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第84回 「気候変動による学校生活への提言」


皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
  今年の夏は大変な暑さでした。体調を崩した方も多くいたのではないでしょうか。夏の間、具合が悪かった方も、もう体調は戻られたでしょうか。

この暑さは、もともと夏の暑さをもたらす太平洋高気圧が全国を覆っているのに加え、中国大陸からの高気圧も日本列島まで張り出していたのが原因だったようです。大阪府ではアメリカンフットボールの部活中に、高校生が熱中症で亡くなる事故が発生しました。将来を期待されていた選手だったそうです。高校生とご遺族、ご関係者の皆様にお悔やみとお見舞いを申し上げます。この話は今回の話題に関わるので、後ほど改めて取り上げます。

また、地上の暑さと上空の秋の空気の到来で、温度差が大きくなり、今月初めには関東でも竜巻が発生しました。また、中旬には台風18号が全国各地に被害をもたらしました。被害に遭われた皆様に、心からお見舞いを申し上げます。
  台風は予測できるので備えが可能ですが、竜巻は突然発生し、予測も難しいと言われます。竜巻が起きたら、窓やカーテンを閉めて丈夫な部屋に逃げる、外では側溝などに入るのも有効、と聞きました。いつ、どこで起こるともわからない竜巻への備え方も、もっと伝えられるべきではないかと感じました。

* * * * *

今回は、「気候変動による学校生活への提言」という内容です。
  今年、2013年の夏は西日本で史上最高の暑さ、東日本でも3位タイでした。熱中症で救急搬送される人も多く、亡くなる方も毎日のように出ました。改めてご冥福をお祈り申し上げます。
  夏の暑さは今年に限ったことではなく、4年連続の現象です。来年はどうなるかまだわかりませんが、もし来年も夏の暑さが過酷でしたら、「暑い夏が当たり前である」と概念を変えねばならないように私は考えています。

もともと湿度の高い日本の気候に加え、特に都市部ではヒートアイランド現象で、夜になっても気温があまり下がりません。最低気温が30度付近のままで朝になる、という天気予報も、今年の夏は当たり前のように見ました。この暑さを、休養や栄養が不足した状態で過ごすと、体へのダメージは大きく、体調を崩す人が多く出るのも、ある意味当然ではないかと感じます。

熱中症を最も多く発症するのは高齢者ですが、子どもを見ると、体温調節をしにくいはずの乳幼児より、小学生から高校生にあたる年代で、最大でおよそ19倍もの患者が出ています。乳幼児は0〜6歳、小学生から高校生にあたる年代は7〜18歳なので、(各年齢の子どもの数を考慮に入れずに)大まかに考えれば、およそ2倍増で済むのではないでしょうか。

月/年代 乳幼児 7〜18歳
6月 60 617
7月 177 3,337
8月 188 2,917
(数字はすべて人数)
※総務省消防庁・熱中症情報「平成25年6月の熱中症による救急搬送の状況」〜「平成25年8月の熱中症による救急搬送の状況」
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList9_2.html

この数字は、保護者や保育者などが暑さから守ろうとする乳幼児よりも、児童・生徒が学校の授業や部活動での運動などで危険にさらされたという結果を物語っているのではないでしょうか。暑い7月に体力テストでマラソンを実施し、熱中症の生徒が多く出た、という話も見ました。学校で大勢の救急搬送患者が出れば、地域で救急車が不足し、他の患者に影響が出ることもあるかもしれません。学校関係者はそのことを考慮に入れて、暑い日の学校行事を実施すべきだと私は考えます。

部活動で練習中の子どもは、「怠けていると思われる」、「他の子から遅れるのがいやだ」などの理由で、具合が悪くなっても顧問に言いにくい場合もあるようです(※)。その結果、倒れるまで運動を続けてしまうのではないでしょうか。

※参考:スマートサーベイ【調査リリース】
10代の熱中症対策は大丈夫!? 「全くしていない」「滅多にしていない」合計で48%
https://www.smartsurvey.jp/board/press_view/92

なお、練習ではありませんが、この夏の高校野球、東・西東京都大会の開会式は、梅雨明け翌日、7/6に神宮球場で実施されました。最高気温がおよそ34度にもなり、選手の中には、炎天下で2時間近く立っていたため、担架で運ばれた者も出ました。

今年の暑さで、炎天下の高校野球の試合は避けるべき、という話題も複数見ましたが、教育現場で見ていて感じるのは、帽子を被ってプレーする野球より、頭を保護しないサッカーやラグビー、また、重い防具を装着するアメリカンフットボールなどのほうが、よほど危険度が高いということです。野球のようにテレビ中継がないので、世間の方々が気づきにくいだけだと感じます。最初にも書きましたが、実際、アメフトでは死者も出てしまいました。

熱中症での事故を防ぐために、各指導者も工夫をしています。午後の早い時間は練習ではなく昼寝や勉強をさせる方もいますし、スポーツ団体の中には「気温○○度以上での練習・試合禁止」などと指針を示すところもあります。たとえば、日本アメリカンフットボール協会安全対策委員会が2010年に加盟団体に示した合意事項では、

「7/20-8/20の正午〜15時で気温30度以上の時は練習や試合を自粛し、他の期間でも高温多湿の時間帯の練習を避ける」
となっているそうです。

ですが、試合自粛のルールを厳格に守ると、試合で予定された日程を消化できなくなるので、結局は試合をせざるを得ないと感じます(なお、日本アメリカンフットボール協会は今回の事故を受け、8/29に出した「熱中症再発防止提言」で、「国内の高温気象が常態化している実態を踏まえ、日本国内全体でフットボールシーズンの見直しを検討する時期に来ているのではないか」と述べています)。

日中を避けて午前や夕方の試合開始、とする競技も多いものの、都市化でコンクリートにたまった熱は夜も下がらず、結局朝から気温が高いため、午前中から熱中症の危険度は高いのです。アメフトの事件も、午前11時過ぎのできごとだったそうです。

今年の暑さが4年連続だったことと、暑さが過酷だったこと、そして、学校の年間行事予定などを見ていて、次のように私は考えました。
  そもそも学校が長期休暇期間であるため、生徒たちは、朝から夕方まで、酷暑の中で練習や試合をしなければならないのです。気候変動による暑さが常態化するのであれば、いっそ夏休みを旧盆の1週間程度にし、夏は通常授業、秋に長期休暇をずらすことも考えるべきではないでしょうか(旧盆期間は休みの会社も多いので、保護者とともに過ごすため、基本的に部活動禁止期間とします)。通常授業なら、運動部の練習も基本的に午後遅い時間からになるので、熱中症事故は減るはずです。秋に長期休みがあれば、運動も勉強も思う存分できます。そして、暑い中での指導や引率などが減るので、教員の肉体的負担も減るのではないでしょうか。

スポーツの最中、暑さで体調を崩す子どもの話題になると、いまだに、「根性が足りない」、「練習不足」などという言葉を持ち出す方がいます。ですが、この暑さは大人世代が子どもだった頃とは明らかに質の違うものになってきています。そのことを念頭に置いて、抜本的に学校生活のあり方を変えることも考えても良いのではないでしょうか。少子化で、子どもの死亡事故は「その家の子どもが誰もいなくなる」ことにつながることも多く、保護者の喪失感や悲しみを思うと、このような事故は防ぎたい、と強く感じます。この記事がきっかけとなり、多くの方に暑さと学校生活の関係について考えていただければ、と願います。


【今回のまとめ】
  1. 今年の夏は西日本で史上最高の暑さ、東日本でも3位タイだった。夏の暑さは4年連続で、来年も夏の暑さが過酷であれば「暑い夏が当たり前である」と概念を変える時期に来ていると言えるかもしれない。高温多湿に加え、都市部ではヒートアイランド現象で気温が下がらぬまま朝になる。熱中症で救急搬送される人も多く、亡くなる方も毎日のようにいた。熱中症を最も多く発症するのは高齢者だが、子どもを見ると、体温調節をしにくいはずの乳幼児より、小学生から高校生にあたる年代のほうが、最大で19倍も多い。これは、授業や部活動での運動などが原因ではないか
  2. 部活動の子どもは、「怠けていると思われる」、「他の子から遅れるのがいやだ」などの理由で、練習中具合が悪くなっても顧問に言いにくい場合もある。また、今年の暑さで炎天下の甲子園での試合を避けるべき、という話題が多く出たが、帽子を被ってプレーする野球より、頭を保護しないサッカーやラグビー、また、重い防具を装着するアメリカンフットボールなどのほうが、よほど危険度が高いと現場で感じる。熱中症での事故を防ぐため、スポーツ団体の中には「気温○○度以上での練習・試合禁止」などと指針を示すところもあるが、厳格に守っていたら、この暑さでは試合はほぼできなくなり、予定された日程を消化できなくなるので、結局は試合をせざるを得ないだろう。日中を避け午前や夕方の試合開始、とする競技も多いものの、都市化でコンクリートにたまった熱は夜も下がらず、結局朝から気温が高いので、午前中から熱中症の危険度は高い
  3. そもそも学校が長期休暇期間であるため、生徒は朝から夕方まで暑い中練習・試合をしなければならない事態になる。気候変動による暑さが常態化するのであれば、夏休みを旧盆の1週間程度にし、夏は通常授業、秋に長期休暇をずらすことも考えるべきではないか。通常授業なら運動部の練習も午後遅い時間からになるので、熱中症事故は減るはず

2013.9.27 掲載

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