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第75回 「思考力」について


皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
  北半球ではこの冬、20年ぶりの寒波が襲来しました。日本でも北日本を中心に豪雪に見舞われ、雪下ろしなどの作業で亡くなられる方も多く出ています。被害に遭われた皆様にお悔やみとお見舞いを申し上げます。

20年ぶりの寒波、ということは、10代以下の皆さんにとっては、「生まれて初めての寒波」ですので、節電の中、体調管理なども大変だったと思います。今は防寒下着、腹巻、タイツなどが男女それぞれにありますので、上手に使って健康を維持したいものです。春は目の前まで来ています、寒くても顔を上げて進んでいきましょう。

教育問題で私が最近気になるのは、橋下大阪市長が、「義務教育期間でも成績が振るわない子どもは、留年をさせられないか」という考えを打ち出していることです。留年が難しいのであれば、「学力が一定以下の子どもを、地区ごとに空き校舎に集め、数週間補習を受けさせるのはどうか」という考えも新たに打ち出しました(2012.2.24現在)。確かに、現在の教育制度下でも留年はさせられますが、ほとんど行なわれていないのが実情です。その結果、「勉強が小・中学生レベルで止まったままの高校生や大学生」などが出ており、高校や大学で本人が苦しんでいるのが現実です。
  この問題は改めて取り上げたいと思っていますので、今回は深く取り上げません。ただ、今どうしても申し上げておきたいことがあります。それは、「低所得者層の子どもが、勉強したいと思っても、家庭に金銭的に余裕がないので放置され、留年につながる」ことだけは避けねばならず、公的支援が欠かせないだろう、ということです。

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今回のテーマは、「思考力」について、です。2011年度、小学校で学習指導要領が改訂されました。4月からの2012年度は中学と高校(理数系科目など一部のみ前倒しで実施)、2013年度は高校(全面的実施)と順に改訂されていきます。小学校では英語が必修化、また、中学では男女ともに武道が必修化され(この件では反対意見も噴出し、私も心配する点が多くあります)、そして、高校では英語の授業はすべて英語で行なわれることになっています。
  その中で、判断力・表現力とともに、思考力を養うことが従来よりも重視されています。国語では言うまでもありませんし、他の教科でも養っていくべきものだと私は考えます。

なぜなら、子どものうちは大人に保護されて、指示を聞いていれば済みますが、やがて成人し、社会に出れば、指示待ちだけで生きていけることは少なく、子どものうちから考える習慣をつけねばならないからです。特に、現在のように、社会が猛スピードで変化していき、価値観も多様な社会では、教わったことを自分なりに考え、また、他の要素も交えてふくらませて良い物を出して行かねばなりません。その際に、筋道を立てて、論理的に思考する力が必要となります。どんな仕事に就く場合でも、今後必要不可欠な能力になると私は考えています。

もちろん、それを的確に判断し、同時に表現することも併せて求められますが、それらに関しては、連載第67回「想像力と共感力」について、第70回「読書感想文・小論文の基本的書き方」について、などをご参照願います。

ところで、最近の大学生の就職活動では、出身高校を重視する動きも増えている、という新聞記事などを見ます。たとえば、「大学受験をせず、付属校から進学していると、試練に耐えられない」、「勉強漬けにさせて難関大学へ合格させる、新興勢力の高校から難関大学に入った場合、趣味などが少なくて人間性にゆとりがない」などの理由からだそうです。

高校教員の立場から見れば、最近は大学受験と言っても、AOや推薦入試が増加しています。極端な場合、それらの提出書類では、本来生徒の書くべき応募作文まで、担任などが代わりに書くケースも見ます。ですので、「付属校以外からの進学=試練に耐えられる」とは決して言えないと感じます。企業でも、試練に耐えられると判断して採用した人物が早々に退職するケースが増えれば、エントリーシートに「大学入試の内容(AO、指定校推薦など)」を書かせるようになる日が遠からず来るだろう、私はそう考えています。

就職活動を取り上げるまでもなく、中学・高校時代の過ごし方は大変重要です。学業、対人関係、スポーツ、あらゆる面で「成人して生きていく上での土台」作りの時期だと私は考えて指導しています。その中でも、思考力を養うことは、指示待ち人間にならず、厳しい世の中を生き残るためでも重要ではないでしょうか。

その、思考力の養成に関しては、学校間で大きく差があると感じます。もっとも明確に表れるのは、学校行事や定期テストです。スピーチや弁論大会、また、ディベートなどを積極的に導入する学校がある一方、それらとほぼ無縁の行事予定を組む学校も、いまだに存在します。文化祭でも、何かについて調査したことを展示したり、来客にアンケートをとって、事前、また事後に考えさせている学校と、そのようなことはあまりせず、「生徒が楽しい」ことに重きが置かれている学校とが存在します。

また、読書の習慣をつけさせようとしている学校と、そうでない学校もあります。始業前の朝学習に取り入れたり、また、読書メモなどを書かせている学校と、たまにしか読むことを薦めない学校に通うのとでは、3年後、あるいは6年後に知識や感性の蓄積で大変な差が生まれるのは、通う前から明らかに分かることです。

そして、定期テストを見ると、思考力を養成しようとする学校では、国語はもちろん、社会、保健、家庭科など、あらゆる教科で論述問題を出題しています。しかし、そうでない学校では、国語でも記号や暗記物をやたらに増やそうとする教員がいるのが実情です。国語でそうなのですから、他の教科は言うまでもありません。そういった学校の定期テストは、まじめに覚えてきた生徒は早く終了して、暇をもてあましています。暗記物中心のテストばかり受けていては、暗記する力はついても、思考力を養えるはずがありません。
  定期テストで暗記物の出題が多いのは、「部活の指導が忙しい」、「深く考えさせるノウハウが少ないし、指導方法を変えるのが面倒」などの良くない理由が隠されているように感じます。

こういう環境に浸かって育った生徒が、ある日突然、「自分で考えなさい」と言っても当然対処できませんし、それまでで自分なりに考えつつ、周囲のアドバイスをもらいながら対処してきた者と、そうでない者とでは雲泥の差が出ています。
  なお、暗記物や一般的なペーパーテストでは好成績を取るのですが、国語で言えば小論文などの課題を嫌がり、極端な場合、提出をしない生徒も存在します。このような生徒は、たとえ難関大学に進学しても、その後の人生で苦しむことになるのではないでしょうか。

もし同じくらいのレベルの学校で進学を迷ったら、私は、「思考力をつけてくれるかどうか」ということを、指針のひとつにして良いと考えます。情報収集は、学校が公式サイトやパンフレットに出す情報、また、お子さんの上級生、また、塾などが良いのではないでしょうか。地元の塾では、定期テストの問題も保管しているケースも多いようですから、可能ならば複数校を比較していただきたいです。

学校に限らず、思考力を養うことは、家庭でも重要です。「なぜだろうね」という投げかけを多くの場面でしてほしいです。もちろん、保護者の皆さんが知っている範囲のことからで構いません。

最近気になるのが、「難しい問題を投げかけっぱなしにする」大人がいることです。「原発についてどう思うか」など、教員の見解を示さずに生徒に考えさせようとしている学校もあるようです。大変難しい問題ですが、世の中のさまざまな立場を示し、また、生徒に何か調べさせた上で、教員個人の見解を示さねば、生徒にも考えることは不可能ではないでしょうか。

そして、分からない時は知ったかぶりや放置をせず、一緒に考えたり、調べさせたり、学校で聞いて来させて欲しいです。中学以上の教員はその道の専門家で、他教科の教員の話は大人でも面白いです。私自身、中学・高校と、さまざまな教科の先生に質問するのが、とても楽しく、興味深かったことを覚えています。それは先生に恵まれたことでもあったのだと、今、振り返って深く感謝しています。

教員として働く現在も、やはり、どの教科の教員も専門家なので、話を聞くと新発見が多くありますし、また、その知恵をうまく集めたい、と常に考えています。

生きるのに難しい時代ではありますが、だからこそ、ものごとに対し、深く考えて対処していく力は重要となります。そのことを、ひとりでも多くの教育関係者、また、保護者の皆さんが受け止め、日本の多くの学校で思考力を適切に養う方向に向かって欲しい、心から私はそう願います。



【今回のまとめ】
  1. 社会に出れば、指示待ちだけで生きていけることは少ない。教わったことを自分なりに考え、また、他の要素も交え、良い物を出して行かねばならない。その際、論理的な思考力が必要
  2. 大学生の就職活動では出身高校も見る動きが出ており、また、思春期は学業、対人関係、スポーツ、あらゆる面で「成人して生きていく上での土台」作りの時期。その中で、思考力を養うことは、指示待ち人間にならず、厳しい世の中を生き残るためでも重要
  3. 思考力養成は学校間で差がはなはだしく、学校行事や定期テストなどで判断できる。同レベルで進学を迷ったら、思考力をつけさせてくれる学校に行くべき
  4. 思考力を養うことは、家庭でも実践して欲しい。「なぜだろうね」という問いかけを続け、また、難しい問題を投げかけっぱなしにしないでほしい。分からない時は知ったかぶりや放置をせず、一緒に考えたり、また、子どもに調べさせたり、学校で聞いて来させるのも良い

2012.3.2 掲載

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