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第1回 嫌われ者のすすめ


はじめまして。演劇界で嫌われ続けて16年、演劇集団キャラメルボックスの製作総指揮をしている加藤昌史と申します。

なんでこの劇団が嫌われているか。なにしろ、日本の演劇、特に「小劇場」と言われている分野では、 「社会性」「芸術性」などなど、ムズカシイテーマを内包しているもの以外はエンゲキとして認められないんですね。 ところが、ウチのお芝居は、わかりやすくて笑って泣けて、テーマって言ったら「人が人を想う気持ち」。 いやはや、ゲイジュツ性のかけらもありません。

というわけで、劇団旗揚げ以来16年間、いわゆる「エンゲキ評論家」の方々からは一切相手にしていただけず、 「エンゲキファン」の方々からは見向きもされず、独自の道を進み続けてきました。

そんなわけで、この「ロゼッタストーン」でコラムを書いてみないか、とお誘いをいただいたとき、 「嫌われる」ことを恐れていらっしゃる方がこの世の中にはけっこう多いんじゃないか、 そしてそのせいで自分のやりたいことや、自分が持っている夢を心の奥底に封じ込めてしまってせっかくの可能性を 世に出せずに終ってしまっている方がいらっしゃるのではないか、 そんなことを考えてこのコラムを担当させていただくことにしてみたのです。

ウチの劇団は、現在では約2ヶ月の一公演で4万人ほどのお客さんを動員し、年間では延べ15万人ぐらいの動員、 ということになります。これは、Jリーグの中でもかなりの動員数です。 ましてや、エンゲキの世界では皆さんもご存じの劇団四季には到底かないませんが、 ミュージカルじゃない劇団の中ではかなりの数と言えます。

ていうか、「劇団」という枠で考えたら5本の指に入るのかもしれません。

そんな今でも、僕は「戦う」ことを忘れません。

が、まず最初の「戦い」は、学生時代でした。

小学校から大学の始めまで、僕は放送委員会、放送部、放送研究会、と、マイクの前に立ったり、 機械いじりをしながらラジオ番組を作ったりすることが大好きでした。 当然、それと並行して音楽、特にロックミュージックが大好きで、高校時代はバンドをやっていたりしました。  

ですが、大学2年の春、今いっしょにやっている脚本・演出の成井豊が、やはり作・演出をやっていたお芝居を観た瞬間、 僕の心に雷が落ちてしまって、その瞬間から突如劇団に加入してしまったのです。 「なんでこんなにおもしろいものがここにあるのに、たったこれだけの人たちしかこれを楽しめていないんだっ?! 100万人ぐらいの人たちに見せたいっ!!」というのが、入団の動機でした。

当時、成井豊が在籍していた学生劇団・てあとろ50'は、一公演で400人ぐらいの動員。 内容は、ハイテンポでわかりやすくてポップで、音がでかくて、声もでかくて、でも後半の盛り上げはものすごくて、 ラストではどっと泣けてしまうというものでした。

そこに、エンゲキのことなんか何も知らない僕が突然入団。 

周りは、高校時代からエンゲキをやっていた人たちや、エンゲキマニアの方々ばかりでした。 が、僕はそんなことおかまいなし。なにしろ100万人に見ていただかなければいけませんので、 まず宣伝方法から考え直し始めました。

学生運動の延長みたいな立て看板をやめて、キレイな色で、ちゃんとレタリングの本を買ってきて活字で書き始めました。 だって、一般の学生に観に来て欲しいし、実 際僕自身が一般の学生だったので、その価値基準からしたら 「黒地に白のペンキで書き殴ってある立て看板」ていうだけで引いちゃいますから、 せめて「世間並み」にしなきゃ、と思ったわけです。

ところが、先輩から「新人なんだから、そんなことをしているヒマがあったら稽古をしろ」と叱られました。 なおかつ、「そんなものに使う塗料を買うカネはない」と。 しょうがないので、先輩に見つからないように誰よりも早く大学に来て、 自分のバイト代で塗料を買って、立て看板を作りました。

そして、僕が入って1年後。動員は700人を超えました。当時の学生劇団で700人呼べるところはほとんどなかったのです。

その公演の打ち上げで、僕のことをさんざんいじめていた先輩方が「よくやった」と声をかけてくれました。 が、ちっともうれしくなんかありませんでした。だって、僕の目標は100万人でしたから。

また、そもそも僕は制作の仕事がやりたくて入ったのですが、音楽も好きでした。なので音響の仕事もしたい、 と願い出たのですが、音響チーフをしていた先輩は入団してから一切僕のことを無視し続けてきていた人だったので、 一切関わらせてもらえませんでした。でもまぁ、その人が引退しちゃえばこっちのもの、 と考えていたので密かに成井の芝居に合いそうな音楽をたっぷり聴き続け、ストックしていきました。

結果、その人達の引退後、現在に至るまでの20年間近く、成井の作品の選曲は全て僕が担当し、 最近ではサウンドトラックCDをガンガン出すまでになってしまいました。

これも、あの時に先輩が相手にしてくださらなかったおかげです。

……そんなわけで、こんなような僕の話をまじえながら、いろんな「嫌われ者のすすめ」について語っていきたいと思います。

ご意見、ご希望、ご相談などがありましたら、編集部 までお寄せくださいっ!!

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