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第76回 下げ膳上手なお店になりたい


僕は、「後片付け」に関してはとってもだらしないことで有名です(←自白)。
  有名、というよりも、自覚しながらもいろんな「これからやること」や「今やること」に優先順位を付けていくと後回しになっていく、というのが言い訳ですが。
  たいていの「仕事が出来る人」というのは、片づけ上手で、ピシッと片付いたデスクでぶわっと仕事をして、その日の仕事が終わるとビシッと片付けてから帰る、というものです。僕の場合は、前の晩のまま散らかしたままの雑然としたデスクで、前日の晩に途中まででやり残した仕事の残り香を嗅ぎながらその瞬間の感覚を思い出しつつ続きの仕事にかかる、というのが日々の常なのですが。

ちなみに僕は、NHKの、かつて欠かさず見ていた「プロジェクトX」の後番組だと思われる「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組もやはり大好きで、毎回録画しているのですが、残念ながら全部を見ることはできていなくて、どんどんHDDレコーダーにたまる一方……。なのですが、たまに見ると、たいていのプロフェッショナルはすごくキレイなデスクの上でお仕事をしていらっしゃいます。

とか言いながら、実は僕もやり始めるとめちゃめちゃ徹底的にやってしまう性癖があり、主に選曲で追い詰められているときに突然整理整頓を始めてしまう、という、逃避としての後片付け(前片付け?)にかけては右に出る人はいないと思いますっ!!(←ダメだろうっ?!)

まぁ、そんな僕なので社長になって、会社では社員の皆さんにそーゆー尻ぬぐいをやっていただいているわけなのですね……あぁ……なんだか書いてて悲しくなってきた……。
  人のせいにするわけではありませんが、僕のおじいちゃん(両方)たちも、父も、後片付けは苦手だった気配があります。書斎は、いつもおばあちゃんたちや母が片付けていたのを見た覚えがあります。そう、これはきっと、DNAに書き込まれたものなんです!!(←そーゆー言い訳に逃げたか)
  でも、僕のヨメは、僕の部屋なんて絶対に片付けてくれません(←甘えるな)。いや、片付けられてしまったら大変なことになるんですけどね、本当は。
  社長としてのビジネス関係のものや本。製作総指揮としての演劇関係や映像関係のものやパソコン関係の各種機材。音楽監督としての大量のCDやDVDや音楽関係の膨大な機材や楽器、各種資料。そしてブロガー&カメラマニアとしての各種カメラやレンズ。
  そんなものが、自分にしかわからない配列で、ごそっ、ごそっ、とかたまりになって配置されている、というのが僕の部屋です。もしもNHKから取材依頼が来ても、絶対に自宅にはお呼びいたしません。
  ただ、ウチの社員でシステムエンジニアの阿部くんは、僕の部屋を覗いて「いいなーーっ!!」と羨ましがっていた変わり者ですが、彼の会社のデスクは僕の部屋とたいして変わらないカオス状態です……。

さて、そんな僕のこの文を読んでいらっしゃるあなたは、果たして片付け上手でしょうか?

そんな片づけ下手な僕ですが、それはあくまでも自分の部屋に関してのこと。自分のMacの中身は、とてつもなく整然と整理されております。パソコンなんて、検索をかければ欲しいファイルは見つかるじゃないか、と思われがちですが、実はそうでもないんです。
  テキストファイルは、保存するときにそのファイルの内容が分かるようにタイトルを付けて保存するようにしているのでまぁなんとかなりますが、僕の場合は大量に写真を撮ります。この写真のファイルというのが、全て撮ったときのままのアルファベットと数字が並んだだけのものなのですね。しかも、同じ番号の書類が何枚も何十枚もあったりします。しかも、「2006年の『あしたあなた あいたい』という公演の3日目に撮った写真」とか、「1999年の『TRUTH』という公演で上川隆也がクイッと振り返ってカッコよかったときの写真」なんて、検索をかけたって出てくるわけがありません。もう、自分の記 憶力に頼って探っていくしかないわけです。
  というわけで、できるだけその検索の手間を助けるために、僕のハードディスクの中は、おそらく、僕にしかわからないのですけど、めちゃめちゃわかりやすく整理してあるのでした。
  そしてまた、公演会場となる劇場でも、僕の楽屋は大変なことになります。
長期間公演となると、会社よりも滞在時間が長くなるので、自宅に続く「第二の巣」と化してしまうわけです。

が、それはあくまでも楽屋のこと。
  お客さんをお迎えする劇場に関しては、執拗なまでの美しさとわかりやすさと機能性を追求してしまいます。
  劇場を入って、パッと見て、客席内に向かうための扉の場所や、トイレの場所など、自分で歩いてみてわかりにくいとなると、その方向を表す掲示をすぐに作り直させてしまいます。ことによっては、自分で作ってしまうことさえあるくらいです。
  また、劇場の客席は、開場前に一席一席チェックされます。もちろん劇場のスタッフもやってくださいますが、その次に制作スタッフ。そして最後に、なんと演出の成井豊がほとんどの席を巡って、どんなに小さい塵でも拾って回ってしまうのです。
  ……ちょっと、やりすぎかなぁ、とも思うのですが、これをしないと落ち着かないのでしょうね、きっと。

お客さんを劇場にお呼びする、ということは、「なんのストレスもなく、それ以上に最高のコンディションで、舞台上で行われるお芝居を楽しんでいただくこと」だと思っています。ですから、お芝居を観る、ということ以外になにかちょっとでも気になることがあって欲しくないのです。
  そんなわけで、お客さんにいかに気持ち良く快適に開演までの時間を過ごしていただくか、ということに最大の心づかいをしています。

とまぁ、それが僕らのやり方なのですが、こと「飲食関係」となると、なかなかこの「お客が感じるちょっとしたストレス」に気づいていらっしゃらないお店が多く見かけられますね。
  飲食店に行ったら、まず厨房の銀色のところを見ろ、と教えていただいたことがあります。つまり、どんなに外見がしょぼく見えるお店でも、調理場の什器がピカピカに磨かれていれば、そこの料理はおいしい、という意味です。
  あとは、メニューや、調味料が置いてある皿や、ちょっとした部分。これから来てくれるであろうお客をできる限りもてなそう、という気持ち、つまりホスピタリティを持っているお店なら、べとべとしていたりほこりが積もっていたりすることはまずあり得ません。
  それは、自分がその席に座って自分の料理を食べる、ということを想定して、出来うる限り最高の状態を作ろうと、お客の視線で考えているかどうかの違いだと思うのです。
  そしてまた、開店後も、常に店の中の状態を最善の状態にキープしておくべく、いつもいつも店長さんやホールスタッフが気を遣っているお店、というのは気持ちがいいものです。

が、これが意外に、やってるように見えてやっていないお店がとても多いのです。しかも、がっちりとしたマニュアルがあると思われるファミリーレストランでさえ、同じチェーンでも店によって違ったりするのがおもしろいんですよ。
  おそらく、マニュアルには、何時と何時にどことどこを清掃、とか、文字やデータにできることは書いてあって、みんなその通りにやってはいるのだと思います。

しかし、決定的にそのお店のマネージャーの腕がわかってしまうのが、「下げ膳のタイミング」なのです。

お客から注文されたメニューを正確に迅速にしかし美味しい状態のままサーブする、というのが飲食店の基本だと思うのですけど、これが意外なことに、 食べ終わったお皿を下げるタイミングというのは、その日その場にいるホールのリーダーやサーブする人の資質に全て関わってくるのです。
  料理を持っていく時に、視界の隅でお冷やが少なくなっているお客や、ほぼ食べ終わりそうになっているお客を確認しておき、食べ終わって、ナイフやフォークを置いて、ナプキンで口を拭き、「ふーっ」と一息つき、「あ、そろそろ片付けて欲しいな」とお客が思った、ちょうどその絶妙なタイミングでお皿を下げに行くべく、いろんな段取りを調節しているとしか思えない人、というのが、素敵なお店には必ずいらっしゃいます。
  この「タイミング」は、もう、マニュアルにはきっと書けないことだと思うのです。
  だって、食べるスピードや、食べ終わった後に片付けて欲しい、と思うであろうタイミング、というのは、100人お客がいたら100通りあるでしょうから、そのお客の表情や雰囲気を感じ取るだけの観察力と想像力がなければできることではないと思うのですね。
  僕が想像するに、「食べ終わった皿を見つけたらすぐ下げる、しかしまずサーブが優先」というのが基本のマニュアルになっているのではないでしょうか。能率だけを追求していると思われる店では、「客が席を立って帰るか、下げてくれと言われるか、食べ終わってもいつまでも帰らないから追い出したいと思う時まで放置」、なんてところも確実にありますね。
  「すみませーん、このお皿、下げてくださーい」と、特に追加注文も無いのに頼む、というのも変な感じがしますし、次のお皿が来ることにお客であるこっちが気を遣うのもなんだか逆な気もしてしまいますし、皆さん忙しそうなので、まぁ、次の皿が来る前に向こうがなんとかするだろうなぁ、と遠慮してしまったりもしますし。

で、なんでこんなことに気づいたのかというと、子供が出来て、1人目はまだしも、2人目、3人目、と増えてきたからなのです。子供がいるだけで、なぜか机の上はいろんなお皿が増えます。だいたい4人掛けの席に僕とヨメと長男と次男が座ると、大人2人分と子供2人分の皿が並ぶわけですが、飲食店というのはたいてい、小学生以下の子供がいる家族連れには「取り皿」を出すのです。それらのせいで、どんどん机の上が埋まっていくのですね。5人目(4.5人目?)の赤ちゃんが加わってからは、それはもう、より一層大変なことになっているのです。
  ちょっとスパゲティを食べたい、と思ってファミレスに入ると、子供たちはハンバーグだ、カレーだ、と、いろいろ勝手に頼みます。そして、ファミレスっていうのはたいてい自動的にセットメニューになっていて、スープ、サラダ、パスタ、ピザ、メインディッシュ、デザート、とか続々と運ばれてくるわけですが、これらの一つ一つのメニューにいちいち取り皿を持ってきてくれてしまう店さえあります。

が。

空いたお皿を下げないんですな。

ていうか、下げる前に次のを持って来ちゃう、なんてことがあって。
  で、料理を持ってきた店員さんが、僕らが机の上を空けるまで皿を持ったまま立って待ってる、なんてこともあり。「おいおい、キャクが皿どけるの待ってるよ」とビックリすることも多々あります。あまりにもそれが続いたときは「持ってくる前に、まず食べ終わったお皿を下げてね」と言ってあげたこともありますが、そうすると憮然とされてしまうことが多いので、最近はオトナになって自分で机の上のものを持ち上げて協力するようにしてはいますが、やはり釈然としないのです。

僕らにたとえれば、「下げ膳」は「カーテンコール」に値するのでしょう。
  「おなかいっぱい、と思っていただけるようなカーテンコール」って、どのくらいの回数なのか、タイミングなのか、内容なのか。それを、ずっと考えてきています。
  お芝居が終わって、出演者みんなが舞台上からお客さんにご挨拶をして、それでおしまい、というのではちょっと物足りない。だから、もし拍手をいただければもう一回出て行ってご挨拶。でも、それでもまだ拍手が続いた場合でも、また出て行く。と、一応、拍手が続けば何度も出て行く、という気持ちではあるのですが、演劇界の場合はこれが「慣例化」してしまうという弊害があったりします。
  「あそこの劇団は、たいしていい舞台だったってわけでもないのに、3回目のカーテンコールでは必ずスタンディング・オペーションが起きる」なんて話をよく聞きます。
  なんか、そういうのって、気持ち良くないというかキモチワルイというか。
  だから、キャラメルボックスでは、公演ごとに、実は「気持ち良くお帰りいただける工夫」をしているのです。これはもう、公演ごとに違って、しかも、その日その日でも違ったりしますので、言わないでおいた方が楽しんでいただけると思います。あ、直接お問い合わせいただければ、もちろんお答えいたしますが。

そんなわけで、皆さんのお仕事にとって「下げ膳」はどんなことに対応しているでしょうか?そして、「下げ膳」をちゃんとやれているでしょうか?
  それをちゃんとやると、きっと、ちょっとだけ幸せな気分でお客さんが帰路についていただけるのではないかな、と思うのです。

2008.2.8 掲載

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