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矢野真木人殺人事件の民事訴訟


以下は、矢野真木人殺人事件の民事訴訟の訴状の要約と抜粋です

請求金額の根拠は
1、真木人に予想される生涯年収を本にライプニッツ計数から算出した
2、真木人が生涯にすると思われる貯蓄(蓄積)金額(利息含まず)の3分の2程度です


なお、
私どもは、「(医療法人社団以和貴会)いわき病院」の社会的存在意義は認めます。

このため、いわき病院が医療内容を改善して存続し、将来ともよりよい社会貢献をしてもらうために、私どもの請求金額が法人の資産を上回らないことを配慮しました。

また、いわき病院および渡邊家が所有する総ての資産のごく一部を請求するに止めました。
すなわち、今回の訴訟が終了した後も、いわき病院に充分な余力を残し、その上で病院が自戒の念を持ち、自浄作用を発揮して健全な病院として運営されるようになることを期待するものです。
そのための、いわき病院側の余裕を見越した上での、損害賠償請求金額とさせていただきました。

以上、今回の訴訟は、あくまでも
精神障害者の社会再適応が日本で健全な制度として確立することを目的とした
訴訟です。


亡き矢野真木人もいわき病院の不始末により命を失いましたが、そのための礎となるのでしたら、本望であるのかも知れません。

親としては残念でなりませんが


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訴状の抜粋と要約
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提訴日 平成18年6月23日

原告 矢野啓司と矢野千恵
被告 医療法人社団以和貴会 代表者理事長 渡邊朋之
および、野津純一

損害賠償請求額 4億3435万円


1、被告野津純一の病歴

被告野津純一は、中学卒業後の昭和58年4月頃から、
統合失調症、強迫神経症などの病名で
複数の精神病院で通院治療を受けていた。

(1)、昭和58年4月から平成6年1月まで、
竜雲メンタルクリニックにおいて、
思春期危機、不登校状態、境界型人格障害、汎神経症、汎不安、偽神経性分裂病

(2)、昭和62年4月〜同年8月まで、
大川総合病院神経科において、
強迫神経症

(3)、昭和63年3月〜平成13年6月まで、
香川医科大学(現香川大学医学部)において、
強迫神経症

(4)、平成2年11月〜平成10年4月まで、
磯島クリニックにおいて、
強迫神経症

(5)、平成11年6月〜平成12年7月まで、
和泉クリニックにおいて、
統合失調症

(6)、平成11年9月〜平成11年12月まで、
三光病院において、
強迫神経症

(7)、平成13年4月〜平成16年10月まで、
山本医院
統合失調症

(8)、平成13年4月~平成16年10月まで、
被告いわき病院において、
統合失調症、強迫神経症


2、被告いわき病院への入院

(1)、被告野津純一(36歳)は、
統合失調症、強迫神経症の病名で平成16年10月から
被告病院に任意入院し、治療を受けていた。

(2)、入院直後頃。看護師や他の患者に飛びかかるなどの問題行動があり、閉鎖病棟に入れられていた時期もあったが、 その後開放病棟に移され、被告病院の社会再適応(社会生活技能訓練)プログラムで、病院外に単独で外出訓練中だった。


3、被告野津純一の過去の凶状暦

(1)、中学時代には引きこもり、不登校になり、友人の間ではおかしい男として有名であった。
昭和61年10月25日(17歳)に自宅火災を起こした(放火と思われるが詳細は不明)。

(2)、10年前に、香川医科大学入院中に家から包丁を病院内に持ち込んだ騒ぎを起こした。

(3)、3〜5年前に、山本医院から親と一緒に帰宅する途中に、香川県庁前の街頭で無関係な通行人にイライラしてぶつかり喧嘩になったが、父親が止め、5万円の示談金を払って警察沙汰にならずに済んだ。

(4)、平成16年11月、被告いわき病院内で、洗濯中の看護師につかみかかった。
被告病院では被告野津は複数回看護師に襲いかかり、看護師は野津被告が大男なので(身長184センチ、体重100kg)用心していた。
この他にも他の患者に襲いかっかったこともある。

(5)、近隣関係で、妄想から、ニワトリが襲ってくるといって詰め寄り抗議したことがある。

(6)、平成17年11月末(本件の1週間前頃)に、イライラして自分の左頬にタバコの火を押し付けて「根性焼」をしたといっていた(自傷行為)。以前にも同じところに傷痕があった。しかし被告病院では院長にも報告されなかった。


4、犯行当日の状況

(1)、被告野津純一は、院内の喫煙所が汚れていることなどに不満を持ち、何 者かが自分の喫煙を邪魔しようとしているなど考え、さらに自室の隣の非常階段 のドアの開け閉めの音が煩わしく思い、また病院内の他の患者の話し声を聞いて、 自分の父親の悪口を言われているように考え、その憤懣を解消するために、「誰でも良いから、包丁を使って人を刺し殺してやろう」などと考えていたが、病院 の医師や看護師、他患者を殺害することについては病院の迷惑などを考えて思いとどまっていた。

(2)、被告野津純一は、平成17年12月6日正午頃、被告病院を出て1kmあ まりの距離があるショッピングセンターへ行き、センター内のいわゆる100円 ショップで万能包丁(刃渡り15cm)を購入した。

(3)、同日0時25分頃、亡真木人はレストランで昼食を終え、ショッピング センターの駐車場に止めてあった自車に戻ろうとした時、見ず知らずの被告野津純一に約1mの距離から、突然右胸を刺され、胸部大動脈がほぼ切断され即死した (通り魔殺人)。

被告野津純一が刺した包丁は、亡真木人の右前胸部から後ろ左下方に向け、約18cmの深さまで達し、右肺下葉下端、横隔膜、肝臓、胸部大動脈、左肺下葉を損傷し、出血死した。

(4)、被告野津の公判の際の検察官陳述では、車の影で人目に付きにくい場所で出会った人間を殺した、ということである。


5、犯行後の経過

(1)、被告野津純一は、返り血を浴びた洋服のままで、俺に人生終わってしもた。」などと思いながら、被告病院に帰った。また病院内で手に付いた血を洗うなどしていたが、被告病院では異常に気付かなかった。

(2)、被告野津純一は、犯行後すみやかに被告病院に帰り自室にこもっていたが、被告病院長はこれを外出時間から2時間遅れて被告病院に帰ったと錯覚していた。

(3)、被告野津は、同日、面会予定の両親との面会を拒み、夕食も食べず、翌7日の朝食も食べなかった。

(4)、被告病院内では、夕方のテレビニュースで本件殺人事件報道を見て、事件現場が近いことが話題になったったが、被告病院長は被告野津純一の異常行動に気付くことがなかった。

(5)、夕食の時に呼びに来た病院職員に対し、被告野津は「警察が来たんか?」と聞いたため、その者は「何をいいよるんか?」と思ったそうであるが、それ以上の問いや質問をせず、被告病院は気付かなかった。

(6)、翌7日の朝、警察官が被告病院を訪問して、ショッピングセンターで撮影された被告野津の写真を見せて人定質問と捜査をしたが、被告病院職員は誰一人被告野津に気付かなかった。

(7)、被告病院は、被告野津純一の異常に気が付くことなく、翌7日の午後にも前日と同じ様に外出を許可した。

(8)、7日、被告野津純一は、犯行現場近くに現れ、ちょうど取材中だったテレビ局のスタッフの目にとまり、警察に通報されて、拘束された。この時、テレビ局のスタッフは充分な安全距離から被告野津の左頬にあばたがあることを視認して、それを報道した。

(9)、拘束後の身体検査では、前日と同じ衣服を着用しており、返り血が付着しいていた。


6、被告病院の院長らは、社会再適応訓練(ノーマライゼーション)および開放処遇(早期退院)は国の指導に基づくものであり、病院には責任がないという発言を繰り返している。


7、被告野津純一は、鑑定留置による精神鑑定の結果、慢性鑑定不能型統合失調 症、反社会的人格障害と診断されたが、犯行時心身喪失ではなく、心神耗弱状態 であった可能性はあるが刑事責任能力はあると判断されて、平成18年2月27 日に殺人罪などで起訴された。

8、警察や検察の調べに対して、被告野津は、「非常階段の騒音に悩まされて 憤懣を募らせていた」、「病院の喫煙所が汚れていたことなどにいらいらして、 誰でもいいから人を殺そうと思った」「病院を出る時から誰かを殺すつもりだっ た」「包丁購入後に最初に出会った人間を殺した」などと動機などを供述してい るという。

【3】被告いわき病院の責任

1、過失の内容

(1)、診断と治療方針の誤り

1)、反社会的人格障害の診断がされていない。
被告野津純一は、鑑定留置による精神鑑定の結果、慢性鑑定不能型統合失調症、 反社会的人格障害と診断されているが、
被告病院では反社会的人格障害の診断がされていない。

その誤診のために被告病院の社会再適応・社会生活技能訓練プログラムで、病院 外に単独で外出可能と判断したものであるから、
反社会的人格障害の診断しなかったことは過失である。

2)、渡邊院長が被告野津の主治医でもあったが、渡邊院長の野津に対する診察 は一週間に一回しか行われていない。

また渡邊院長の診察は夜10時頃に始まるのが通例で、時には真夜中の2時に回診 することもあった。

このような診察で患者の病状が適切に把握されていたとは考えられない。

被告病院においては平成16年10月から1年以上被告野津の治療をしてきているが、 被告野津の病状は改善していない。

被告病院の治療の不適切さを確認させる。

3)、被告病院は、精神科も掲げているが、実質は老人病院で、医師も看護師も 精神科の専門知識が不足している。

4)、第二病棟では痴呆老人と精神障害者を混在させており、精神科を専門とす るスタッフが不足した状態で運営されているため、精神障害者に対する治療が行 き届いてない。

5)、被告野津の社会再適応が可能であると判断した過失 被告野津の病状からすると、社会再適応のための技能不足により病院外に単独 で外出させることは危険な病状であったにも関わらず、主治医である渡邊院長が その判断を誤って単独外出させたことは過失である。

3)、異常発生(行動)の予兆(前兆)を見逃した過失。
平成17年11月末(本件の1週間前頃)に、イライラして自分の左頬にタバコ の火を押し付けて「根性焼」をしたと言っていた。

被告野津が当時イライラした状態で病状が悪化していたことを示す出来事であり、 本件凶行の前兆とみてもよい出来事を見逃している。

新聞紙上でも多くの専門家が前兆があったはずだと発言しており、被告病院にお いて、被告野津の病状の把握が十分にされておらず、主治医である渡邊院長が、 前兆を見逃したことは過失である。


(2)、看護、監督義務違反

1)、被告野津はアネックス病棟という開放病棟にいた。
このアネックス病棟は、1日700円で病院内でアパート形式の個室になっている。
エレベータは暗証番号式で、暗証番号を教えられていた患者は自由に出入り できるようになっており、被告野津は暗証番号を教えられていたから自由に 病院内を出入りしていた。
アネックス病棟には、ナースステーションはあるが、常駐のスタッフは誰もおら ず、同じフロアの介護(痴呆)老人病棟のナースステーションにおいてアネックス 病棟も遠隔管理・監視するシステムになっているが、モニターシステムもなく、 内科・介護病棟の看護師は痴呆老人の介護でとても忙しく、アネックス病棟まで 手が回らない。

したがってアネックス病棟にいた被告野津はいつでも自由に外出することが でき、被告病院において外出中か院内にいるか確認もできなかった。
このような病棟に被告野津を入れて自由に行動させておいたことは、被告病院 の過失である。

このようなアネックス病棟における患者管理上の不備を放置したことは、被 告病院長渡邊朋之の過失である。
2)、被告病院では被告野津を付き添いもなく一人で外出させた。
看護師、作業療法士などが付き添うべきだったのであり、単独外出させたことは 過失である。

3)、単独外出させてよい病状だったかどうか?

被告病院の渡邉病院長は同時に被告野津の主治医でもあったが、当日、外出前に 野津を診察したわけではなく、診察もしないまま外出させたことは誤りだった。

被告病院の渡邉病院長は被告野津純一を実質的に月に数回しか診察せず、しかも その診察時間は異常な時間帯であり、被告野津純一の状態を適切に診断していた とは言えない。

被告病院の渡邉病院長は事件後の記者会見で、「今後は一人の医師が判断するの ではなくて主治医以外の診断も仰ぐように体制を改めたい」としているが、これ は看護師などスタッフを動員した毎日の患者の状態の変化を把握する病院の体制 の必要性に気付いていないことを示している。このため患者の毎日の状態は適切 に把握されない。

本件の1週間前頃に、イライラして自分の左頬にタバコの火を押し付けて「根性 焼」をしたと言っていたことなどを把握していれば、被告野津が当時イライラし た状態で病状が悪化していたことが把握できたはずであり、そうすれば単独外出 させることが危険と判断できるはずである。

被告は開放医療の必要性を主張するが、放任としかいえない杜撰な医療である。

4)、被告病院では、亡真木人を刺し殺し、(削除:外出制限時間を2時間ちかくも 超えて)返り血を浴びて帰院した被告野津の異常及び異常性にスタッフの誰一人 として気付かなかった。

被告病院は、被告野津が病院内にいるにも関わらず、その存在を2時間近く把握 できなかった。

翌日も返り血を浴びた衣服のままで外出した。

入院患者に対して無関心で杜撰な医療しか行っていなかったことの証左である。

5)、野津被告は、「病院の喫煙所が汚れていたことなどにイライラして、誰でも いいから人を殺そうと思った」と供述しているが、被告病院において被告野津の 病状を丁寧に把握していれば、イライラして病状が悪化していること、単独で外 出できる病状ではないことは判断できたはずである。

被告野津のいたアネックス棟には常駐の看護師がおらず、同じフロアの介護老人 病棟の内科の看護師は被告野津のその様な精神状態を把握できていなかった。

そのような緻密な観察と判断をしなかったことは過失である。

6)、被告野津は頻繁に行われるドアの開け閉めの騒音に悩まされて、他人の話 し声を自分の父親の悪口を言っていると考えて憤懣を募らせていたが、被告病院 は強迫神経症と診断しておきながら、被告の個室を大きな騒音がする非常階段の すぐ隣にするなど、被告の精神状態が悪化する危険要因を病院の処置で造りあげ ていたにもかかわらず、被告病院はこれに気が付かなかった。


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