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第47回 不思議なツアーの過ごし方


『スキップ』神戸公演が終わりました。これから、東京公演です。

 キャラメルボックスの場合、「地方公演」は「ツアー」と呼んでいます。なんだか、「地方」という呼び方がちょっと侮蔑的というか、東京公演に対してちょっとサイズダウンしているんじゃないか、という感じがして好きではないので、あえてそうしています。

 前著「いいこと思いついたっ!」にも書いたのですけど、僕の父の実家は盛岡で、中学時代くらいまでは毎年夏休みと冬休みは盛岡で過ごしていました。その時に、東京でも見た大好きなバンドのライブが盛岡でもある、というので行ってみたら、思いっきりサイズダウンされていたのです。東京であったデカいセットも無く、バンドの編成も少なくなっていて、なおかつ演奏する曲数までもが少なかったのです。これには、かなりショックを受けました。当時はまだ「地方公演」がどんなに大変なものかわからなかったので、「バカにしてる」と思ったものでした。
 そして、キャラメルボックスが初めて「地方公演」をやったのが1990年の12月。そう、ちょうど15年前の今頃に、今と同じ新神戸オリエンタル劇場でした。

 それから現在に至るまで、キャラメルボックスでは「東京公演と全く同じ規模でツアーもやる」というのを信条にしてきていて、一度、役者のスケジュールの都合で東京とツアーのキャストが違ったということがあった以外は、信条を守り続けてきています。

 だから、ツアー先に出かけるメンバーの数は約40人。40人分の宿泊、食費が毎日かかり続けるのです。そして、移動も40人分の新幹線。
 さすがに、新幹線は基本的には指定席を取ります。と書かれて、「そんなんあたりまえでしょ。で、グリーン車?」と思われるかもしれませんが、通常、演劇の世界の場合は自由席のチケットを渡されて勝手に移動させられるのが、この世界のほぼ常識。さすがにグリーンはありませんが、みんながちゃんと座って移動できるように製作部がかけずりまわって金券ショップで安い指定席券を買い集めてくるのです。

 だから、大人数がいっしょに移動するわけですので、車内は修学旅行気分満載。特に、ツアー千秋楽がお昼の回で終わって、そのままバラして、夜の新幹線で移動するときなどは「車内打ち上げ」の様相を呈します。この「打ち上げ無しでバラして移動」の時には、劇団から全員に駅弁が配布されます。これは、かなり初期の神戸公演の時に新神戸駅の駅弁はあんなにおいしいのに、僕らが帰る時間にはもう売り切れているからみんな食べたことがない、ということが判明したので、僕が大量に購入してきてみんなに配った、ということが始まりで、すっかり恒例行事になってしまいました。

 そのお弁当の中には「ワイン付き弁当」なんていうのもあるので、キャラメルさんご一行は、新幹線をすっかりお座敷列車がわりにして大盛り上がりしてお弁当を食べ、しかし名古屋を過ぎたあたりではほぼ全員が熟睡状態になって帰ってくる、なんて感じです。

 ただ、成井豊がその団体に入っている時は、僕は電車を一本遅らせます。一応、企業の危機管理では、社長と副社長はいっしょの飛行機や電車には乗らない、というのが基本だそうです。まぁ、実際、劇団は僕か成井のどちらか、会社は僕か仲村和生のどちらかが生き残れば、なんとかなるので、必要なことだと思っています。

 ただ、今年の夏と冬は、免許を取ったのがうれしくて、僕は一人で車で行ってしまいました。車だと、東京から神戸まで休憩を入れながらゆっくり走って約7時間ちょい。「大変でしょう」と言われますが、家を出て東京か品川駅まで電車を乗り継いで1時間半、新幹線で3時間、新神戸からホテルまで20分、それに待ち時間やら歩く時間やら、を入れると、6時間近くが移動に使われるわけで、時間の使い方としてはそんなに無駄はしていないのです。

 なおかつ、宅急便で荷物を送るために出かける前日に荷造りをしておく、という手間もありません。ドアツードアで人も荷物も運べるので、とっても便利。
 あと、車だと、ハンズフリーユニットをつけていれば、初日が近づいてバタバタしたせいで電話できなかったいろんな人に、次々と電話をかけることができます。時間はいくらでもありますから、何人も連絡が取れたりして、とっても便利。
 そして、なにより自由です。

 途中の景色を楽しめるだけではなくて、「空気」も楽しめます。中央高速を使って行けば、小淵沢とかを通りますので、高原ドライブの気分。急いでいない場合は、途中のインターで降りて次のインターまで一般道をドライブ、なんてことだってしちゃいます。夏は、京都で降りて天下一品ラーメンの本店に行ってしまったくらいです。

 あと、何度も神戸に来ているせいで「おみやげ」が固定化してしまっていたのですが、途中のサービスエリアで、名古屋のモノや信州のものや、いろんな「行ってない地域」のおみやげをゲットできます。……あ、「おみやげ」の本質からずれてますかね……。

 そんなわけで「全員でバスで行く」というプロレス団体みたいな事をしよう、と考えたこともあるのですが、車に弱い人というのもいるので断念しました。んーーむ、バスの胴体に「CaramelBox」って英語でどーーーんと書いて劇場に乗り付ける、なんてやってみたいんですけどね……。

 そして、宿泊。これも、「全員シングル」を信条にしています。これまた「そんなんあたりまえでしょ。で、主役はスイート?」なんて思われるかもしれませんが、いえいえ、小劇場劇団の場合は、みんなでお寺に宿泊、とか劇場に頼んで楽屋に宿泊、なんてことだってあたりまえにあるのです。

 最近では、あえてツインの部屋も使って、若手の役者と若手の製作部の社員を同室にしてわざと共同生活をさせてみたり、なんてことも逆にしています。役者と製作では活動の時間帯や生活スタイルが違ったりするので思いっきり気を遣い合わなければなりませんが、それも大切なこと。お互いのことを生活レベルまで知ることというのは、重要なことだと思っています。

 しかし、基本的には役者には芝居に集中して欲しいので、私生活を完全に守ってあげる、ということも製作には大切なことだと思うのです。だから、全員シングル。ただ、ツアー先ではホテルまで尾行してくる熱狂的な、というより非常識な、というよりちょっとヤバイお客さんが1万人に1人くらいの確率でいらっしゃったりするので、それから守るための様々なくふうもあります。

 それを全部言っちゃったら逆に利用されるかもしれないので全部は書きませんが、まず基本的に「フロア貸し」で借ります。これも、40人で移動している強みですね。つまり、僕らが宿泊しているフロアに知らない人がいたら、僕らもホテルの人も「怪しい」とすぐにわかるわけです。

 また、お客さんにわかる名前の団体では宿泊しません。また、外からかかってきた電話も、とある方法を使わないと取り次がないようにホテルにお願いしています。
 他の工夫に関しては、関係者の皆さん、是非直接僕に連絡を取って尋ねてください。

 で、そのホテル暮らしでの工夫もいろいろあります。

 なにしろツアーを始めて15年目になりますので、ホテル暮らしがストレスにならないように、劇団員のそれぞれがいろんな工夫をしていて面白いんです。
 いちばん多いのが、枕の持ち込み。短期間の滞在だったらいいんですが、1週間を超えて滞在するとなると、やはり枕は大事。そして、宅急便(あえて商標名を使っていますが)が安くなってきているので、荷物を手持ちではなく送ってしまえるようになったことも起因しているのだとは思いますが、生活必需品だけではなくてこういった「余裕」の部分のものをホテルに持ち込むことができるようになったのです。

 で、僕の場合の「余計なモノ」ご紹介。

 (1)シャワーヘッド……「ビタミンCシャワー」というのを数年前から愛用しているのですが、自宅で使っているのに加えて、ツアー用も用意してあります。これを、ホテルに着くとすぐにホテルのモノと交換します。たいてい、僕らが泊るクラスのホテルだとシャワーの水圧は低いので、いらいらすることがあったりしますが、シャワーヘッドを交換するだけで普段通りの水圧を得ることができます。なおかつ、ホテルの場合はお風呂に「洗い場」がないじゃないですか。だから、それを逆手にとってお風呂はくつろぐ場所に徹底させるのです。お風呂にお湯を張って、下の段のシャワーホルダーに「ビタミンCシャワー」をセット。ビニールカーテンを閉めて、お風呂に横になって、シャワースタート!!これで、わざわざクアハウスとかまで行かなくてもミストサウナ状態を楽しめます。

 (2)テーブルタップ5本……これが、意外に必要。僕の場合は特に電化製品を大量に持ち込むので。

 (3)クリップライト……ホテルの部屋っていうのは、必要最小限の電灯しかついていません。で、雰囲気を高めるためか、間接照明になっているところが多いのです。そこで、僕はハロゲンの明るいクリップライトを常備。仕事をする机の上に設置して、くっきりクリアな明るさにしてしまうのです。

 (4)薬各種……ツアー先では、確実に飲み歩きます。というか、それもまた大切な仕事。普段の東京公演では、劇場を出るのが22時以降ですから、終電を気にしながらじゃないとお酒が飲めないわけです。が、ツアー先では合宿状態。何時まで飲んでも歩いて帰れるのですから、そりゃぁ、飲みます。地元の人たちとか、普段あんまりしゃべる機会のない人たちを中心に誘って、はたまた普段からしゃべっているのにそのうえにこの機会にもっと、という人たちに誘われつつ、ほぼ毎晩予定が埋まっていきます。プラスアルファ、「出欠を取りに行くお店」というのもあります。これだけ毎年行っていると、いいお店、素敵なお店、というのをいっぱい見つけてしまいます。それらを、朝・昼・夜・深夜、に振り分けて食べに行ったり飲みに行ったりします。だから、1日4食はあたりまえ……。
 そんなわけで、当然のようにおなかをこわします(←そこまで飲むのはおまえだけだっ!!)。
 東京にいるときは「移動時間」という休憩時間があるわけですが、神戸にいるときは朝起きてから寝るまでがフル稼働ですから、体も心も疲れます。だから、普段以上に健康には気を遣ってあげないといけないのです。
 てなわけで、胃薬と強壮剤、そして自然治癒力を高めるお薬は、必携ですね。

 (5)バスタオル2枚……僕らが泊るレベルのホテルだと、たいていバスタオルがたいてい「ふわふわ」であることはありえません。毎日その「ごわごわ」のバスタオルを使っていると、なんとなく心が荒んでくるのです。なので、家で使っているできるだけふわふわなタオルを持って行きます。

 (6)巻き取り式洗濯ロープ……下着やソックス、Tシャツ程度は、自分で手洗いで洗濯してしまいます。もちろん洗剤も必要ですが、ポイントは洗濯ロープ。ていうか、ヒモですけど。洗濯はできても、乾すところが意外にないのがホテル。シャワーのところに洗濯もの干し用のひもがついているビジネスホテル、なんてのもありますかあそこに乾してしまうとシャワーが浴びられないんですよね……。

 (7)シャンプー、石けん、など……そういうものはホテルにあるじゃん、と思われるかもしれませんが、僕らは団体で安く泊めていただいているので、できるだけホテルの経費を使わないように、ルームメイクの人の手間を少しでも減らす協力をしなきゃな、と思うわけです……。

 (8)カリタのコーヒーメーカーとフィルター……たいてい、ホテルにはお湯を沸かせるポットくらいしかありません。だから、実は料理好きな僕はウィークリーマンションの方が好きなのですが……。しょうがないので、少しでも心をリッチに過ごしたいので、コーヒーぐらいはちゃんと淹れたいと思うのです。もちろん、豆を挽くところまではしませんが、粉は現地調達します。そして、愛飲のお茶も各種。球形のジャスミン茶をホテルでのんびり飲むなんて、いーでしょ?

 (9)ヒーリングミュージック……これが、本当に必需品かも。ツアーに備えて、芝居用の選曲の過程で発見した「眠り用」の曲たちを、PowerBookに入れておきます。で、ベッドに入る前にスタート。60分で終わるように、毎公演選曲をして、楽器が多めな曲から、だんだんゆっくりで静かな曲になっていくように曲を並べ替えておくのです。
 たいてい、最後の曲は覚えていませんけど……。

 (10)シグマリオンII……大切なものを忘れていました。このPDA(携帯端末)は、FOMAやPHSカードをつなぐとメールの送受信やWEBの閲覧もできる優れものです。が、僕は、なんとこいつをゲーム機として使っています。ゲーム、と言っても、「ソリティア」のみ。これを、ベッドに入って音楽をかけてから、始めるのです。これが、本当に日課。あの単純なゲームを淡々と続けると、1日の脳の垢が取れていく感じ。これをやらないと、僕の場合、永遠に脳が起きていて、どんどんいいことを思いついてしまうので眠れなくなるのです。脳を休ませて、眠りの世界に誘うという、とてつもなく重要な役割を、ソリティアに担ってもらっているのです。

 と、そんなふうに細かい工夫を積み重ねつつ、ツアーな日々を送っています。


 仕事のことを全然書いてませんが、キャラメルボックスではツアー先でも必ずロビーに電話回線(FAX用)とインターネット回線を引きます。つまり、劇場ロビーにいながらにして、東京事務所とほぼ直結状態に置く、ということ。そのせいで、開演寸前までチケットのキャンセルやお客さんからのお問い合わせに即座に対応できる、というわけです。
 また、ロビーでのグッズ販売の結果もPOSで集計されて逐一東京に送られるので、公演途中でグッズが足りなくなる、という「欠品」状態も、極力回避されるようになりました。

 そう、キャラメルボックスの公演で不思議なことに挙げられるのが、「超満員」でも、「もう入れません」とお客さんに帰っていただく、ということが99.9%無い、ということです。これも、情報を常時東京事務所と持ち合って、「今、当日券の人が何人並んでいる」とか「キャンセルが何件入った」ということのやりとりを常時やっているから。前もって混んで大変そうなときは、僕が日記にその旨を書くとか、電話予約の段階で別なステージをお薦めするとか、こまめに手作業で公演全体の動員数を均していくようにしているのです。それが、僕らのためにもなりますし、なによりもお客さんにイヤな思いをさせずに済むことができる、というわけです。

 そして、当日券でお待ちいただくお客様のために、自前で椅子を用意する、というのもキャラメルボックスならでは。ずっと立って待っていただく、というのが普通なのかもしれませんが、僕はイヤなので。あと、秘密ですが、立っているよりも座っていた方が、列が長く見えて、通りかかる人たちが「なんだろう」と興味を持ってくださったりしますしね。

 そして、「毎日飲み食べ歩く」と書きましたが、実はただ飲んでしゃべっているだけではありません。製作部は、常に自分の荷物にチラシと招待券を忍ばせています。
 ちょっと食べに行ったお店でも、チラシを置いてくれそうなところでは、食べた後に「すみません、実は私こういう者で」と名乗り出て、置いていただくのです。で、ポスターを貼って頂けそうなお店には招待券をお渡しして、後日お届けに上がる、ということもしています。

 あと、平日の夜の回しか無い場合には、昼間は「サテン回り」と呼ばれているお店回りもします。一軒一軒ポスターを貼っていただけるかどうかをお願いして回ると、知らなかったいいお店を発見できる、という利点もあります。そして、意外に「キャラメルボックス」がその土地で知られている、ということや、知られているのに見られていない、ということもわかってきたりして、元気づけられます。

   ただ「旅公演」をやりに地方に行くだけじゃなくて、ただでは転ばないキャラメルボックス。
 僕なんて怠け者なのでまだまだですが、空いている時間に地元の劇団の芝居を見に行く、という強者もいます。

 「地方」の人に、演劇を届ける、というだけではなくて、せっかく行ったからには東京にはないものをいっぱい吸収して、元気をもらって帰ってくる、というのが僕らの「ツアー」。
 特に神戸では、なにしろどんな地元の劇団よりもいっぱい公演を行っているのでまさに「ホーム」と言えます。今、もっともっと神戸の人たちと協力して楽しいことができないか、「いいこと」を思いつき中。

 いい劇場と、いい街と、いいお客さんに支えられたキャラメルボックスは、もっともっといいお芝居を創っていこう、と志をあらたにするのです。

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