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第64回  僕が芝居を観ないわけ


 なにしろ僕は他のところの芝居を観ません。
 マンガは5年前ぐらいに「やめる」と決めてから、まったく読んでいません。それ以前に、よっぽどのことがなければ映画も見ないし、小説も読みません。テレビだって、ニュースとか、あとはしょーもないものばかりで、ドラマはほとんど見ません。
 これが、自分の劇団の関係者のものに至るまで見ないことが多いわけですから、尋常ではありません。

 「演劇プロデューサー」が演劇を見ない、その他のエンターテインメントも見ない、というのでいいのか、と、よく聞かれますし、自分でもそう思うこともないではありません。
 そういう時には「いえ、プロデューサーは仲村和生に譲ったんで、僕は製作総指揮です」とか、言い逃れをしているわけですが。

 でも、こういう傾向は今に始まったことでも、こどもができてから、というわけでも、結婚してから、というわけでも、キャラメルボックスを始めてから、というわけでもありません。
 もちろん、20代の頃までは、おそらく人並み外れてそれらのものを見ていました。そんな中でまず僕が演劇を見なくなったキッカケは、新感線が違う世界に行ってしまったことと、東京サンシャインボーイズが長期休業に入ってしまったことと、惑星ピスタチオの解散でしょうか。

 僕は、好きになるとどんどんのめり込むタイプで、それら大好きなものたちにいつまででも活躍していてほしい、と願ってしまうわけです。ところが、大好きなものたちが、なくなっていったり変貌を遂げていったりするのを見せられてしまうと、ものすごく傷つきますし、好きになることに臆病になっていってしまうのですね。

 音楽もまたそうで、大好きだったスパイラル・ライフというグループが解散してしまってから、どっぷりと好きになる、ということがなくなってしまいました。もちろん、好きなアーティストはいっぱいいるのですが、ライブに行ったり、ファンクラブに入ったりして「入れ込んで」しまった後にいろんなことになって、自分が傷ついてしまうのが辛いために前もってあまり近寄らないようにしてしまうのかもしれません。

 昨年でしたか、とあるかなり有名なミュージシャンの方とお話をしていて、普段はどんな音楽を聴いているんですか、と聞くと、やはりというかなんというか「音楽は聴かない」というのです。こういうミュージシャンはけっこういらっしゃって、というか、プロの第一線の方ほど普段は音楽を聴かないことが多いようです。

 その方と話していて、「だってさぁ、若い頃に聴いていた音楽だけで、かなり十分なんじゃないの?」ってことになりました。
 こういうことを言うと、「向上心がない」とか「完成が鈍っている」という感想を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

イラスト  実際、ウチの作・演出の成井豊や真柴あずきは山のように本を読みますし、映画も見ます。役者達も、自分が出演している公演の休演日をつぶしてまで他のところの芝居を観に行きます。本来、劇団をやっている人たちというのは、そういうものなのだとは思います。

 でも、僕までそれをやってしまったら、きっとこの劇団はただの劇団になってしまうのではないか、という不安をいつも持っています。
 僕は、この劇団の中で社長と製作総指揮と音楽監督(と前説)、というバラバラな職能を持った仕事をしていまして、それらの仕事はこの劇団の他の誰も代理がきかないことばかりです。で、そういう特殊な仕事をしている人が他の劇団員と同じ日常を送っていたら、これは、ヤバイことになるのではないかと思うのですね。

 「やっている側」の気持ちがわかりすぎてしまっては、「見る側」の気持ちがわからなくなってしまう、というか。「演劇側」の気持ちがわかりすぎてしまっては、「音楽側」とか「経営側」の気持ちがわからなくなってしまうのでは、とか。いろんなことを心配してしまうわけです。

 結局は、どのあたりが基準になるのかわかりませんが、自分の中の「感性のグラス」に自分の必要な分のキラキラした才能や作品を注ぎ続けて、それがあふれ出してしまったときから、自分は発信する側に移っていくのではないかな、と思います。

イラスト  「まず、一つのことを10年間やってみろ」と言います。
 そういえば、僕がこんなふうになり始めたのは、劇団結成10周年の頃からだったような気がします。

 これまた、こんなことを言うと「過去の財産だけで食っていくつもりか」という感想を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
 いえいえ、残念ながら、まだ「過去の財産」さえ、使い切っていないのです。だから、新しいものを入れる余分なポケットが、いまだに空かない状態なのです。10年前から、やりたいやりたい、やろうやろう、と思ってきてまだやれていないことが、山のように残っています。それを、現代で実現するにはどうすればいいのか、ということを、今でもいつもいつも考えています。何かキ ッカケがあるたびに、「あっ、それは、あーしてこーしてこーすればできるぞっ!!」と、「過去の財産」を使って一気に実現させてしまったりするというわけです。

 今、これからやろうとしていることは、そんな、10年前から、いや、20年前から、やりたいやりたいと思い続けて、しかしやれる環境や仲間が見つからなかったためにできずにきていた、もしかしたら大コケするかもしれない、しかしめっちゃくちゃ刺激的な仕事です。今年中には、なんらかのインフォメーションができるかとは思いますが、やっと「それ」ができるときが来たのです。

 そんなことを続けていって、もし「そろそろ演劇を見なきゃなぁ」と思ったら、そしてそんな時間ができてきたら、突然「再演劇デビュー」をする可能性もないことはありません。15年前ぐらいまではずっとやっていた、ヒットチャート10位までのシングルは全部買い続ける、ということも、再び始めるかもしれません。ビッグコミック関係のコミック誌をすべて読み続ける日々が、帰ってくるかもしれません。

 でも今は、自分の中に貯まりまくっている「やりたいこと」「やらなきゃ楽しくないこと」を、とにかく出し続けること。それが、楽しくてしょうがありません。
 早いところ、「過去の財産」を使い切って「次」に行きたいところですが、僕の「過去の財産」は、まだまだ無くなる気配がありません。

2006.6.5 掲載

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