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第72回  やさしい言葉で語りたい


 うへーーーっ!!
 すっかり、いつがこの原稿の公開日だかを読者に忘れさせようとして締め切りを破り続けているのではないかという疑惑さえ浮かんでしまうほどに原稿が遅れ続けている加藤です(←すでに日本語が乱れてます)。

 ふと振り返ると、ウチの演劇制作会社・ネビュラプロジェクトは、去年の12月25日に最後の公演を終えた後お正月休みに入り、お正月明けからすぐに会社の地下にある稽古場を使ったダンス公演のお手伝いをし、2月には他社との共同製作でプロデュース公演をやり、3月からキャラメルボックス初の音楽劇をやり、続いて4月7日から初の女性主役の時代劇の初日を開けつつ5月中までツアーが続き、その次の7月からのサマーツアーの準備が佳境に入ってきて、 9月の中型公演の準備が着々と整ってきた、という現状です。
 昨年の今頃は、1月にちょっとクリスマス公演の延長のような公演があり、 2月には小劇場公演、3月から60分の短編演劇の2本立て、と、まぁ、似たようなキツいスケジュールでやってはいたのですが、なんだか今年の方がなにかとバタバタしている感じではあります。

 で、そんなふうに、人間って忙しい時ってついつい言葉が雑になったり、荒くなったり、粗くなったりしてしまいがちですね。
 が、意外なことに、20代の頃だったら「バカ野郎っ!! 死ねよもうっ!!」なんて平気で怒鳴っていた僕がこういうことを言うのもヘンなのですが、最近、忙しいときほどやさしい言葉を使うように気をつけています。
 あ、あとは、怒りそうになったときも、しかりです。
 「バカじゃねぇの?」と怒鳴られるより、「バカですか?」と静かにじっと目を見つめて言われる方が、より一層ズキンとくるじゃないですか(←たとえが間違っている気が……)。

 ケンカをしようとしているならまだしも、仕事なり、僕たちで言えば芝居の現場で、より良いものを創っていこう、と考えたときに、20年以上芝居をやっている僕が、10年やそこら、いや、そこまでさえもいかないような若者達に「なんでこんなこともわかんねぇんだっ?!」て言うのは、「なんでこんなことがわかんねぇってこともわかんねぇんだっ?!」と、自分にそのまま返ってくると思うのですね。
 もちろん、何度同じことをやっても同じミスを繰り返し続ける人、というのもいます。

 また、それ以前に、言われたことを理解できないのに「はい」と言ってしまい、そのために当然のように言われたことができない、という人もいます。
 そういう場合、そういう人にその仕事を振ってしまった自分に責任があるわけで、できなかった人の責任ではない、と思うのです。
 しかし、仕事を振った側は「なんでできないんだっ?!」と叱り飛ばしたりするわけで。

 「なんでできないかがなんでわからないんだっ?!」と自分に対して怒るべきであって、その本人にいくら何を言っても「失敗だった」ということだけが増幅されて、どんどん萎縮してしまって終わってしまうのではないでしょうか。
イラスト
 という、会社というか組織における人間の上下関係でもそうですが、どうも、ネット上の言葉の使い方がそんなふうになってきているように思えてなりません。
 まぁ、匿名を前提にしたコミュニケーションの場合はそういう気遣いをしないという前提でみんなが参加しているわけですからまだしも、普通のブログやソーシャルネットワーキングサイトなんかを見ていてもふと不安になることがあります。

 たとえば、僕は、仕事上外食が多いので、いろんなお店を食べ歩きます。
 ラーメンも好きですが、立ち食いそばや回転寿司、カレー、焼肉、などなどなどなどいわゆるB級グルメを主食として生きていると言っても過言ではありません。もちろん、お酒も大好きです。
 なのですが、ネットも含めて文字としてどこかに感想を書くときに、個人的に気をつけていることがあります。
 「まずかった店」のことは、店名がわかるような記述は絶対にしない、ということ。

 もちろん、45年生きてきて、日本中いろんなところに行ってその土地その土地のおいしいものを食べてきましたし、めんたまが飛び出るような値段のお店でもいろいろとおいしいものを食べてきていますので、自分の味覚には自分なりの自信はあるわけです。
 でも、それは評論家などとは絶対に違う自分の趣味の世界の話なのだと思うのです。だって、化学調味料を使っているかどうか、なんて、わかりませんもんっ!!……あ、わかるときもありますけど、それはよっぽどまずかったときで……。
 なので、「おいしいもの」については、もう、問答無用でおいしい場合にご紹介。「まずいもの」に関しては、一切触れないか、触れても味のことは書かないか、です。

 だって、まずかったお店の料理や、サービスがひどかった店のひどいサービスについて書き連ねたところで、読んでいる人はきっと楽しくないのではないでしょうか。おいしかったお店や素敵だったお店のことを書いたのを読んで食べに行ったら本当においしかった、っていう方が、楽しいと思うのですよね。
 もちろん、僕自身、まずい店に入ってしまうと、「なんだよー、誰か、先に言っといてくれよー」とは思います。「日本全国まずい店」というサイトがあったりいいのに、とさえ思いますが、しかし残念ながら、自分でそれを人に伝えようとは思いません。
 むしろ、お店の人に直接、どれがどのようにまずかったのか、どんなサービスがひどかったのか、ということを、言うようにしています。
 ネットなどに書いてしまうことで、たった1人の「意見」が「評価」みたいにとられてしまうのは恐ろしいことですし、ましてやそれによって営業妨害をしてしまうことなどは心外ですから。

 だから、なんと僕はまずかったりひどかったお店が1年ぐらい経ってもつぶれていなかった場合(←関東は甘いですが、関西だと「まずいお店」はよっぽど立地が良いなどの事情が無い限り、ほぼ確実に1〜2年後にはなくなっているのです)、必ずと言っていいほどもう1回食べに行ってしまいます。
 なぜかというと、前回行ったときのダメだったところを、さすがにプロなら自分たちでも気づいて改善して、お店が続いているのではないか、と期待するからです。
 そこで改善されていると、なんだかちょっぴりうれしい気分になって、「もう二度と来ない」とスッキリするのです(←変ですか?)。

 が、改善されていないというケースが、関東ではよくあります。
 なんと、とてつもなくまずい店が10数年続いている、というケースがあるのです。
 これは、大変ですよ。
 まずい、とわかっていて、1年に1度食べに行かなければならない僕。
 「またかよ……」と思っても虚しいだけなので、なんとかいいところを見つけようと努力するのですけど、まずいものはまずい。しかし、続いている。で、たいてい、そういう場合ありがちな原因は「親父さんがきさく」とか「おかみさんがいい人」とか、そういうことだったりするから困るのです……。
 味ではなくて、人柄でついつい行ってしまうという常連さんがけっこういる、ということ……。しかしこれは、それはそれですごいことだと思うのですね。

 しかし、僕が知るその恐怖の10数年続いているまずい店というのは、そういうわけでもないのです。親父さんもおかみさんもつっけんどんで、いつ行っても掃除は行き届いていないし、ほんとにいいことなんて一つもないのです。唯一、そのお店が続いている理由は、なんとその駅近辺でその食べ物をその値段で出すお店が1軒しかない、ということ……!! 
 まぁ、他を知らないでここだけで食べていたら、そこがまずい、ということには誰も気づかない、というわけなのですね……。
 で、実際、そのジャンルの食べ物を紹介する雑誌には、今までそのお店が紹介されたことがないのです。その駅の近くに1軒しかないのに。……B級グルメ雑誌にさえ目をつぶられてしまっている恐怖のお店、というわけなのですっ!!

 そんなわけで、話がそれましたが、つまりそういうお店のことを悪く書いても、通っている人たちは満足しているわけですから、外からどうこう言っても意味がないわけです。何度となく、そのお店のショーウインドウに「ここはまずい」という張り紙をしてこようかと思ったのですが(←よせっ!!)、だからと言って「あっちに行った方がおいしい」というご紹介もできないので諦めるしかないわけですが……。

 で、ここまで読んできていただいて気づかれた方もいらっしゃるかとは思いますが、「だいたい、書く書かないなんて問題じゃないんじゃないの?」ってことです。
 つまり、まずい店で食ってしまったということを紹介しない、ということが問題になること自体がおかしいのですね。
 つまり、なんでもかんでも思ったことをどこかに書かなければいけない、という強迫観念のようなものがおかしいんじゃないの? ということなのですね。
 「いいことはいい、悪いことは悪い、と言う」と言うと、これはカッコよく聞えますが、そういう正義感をB級グルメに向けること自体が、なんだかもったいないと思うのです。

 僕は、外でまずいものを食べてしまったときには、帰宅してから同じものを自分で作って食べてしまいます。
 うどんだったら、さぬきうどんの生麺を買ってきて、ダシも普通に昆布から取って鰹節もちょっと使ったりして、醤油とみりんとお砂糖で味を調え、1人で食べるのです。そして、「んーーーむ、やっぱりあの味はまずかったんだぁ」とあらためて自分で確認してみたりして。で、「家庭でできるおいしいうどんの作り方」をネット上にアップする、という方法で、まずい店に行ったときにまずいと思える人を増やそう、と思うのです(←たとえ話ですよ)。
 やっぱり、まずい店を撲滅するためには、食べる側の意識を改革していかないといけないわけですからねっ。そのために、「あそこはまずい!!」と攻撃するよりも、「こうやればおいしいものが食べられる!!」と主張した方が、楽しくないですか?

 あっ、あと、最近ありがちなのは、そういう食べ物の感想などを書いた後に「僕的にはうまかった」とか「私は、おいしいと思った」とか、「味覚は人それぞれですから、これをおいしくないと思う方がいらっしゃるかもしれませんので、そういう人と争う気はありませんし、そういう人のことをどうこう言うつもりもありませんが」という、予防線を敷いておくような発言です。
 僕は、そんな言い訳をするくらいなら最初から書かなきゃいいのに、と思いながら読んだりするわけですが、まぁ僕の場合は、自分の食べ物の趣味はとってもわかりやすく普段から書いているので、ずばっと「うまかったぁっ!!」と言えてしまうのですね。
 ラーメンだったら天下一品(江古田店か都立大学店か池尻店)を主食にしていて、月に一度は千駄ヶ谷のホープ軒に行かないと気が済まなくて、横浜家系はちょっと苦手だけど札幌の純連は大好きで、福岡に行けば一蘭・八ちゃん・おかもと、だったのに、今回初めて行った「だるまラーメン」は絶品だった、なんていうふうに、「自分の趣味」をきちんと前もって伝えておければ、わかる人にはそれで「んーー、そりゃそうだろー。なんで今までだるまに行ってなかったの?」という会話が成立するわけです(この段落、全くわからなかった方、 ごめんなさい……)。

 つまり、僕は、「だるまラーメン」がまずい、と思っている人がいたとしても、それはそれでいいと思うのですね(←あんまりいないと思いますが)。でも、「天下一品」の場合は、アンチな方が非常に多いんですっ!!
 天下一品ラーメンが好き、っていうだけで、「信じられんっ!!わかってないっ!!」と怒り出す方がたまにいらっしゃいまして、これが、現代のネット事情を複雑にしているように思えたりも致しますし。

 つまり、自分の感覚がベスト。その感覚をベスト、と言ってくれる友人や知り合いも何人もいる。だから、そこから外れたヤツはアウト、という「自分が絶対」な感じの人が世の中にはかなりいらっしゃるように見受けられます。なんらかの根拠や経験があった上で主義主張する方ならまだしも、根拠も経験も無いままに「感覚」だけで「絶対」と思っている方が増えてきていますね。
 15年前には、そういう人はマスコミや教育界に多く、一般社会では「変わり者」として各グループ、各コミュニティーに何人かずついたものですけど、ネット社会ではそういう人たちが意外に強烈に発信をするようになってきて、そういう人たち同士でコミュニティーを形成するようになり、それはそれで一つの「勢力」になってきたようには思います。

 自分が嫌いなものを好きだと言う人がいるということが許容できない、という人たち。

 実は、人間の集団がひとつできると、必ずこういう「原理主義的」な人たちが現れてくるのですね、歴史上。おもしろいことに。

 天下一品ラーメンなんて(←すみません、天一さん……好きなのでついつい例題にしてしまいます)、東京に出てきた頃には「あんなものはラーメンじゃない」と言われたものでした。たしかに、それまで醤油と塩と味噌と豚骨しか無かった東京のラーメン界(?)に、突如として現れたあのどろどろこってり鶏ガラスープは、そう言われてもいたしかたなかったと思います。
 だって、大ファンである自分でさえ、「天下一品って、何味のラーメンなの?」と人に聞かれても答えに窮して「んーーー、ラーメン、って感じじゃないんだよねー」なんて言っていたものですから。でも、そう言った後に、「まぁ、いいから、まず食べてみてよ」と言い添えていましたし、たいていの場合は無理矢理にでも連れて行ったり、おみやげラーメンを買ってきて無理矢理食べさせたりしていたものでした。
 そんな天下一品ラーメンは、もう、東京中に支店ができまくり、ちょっとおいしくないお店もあったりするようになってしまいましたが……そのお店がどこなのかは、あえて書きませんよ〜。……すでに、本部にはメールしてしまっていますし……!!
 で、僕がやっている劇団「キャラメルボックス」もそう言えば、かつて「あんなの、演劇じゃない」って言われました。もしかしたら、今でも言われているかもしれませんねぇ……。

 で、そういった「原理主義的」な人たちに僕が何を言っても伝わらないのかもしれませんが、もしも自分の主義主張を人に伝えて共感を得たいと思うのでしたら、なんとかうまいこと、「やさしい言葉」を使って伝えるように努力した方がよいのではないか、と思うのです。

 ちょうど昨日東京都知事選挙が終わったところなのですが、選挙公報やマスコミの報道などを見ていても、結局、石原さんの「オリンピックをやって活気を取り戻そう!!」というわかりやすい主張が、都民の心を捉えてしまったのではないか、と思うのです。  が、よーーーく読んでみると、共産党さんが書いていることって、ものすごく正論のように見えますし、民主党さんが書いていることもそれなりに正しくも思えたりします。
 が、みんながそれぞれ正しいように思えることを書いていても、それが僕らには届いてこないんですね。  なんで届かないのか。
 それは、石原さんは、作家だった時代や、衆議院議員だった時代から、いいことも悪いことも含めていっぱい「自分がどういう人か」ということを都民に伝えてきてしまっているのですね。失敗もするけど、やることはちゃんとやるぞ、しかもやってきたぞ、みたいな。そしてそのうえで、自分の言葉でやさしく伝えようとする。もちろん、差別的な発言もその経緯で出てくるわけなのでしょう(※わざわざ言い訳をしておきますが、僕は石原さんの支持者ではありません)。
 しかし、他の皆さんのことは、ちっとも「人」が見えてこないのです。いいところばかりを見せようとして、悪いところは覆い隠そうとしているので、逆に信じられない感じがしてしまうのです。

 よく、お客さんやマスコミの方々から「キャラメルボックスはどうやって上演する劇場を決めるのですか」と聞かれるのですが、答えは簡単です。「人です」。
 劇場に限らず、いっしょに仕事をする相手の会社も、そうです。
 その集団を運営している人たちの熱気。その集団のリーダーの本気。その集団に関わっている人たちの思い。その集団を取り巻く人たちの気合い。……そういった、いろんな「人」に動かされて、僕らは公演を行うのです。
 安いから、とか、スポンサーがどうだから、とか、そういったオトナな事情では動きません。
 では、「人」とはどうやって見えてくるのか。
 一つの公演を行う、ということは、準備段階から千秋楽を迎えるまで、大量の「報告・連絡・相談」が行われます。
 その一つ一つの「報告・連絡・相談」の段階で、相手の誠意が見えてきます。
 僕らといっしょにもっともっと楽しいことをしよう、と思っている集団からの連絡は、熱気がこもっています。普通の事務連絡のはずなのに、前向きな提案がどんどん混じってきます。
 が、ただただ事務的なやりとりだけで終わっていく場合もあります。
 そういう集団とは、知らないうちに疎遠になっていったりします。
 でも、そういう集団となんとかやっていかないとこちらが困る、という場合もあります。そういうときは、こっちが、徹底的に熱い「報告・連絡・相談」
をし続けます。「ここまでやってもダメならあきらめる」くらいの覚悟で。

 つまり、一つ一つの日常のあたりまえの言葉から、その人の思いというものは見えてきます。そして、いいところも悪いところも見えてきます。
 が、逆に、それだけたくさんの人たちとお付き合いしているとちょっとした言葉の端はしに「もしかしたら、ウチを利用しようとしているだけだね?」と思える言葉が、ちゃーんと浮き上がってきたりしてしまうのです。
 もしかするとご本人は全くそんなつもりがなかった、なんてこともあるかもしれません。
 しかし、だとしたら、それは恐ろしいことだと思います。
 何千万円、何億円、というお金が動く可能性があるビジネスの現場で、ちょっとした言葉の使い間違いや誤解を生むような単語選びがあったりしたら、これはもうリカバリーのしようがない事態にまで発展する可能性があるのですから。

 よく、政治家が「失言」をあげつらわれて、あとから言い訳をすることがありますが、ああいうのは、普段は実は女性のことなど軽く見ているのに政治家という立場上そんなことはおくびにも出さないように生きていて、でも、ほんとはそう思っているのでぽろっとそういう単語が出てしまった、ということだと思うのですね(←どの政治家のことかわかっちゃいますかね)。

 普段から「やさしい言葉」を使うように努力していれば、自然に、周りの人たちにやさしくなれると思うのです。自分は政治家だ、自分は先生だ、自分は●●長だ、●●の達人だ、なんていう、本来の自分ではない、「人が決めた自分を大きめに飾る肩書き」を持っていることによって、人にやさしくなれなくなってしまって、自分を大きく見せるための言葉遣いを知らないうちに体得してしまっている可能性がある人は、今からでも「肩書きのない自分」が発信する言葉に戻ってみませんか?

 ……僕も、もっともっとやさしくなれるように努力していこう、と思っています。

2007.4.11 掲載

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