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第58回  グルメの作法


 よく、僕、ブログとかに「これがおいしかったっ!!」「このお店、最高っ!!」なんて書いちゃうんですね。
 ラーメンに限らないことなのですけど。
 これって、とっても危険なんですよね。
 「加藤さんは、“影響力”があるんだから、もっと発言には気をつけた方がいいですよ」なんていう忠告もよくいただきます。
 味覚とか美的感覚とかって、基本的には人それぞれ。100人いれば100通りの感じ方があってあたりまえ、と言われています。
 なのに、観客動員数が何万人かの劇団をやっていて、その劇団の社長で、いろんなところに文章を書いていて、本も出していて、という人が、一部のお店や企業の宣伝になるようなことを軽々しく言うべきではない、というのが、忠告してくださる方のお気持ちだと思うのです。

 でも実は、今まで、「まずかったお店」のことは、一切書いたことがないのです。多いですよ、そういうの。サービスにあきれたときなどは、ネタとして名前を伏せて使わせていただいたことはありますが。

 そんな、おいしい物好きな僕の、食べ物とのお付き合い方の作法をご紹介しましょう。

 まずは、美味しくないお店。

 「なんぢゃこりゃ?!」と思った不味いお店には、極力もう一度行くんです。できたら、何度も行くんです。ただ、食べているときも、食べ終わって店を出るときにも無言で、店員さんと視線を合わせないようにします。そして、必ず、多めに料理を残します。これが、せめてもの「不味かった」という意思表示なんです。
 だって、「不味い」とまで思わせてしまうそのお店、なんでそんなに不味いのに平気でカネを取って営業しているのか、不思議じゃないですか。だから、たまたま最初に行ったとき、何かがおかしかったのかもしれない、と思うのです。そこで、何度か食べに行くのです。二度行って、別なメニューを頼んで、それでも不味かった場合は、なんでこんなに不味いのか、を考えます。
 何度も行っても改善が見られない場合、たいてい、そのお店はなくなっています。もしくは、あっても、経営が変わって味も変わっていたりしますね。
 ……ただ、不味いまま何十年もやっているお店を何件か知っているのですが、そこは、「一等地」。不味くても、便利なところにあるとやむをえずみんな食べに行ってしまい、続いてしまうのですね。地の利は、味を超えるのです……。

 そして、「普通」のお店。

 空腹を満たすことはできるけど、特別おいしいわけでもなく、不味いわけでもない、という場合、というのがほとんどですね、世の中。僕はそういうお店を「ファミレス並み」と呼んでいます。
 そうなんです、僕の場合、ファミレスやファーストフードは「不味い店」には入れないことにしているのです。どんなに、ステーキの中が凍ったまま出てきても(←ファミレスでステーキ食うな!!)、フライドポテトがしょっぱすぎたり塩味がなさ過ぎても、いちいち怒りません。しょうがないですからね。薄利多売なので、そんなもん、と思います。
 そのかわり、一切、人には紹介しませんし、人と一緒に食べに行くこともしません。誰かと食べに行く時に「あそこはどう?」と聞かれたら「普通」と答えることにしています。

image そして、初めて行ったお店が美味しかったとき。

 一口食べて美味しかったら、食べている最中から、料理の写真を撮りまくります。一人じゃないときには、食べながら、「おいしいねぇっ!!」と、しゃべりまくります。そして、お店を出るときには必ず、そのお店の店長さんっぽい人を見つけて「美味しかったです!!また来ます!!」と邪魔にならないように声をかけ、キャッシャーの人にも「ほんとに美味しかった!」と一声かけて、お店を出ます。
 コース料理のお店の場合は一回目で「僕のおいしいお店リスト」にランキング。もう、この時点でガンガン皆さんにオススメしてしまいます。神戸の「吟」とか、世田谷の「広味坊」とか、赤坂見附の「ビストロ・ブルゴーニュ」とか、ですね。

 でも、ラーメン屋さんの場合は、まだこの時点ではブログに載せません。
 次に、時間帯を変えて食べに行きます。そして、前回とは違うメニューを頼みます。それでも美味しかったときは、もう一度行きます。そして、またしても美味しかった場合にはまたしても前回と同じ行動をします。が、あまり美味しくなかった場合には、残念ながらそれでおしまいですが、めったにそういうことはありません。一品食べておいしいお店は、たいてい、ほとんどのものが美味しいことが多いです。
 そして、三度目に食べてみて、「こいつぁ、たまらんぜぃっ!!」と思ったら、もう、皆さんにご紹介です。そして、もう、ことあるごとに「天下一品ラーメンを東京で食べるなら江古田か池尻か駒沢っ!!」と書き続ける、というわけです。

 しかも、何度行っていても、何度でも「美味しかったです!!」と伝えて帰ることは守り続けます。
 そうすると、けっこうありがちなのですが、突然味が落ちたりすることがあるんです。
 そういうとき、なにしろ大好きなお店ですから、わかっちゃうんです。わかってしまったら、今度は、店員さんの顔をじっと見てから、「美味しかった」を言わないで帰るのです。
 その気持ちが伝わらなくてもいいんですが、とにかくそうします。
 たいていの場合、調理している人の体調不良だったりすると思われるので。


 が、それが続いた場合には、さすがに「どうしたんですか?最近、おかしいですよ?」と尋ねます。
 これに答えがあれば良し、「は?」という表情をされたり、反発されたりしたら、残念ながらそのお店とはお別れです。
 逆に、何度か食べに行って、毎回「美味しかったです!」を繰り返していると、お店の人に覚えられてしまうこともあります。いわゆる、常連さん状態に突入してしまった瞬間です。が、常連さんになっても、僕がブログに紹介してキャラメルボックスのお客さんがそのお店を訪れるようになっても、「紹介者特典」みたいなものはいただかないように努力しています。これはあくまでも努力であって、そのお店にそういうシステムがある場合には甘んじて受けます。が、たいていの小さいお店の場合にはそういうことはありません。

 しかも、良いお店というのは、「常連さん」に対して何かを要求したり逆に「一見さん」より特待することはあまりありません。「いつもどうも」という笑顔はあっても、それ以上のことは、たとえば一品サービスが付いちゃったり、ラーメン屋さんだとチャーシューの下に卵が隠れていたりする、なんてサプライズがあったりするくらい。
 でも、それが、お互いに心地いい距離感だったりするのですね。

 ポイントシステムがある場合には、徹底的に使います。だって、そういうシステムをやる、ということそのものが、お店にとってはとっても手間やお金がかかることなので、本当はやりたくないことであるはずなのです。が、それをやっている、ということは、そのシステムも使ってあげることがそのお店のためになる、とも思うからです。

 仕事の上での人との付き合いでも、似たようなことがあるかもしれません。

 よく、第一印象だけでお店や、「人」のことをなんでも決めてしまう人がいらっしゃいます。たいていは、高学歴で、頭の回転が早い人ですね。
 でも、僕はやっぱり人付き合いでも不器用なので、あえて何度かはお付き合いしてみます。
 が、最終的に「お別れ」が来ることも、無いこともないのですね。

 ただ、最後まで、理解しようと試みることを、決して忘れてはいけない、と思うのです。


2006.1.6 掲載

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