ロゼッタストーン コミュニケーションをテーマにした総合出版社 サイトマップ ロゼッタストーンとは
ロゼッタストーンWEB連載
出版物の案内
会社案内

第89回 「日本の中学生に必要な支援」を考える

皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
  夏休みは、教員にとって研修が多く行なわれる期間でもあります。私も今年参加した研修で、公立校勤務の先生方と多く話をしました。

その際気になったのが、カウンセラーの出勤日数について、でした。ある都内の公立中では「週1日」と聞き、思わず私は、「それで充分対応ができていますか」と尋ねてしまいました。お返事は、「不登校など、以前から対応してもらっている保護者などの相談でいっぱいになってしまい、新しい相談者を受け入れる余地がない」とのことでした。

私が今まで勤務して来た私立校では、週3日以上というのが一般的でしたので、この話には大変驚きました。そして、「もっと予算を割いてカウンセラーさんに来ていただかないと、子どもや保護者の悩みの行き場がない」と不安になりました。

そんな矢先、大阪府で中学1年生の生徒2名が見ず知らずの男性に殺害されるという、何とも痛ましい事件が発生しました。被害者のご遺族、ご関係の皆様に心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。

そして、この事件の報道で、「事件前はカウンセラーの勤務が週1日だったが、事件後は増やす」とあったのを見て、思わず私は「死んでからでは遅いでしょう!」と叫んでしまいました。もちろん、被害者の同級生たちへのケアは必要ですが、事件前に悩みをもっと聞けるシステムがあれば、悲劇は防げたのではないか、と悔やまれてなりません。

今回は、この事件を受け、「日本の中学生に必要な支援」について考えます。
  中学に進学すると、「中1プロブレム」と言われるような、教科でのつまずきが起こりやすくなることが教育関係者を中心に知られています。各教科の進度が速くなり、また、定期テストも開始されるので、それまで学習習慣があまりついていなかった生徒や、学習方法が分からない生徒などは不登校になることもあります。

最近はこういう問題に対し、放課後に元教員や大学生などのボランティアを中心とした「学習教室」を開催している自治体が増えており、良い傾向です。もし困った場合は、このような制度がないか、お住まいの自治体で調べて下さい。

勉強以外では、部活動に関する悩みや、学年の上下関係の悩みなど、小学校では見られなかった問題が発生することが多いです。そして、前回連載「日本の子どもの貧困」を考える、でも書きましたが、貧困家庭の子どもは費用などの関係で部活動に参加しにくく、家庭や公園などで暇つぶしをしたりしていることもあるのではないかと、大変気がかりです。

また、見逃せないのが、児童館などの公共施設は「小学生向け」なので、中学生にとっては「落ち着いて過ごせる居場所がない」点です。中学生になるとスマートフォンなどを持たされている場合も多く、その結果「連絡が取れれば良い」と、帰宅が遅くなっても保護者が黙認している場合もあると感じます。今回の大阪府での事件も、繁華街を一晩中徘徊していて、早朝、容疑者に連れ去られた疑いが報じられています。

このような現状を踏まえ、早急に、学校のカウンセラーの勤務日数を増やすのはもちろん、中高生の子どもが「勉強をしたり、大学生などと話をしたり、とにかく居場所となれる場所」を作る必要があります。そのような活動をしている団体もありますので、他地域でも取り組みを真似することが可能だと考えます。

今の子どもは少子化で、幅広い年代の方と接する機会が少なく、家族以外に、保護者や教員など、限られた大人としか接していないケースも珍しくありません。親戚も、そもそも親のいずれかが一人っ子なら伯父伯母(叔父叔母)がおらず、いとこもいないことになります。多くの大人と接することで、新しい視点からのヒントをもらえたりすることも多いので、幅広い世代の、多くの大人と接する機会を現代の子どもたちにも、もっと持って欲しいです。

そして、子どもの問題を考える時、保護者の抱える悩みも見過ごせません。今回の大阪府での事件に関し、あくまで報道で見聞きする限りですが、殺害された女子生徒は「保護者に怒られてばかりいることが悩みで、簡易テントを買い、庭で寝たりしていた」という話があります。

これを聞き、「子どもだけでなく、誰がこの保護者の悩みを聞いていたのだろうか」と悲しくなりました。最近、教育現場では、「子どもを怒ってばかりいる、学校にクレームばかりつける」などの保護者には、「保護者にも学習障害などの問題がある可能性」が指摘されています(事件の被害者の保護者に私は面識がないので、断言することは控えます)。

ただ、保護者へのケアで子どもの悩みが改善することがあるのを見逃してはなりません。この面でも、カウンセラーなど、教育関係者の連携した支援が必要です。

今回も、被害者生徒の悩みを誰か大人が聞き、「子どもの悩みについて聞く」という形で、「保護者がカウンセリングなどで来校する」方向で動くことができたら、深夜に徘徊することも減り、惨劇は防げたように感じます。

そして、最近は保護者のいずれかが外国人の、国際結婚の家庭で育った子ども、日系ブラジル人の家庭で育った子どもなど、保護者が外国人、という家庭で育つ子どもが増えていると感じます。国際結婚、ハーフの子どもと聞くと、カタカナの名前を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、実際には(日本で生きて行くことを考えてでしょうか)漢字の名前がついている子どもも多く、名前だけでは分からずに、子どもの自己紹介や、保護者に関する資料などを見て気づくことも多いと現場で感じます。

スポーツの世界で、国際結婚で生まれた子どもの活躍が取り上げられることが目立っていることにお気づきの方も多いと思います。日本人にない身体能力を活かした彼らの活躍は素晴らしいですし、もちろん、活躍の裏には血のにじむような努力もしていることでしょう。

国際結婚に関しては、以下のようなデータがあります。

結婚の総数 国際結婚の総数
1970年(昭和45年) 約1,029,000組 約 5,500組
2001年(平成13年) 約 800,000組 約39,000組
※参考・厚生労働省 人口動態統計
「婚姻 第2表 夫妻の国籍別にみた婚姻件数の年次推移」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii04/marr2.html

このデータから考えると、国際結婚の割合は、「45年前は、約187組に1組」だったのが、「14年前は、約20組に1組」となります。急激に増えていることが数値にも表れています。そして、14年前に結婚した家庭で生まれた第一子は、恐らく、中学生にさしかかる年代だということに気づいていただきたいです。

ただ、このような国際結婚などの家庭が増加する中で、保護者が日本の教育状況を理解できているか不安な部分もあります。たとえば、日系ブラジル人などの家庭の子どもなど、保護者が日本語の理解が不十分で、子どもが通訳として官公庁などに同行する、受験のことで保護者が相談に乗ることができない、などの話を見聞きしています。こういう家庭で育つ子どもは、国際感覚が豊かになる一方で、保護者が日本の教育事情に詳しくない場合、進路を考える際などに困ることもあると想定できます。

そして、保護者が国際結婚をした後、離婚をして、「外国籍の保護者一人のもとで、子どもが育つ」ケースも当然存在します。こういう家庭では、なおのこと進路のことなど、親子とも不安なのではないでしょうか。

高校受験の際など、充分考えた上で学校を選択しないと、のちのちの就職などの際にも影響が出ることが考えられます。高校受験は一般的に都道府県立高校と私立高校の組み合わせで受けますので、たとえば都道府県ごとに、外国籍の保護者の相談に乗る部署を作り、周知徹底させ、親子を含めたサポートをしていくことも緊急の課題だと考えます。
  なお、高校に関する話題は、次回連載で取り上げる予定です。

最後に、非常に悲しいですが、登校時など、突発的に電車に飛び込み自殺する子どもの話題も後を絶ちません。子どもに限りませんが、人身事故を起こすと、遺族は、一般的に鉄道会社から数千万円の損害賠償を要求されます

鉄道で自殺したら、遺族は悲しみと巨額の金銭負担という二重の苦しみを背負うことを、もっと広めても良いと感じます。鉄道の人身事故は、鉄道会社の方も落ち度がないのに謝罪し、乗客も疲れ果て、仕事や大事な約束に遅れるなど、誰にとっても良いことがありません。首都圏で連日人身事故の話を聞きますが、もっと減らせる工夫を普段からしていきたいと改めて考えています。

今回の事件は非常に悲しく、残念なできごとでした。ただ、それを少しでも現在の状況の改善につなげ、今後同じような事件が起きることを防ぎたい、それが私の願いです。


【今回のまとめ】
  1. 中学に進学すると「中1プロブレム」と言われるような、教科でのつまずき、また、部活動や学年の上下関係の悩みなどが発生する。貧困家庭の子どもは費用などの関係で部活に参加しにくく、また、児童館などの公共施設は「小学生向け」なので、「落ち着いて過ごせる居場所がない」と感じ、その結果繁華街を深夜まで徘徊したりする。学校のカウンセラーの勤務日数を増やすのはもちろん、中高生の子どもが「勉強をしたり、大学生などと話をしたり、とにかく居場所となれる場所」を作ることが重要
  2. 子どもの問題を考える時、保護者の抱える悩みも見過ごせない。子どもの悩みを通じて保護者の悩みを改善できるよう、教育関係者のサポートが必要
  3. 国際結婚の家庭が増加する中で、保護者が日本の教育状況を理解できているか不安な部分もある。そういう家庭の子どもも視野に入れたサポートも不可欠
  4. 登校時など、突発的に電車に飛び込み自殺する子どもの話題も後を絶たないが、人身事故を起こした場合、一般的に鉄道会社から数千万円の損害賠償を要求される。鉄道で自殺したら、遺族は悲しみと巨額の金銭負担という二重の苦しみを背負うことを広めたい

2015.9.18 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る▲
Copyright(c) ROSETTASTONE.All Rights Reserved.