っていくのは泥棒と同じなのよ、使いたいなら言うべき言葉があるわよね」
  こう諭した私に、その生徒は、
  「ちょうだい」
  と言いました。
  改めて書きますが、私は幼稚園や小学校で教えたことはなく、中学と高校の教員免許しか持っておりません。私は「貸して下さい」という言葉を期待していたので、開いた口がふさがりませんでした。(生徒が、悪意があって物を取るのか、甘えて取るのかは、顔色や態度を見れば一目瞭然です。この生徒に悪意は感じられませんでした)

もちろん、大多数の生徒は、勝手な思い込みで行動しませんし、幼稚な行動や発言もしません。私の持ち物に興味があれば、「使っていいですか」と聞く生徒も多くいます。
  でも、昔と異なり少子化で、保護者も「点」で我が子を見ているので、過保護や過干渉になっていても気づかないことも多いようです。また、「家で注意できないのでお願いします」という依頼をする保護者もいます。「一人っ子(末っ子)だから」と、家族が先回りして物事を行なってしまい、生徒ひとりになった時、その場にふさわしい行動や言動の取り方が分からず、呆然とするケース、また、家族の物を黙って使用しても見逃しているケースもあるように思います。
  また、「我が子に嫌われたくない」、「子どもとの間にストレスを生みたくない」などと、成長に必要な栄養価は考えず、子どもの好きなものしか作らない保護者もいます。

このような家庭の生徒をそのまま放置したら、就職できず、目的のないフリーターやニートを生み出すことも当然考えられます。学校で注意されても、家に帰れば元通りでは結局子どもの社会性などが身につきません。
  現在の日本は、「大学までは入りやすいが、就職のハードルが高い」状況です。私も、
  「今の日本では、就職先のほとんどが『お試し期間』を設けて、きちんと仕事ができるか判断しているの。人の話をきちんと聞けなかったり、思い込みなどで勝手な行動を取る人は、お試し期間の数ヶ月が終わったら、『もう二度と来ないで下さい』と言われるでしょうね。アルバイトなら、もっと簡単にクビなのよ」
  などと説明し、生徒に自覚を持たせるように促します。こう言うと、話を聞こうとしない生徒の多くは、「人の話を聞かなくても、人生で問題ない」とでも思っているのでしょうか、驚いた反応をしています。

20歳を過ぎるまで、甘やかされ放題にされ、また、自分の都合が最優先されると勘違いしてきた生徒が、突然、
  「人の話をきちんと聞かなければなりません」
  「相手の都合を考えてOB訪問しましょう」
  などと言われても、対応できないのもある意味当たり前ですし、
 「就職は面倒くさい」
  と、フリーターを選ぶ者がいてもやむを得ないのではないでしょうか。
  もちろん、「新卒一括採用」以外の選択肢がほとんどない日本の就職状況が良いとは思いません。ただ、それまで思いっきり甘やかされた生徒に、突然意識改革を求めても、20年近くぬるま湯に浸かってきたのですから、改革は大変な困難を極めます。

そこで、心ある教員は、保護者も含めて話をして、改善を働きかけます。ですが、
  「指導するのは面倒くさい」
  「注意すれば嫌われるから、嫌だ」
  「どうせ数年たてば自分の目の前からいなくなるから、改善しようがしまいが知ったことではない」
  などと考え、注意しない教員が存在します。複数校に勤務経験がある私が思い返しても、残念ながら、どの学校にも存在するように感じます。総じて、そのような教員のクラスは落ち着きがなく、成績も学年の中で低く、また、クラスもゴミが床に多く落ち、汚れています。すべて、「改善しなくても誰からも怒られないから」起きることです。
  現在の教員免許更新制度で、このような教員を不適格にすることができれば良いかも知れませんが、残念ながらそのようなシステムはありません。

でも、このような教員にお子さんを任せていれば、お子さんは成長できません。つまり、「時間とお金と手間ひまをかけ、わざわざお子さんをだめにしている」ことにしかならないのです。

このようなことを防ぐには、どうしたら良いのでしょうか。
  保護者会や授業の様子などで教員が「注意しない」様子だと感じたら、複数の保護者で「子どものためにしっかり注意して下さい」と申し入れたり、それでも改善がなければ、学年主任(部長)などに相談されると良いと思います。

ご家庭では、このような視点でお子さんを育てられると良いと私は考えます。
  かけがえのないお子さんなのですから、愛情を注ぐのは重要で素晴らしいことです。でも、それは「注意しない」こととは一体ではありません。
  「この子が成長し、もし自分の同じ職場に来て、一緒に働くことになったら、気持ちよく仕事ができるか」という視点を忘れずに、ご注意されることをおすすめします。

そうすると、「法律を守る」、「嘘をつかない」、「友だちを悪意で利用しない」、「時間や金銭にルーズにならない」といった、基本的なことが注意できるのではないでしょうか。

私には幸いにも、さまざまな職業の知人がいます。職業別に求められる専門的知識やスキルはもちろん異なりますが、知人の皆さんのお話を見聞きしていると、上に書いた基本的なことが欠落していないことが、まず何よりも重要であると感じます。
  別の言い方をすれば、このような基本的なことが守れていれば、あとは個人の適性や努力が大事、ということです。

昨年秋、Jリーグの試合で準優勝したチームの選手が、準優勝の結果に不服で、表彰式で失礼な態度を取り、メダルを投げ捨てたりした事件がありました。
  彼らは幼い頃からサッカーに全てを捧げて努力した結果、Jリーガーになれたはずですが、「ある日突然、立派なJリーガー」になれるわけではありません。「後輩の手本になる行動を」と適切に指導をする指導者がいて、また、選手自身に聞く耳があれば、Jリーガーになった時、正しい判断ができる社会人になれているはずです。

それが、「勝てば何をしても許される」と思う指導者のもとにいたり、あるいは、選手がそのように考えて、厳しい指導も全て聞き流していたら、社会人になっても正しい判断ができないのは、ある意味当然です。
  お子さんをこのチームの選手と同じ道に進ませたいかどうかお考えになれば、おのずと、取られる行動は決まってくるのではないでしょうか。


【今回のまとめ】
  1. 少子化で(一部地域の私立中学入試を除き)入試が青田買いの場となっているので、「お客様扱いされる(自分たちの都合よく扱ってもらえる)」のが当然、それがいつまでも通用すると考える親子が多く存在する
  2. 「社会に出ればそのようなことは通じない」と指摘、指導してくれる教員がいれば良いが、「生徒に嫌われたくない、どうせ数年経てば目の前からいなくなるので」などと、子どもを甘やかす教員も多くいる
  3. 家庭と学校の連携した教育・指導が大事なのに、「家で出来ないから、家での教育は二の次で、学校にお願いをする」ケースも目立つが、学校では甘やかされることもあるし、また、厳しく指導されても、家に帰れば元通りでは結局子どもの社会性などが身につかない
  4. 私立校に行かせ、通常以上に資金を投じて育てても、このようなことは起こりえる
  5. 仕事は慈善事業ではなく、社会性のない人間を就職させてくれる会社は基本的に存在しない、社会性のなさがわかれば制裁を受ける可能性もある、「我が子にお金と手間ひまをかけた結果が、社会性のない人間にしたい」と思うのでなければ、適切な指導をしてくれるよう学校にお願いすべき
  6. 保護者は「我が子が成長し、もし自分の同じ職場に来て、一緒に働くことになったら、気持ちよく仕事ができるか」という視点で育てると良い

2010.6.7 掲載

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