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いわき病院医療が引き起こした矢野真木人殺人事件
相当因果関係と高度の蓋然性


平成26年5月7日
矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


3、相当因果関係と高度の蓋然性

(2)、相当因果関係の証明

いわき病院の不法行為(重大過失)と矢野真木人殺人事件とは相当因果関係がある。患者を経過観察せず何のケアもしないで外部に外出させたいわき病院の過失とその患者(野津純一氏)が外部で事件を起こしたことに高度の因果関係(責任追及の論理)は存在する。そもそも、渡邊朋之医師が平成17年11月23日(水・祝日)から行った複数の向精神薬の同時突然中止と、その後に経過観察を適切に行わず、病状の悪化を見逃して、放置した過失がなければ、野津純一氏は通り魔殺人をしない。結果、矢野真木人は現在でも100%の確率で生存している。


(1)、論点A:「当時の一般水準の精神科医師である場合には、殺人・傷害事件が発生する可能性を予想できたか。」 →普通のレベルの誠実に仕事をする医師であれば予想できた。

  1. 野津純一氏は過去の放火暴行履歴が存在し、いわき病院に入院時に本人及び両親が申告していた。更に、いわき病院に入院後に看護師に対する暴力行為があったが、主治医を交代した渡邉朋之医師は、それらの事実を軽視して詳細な調査分析を行うことを怠り、統合失調症治療中止時にも考慮しなかった。
  2. 複数の向精神薬の同時中止〈抗精神病薬(プロピタン)の突然中止とパキシル(抗うつ薬)の突然中止)〉は、慢性統合失調症患者の治療の中断であり離脱の危険性を高め、かつ自傷他害の衝動性を亢進する恐れが極めて高いことは、当時でも現在でも基本的な常識である。それらの知識は、統合失調症治療ガイドラインや、パキシル等の薬剤添付文書を見ればだれでも簡単に理解できる情報である。
  3. 野津純一氏は事件の直前に、根性焼きを行っており、渡邊朋之医師は主治医として経過観察を普通に行えば、患者が危険な状態にあると容易に予測できた。いわき病院では、適切に経過観察をするよう看護師に指示しておらず、渡邉朋之医師も、診察を求める患者の要望を拒否したので、患者の病状(精神症状とアカシジア)が「根性焼きをしても耐えられないほど」悪化していた等の事実が何も分からなかった。結果予見可能性を持たなかったのは、渡邊朋之医師の怠慢と不作為が原因である。
  4. 渡辺朋之医師は診察しておらず、知らなかったから責任は無いとする論理は主治医として責任放棄の過失である。

(2)、論点B:他人のうち、特定の者(矢野真木人)を殺害することは予想できたか。→できなかった。

「高松地裁判決(P.46〜47)は「矢野真木人に発生した死亡結果を(未然に)回避できたことを80〜90%以上の確率をもって具体的に想定」する高度の蓋然性を証明するように求めた。渡邊朋之医師は複数の向精神薬の同時突然中断で、自傷他害の衝動が野津純一氏に亢進することは予測できた。しかし、患者が激高した状態で外出を許可する際に、特定の誰かを攻撃することは予め予見不可能である。野津純一氏は、たまたま出会った攻撃し易い相手を選んだもので、矢野真木人が犠牲者となったのは全くの偶然である。渡邊朋之医師は自傷他害行為が発現する可能性を予見して、適切に結果回避の対応をしていたならば、矢野真木人は今日でも100%生きている。


(3)、論点C:いわき病院の治療行為の変更がされた時点で、普通の一般水準の医師であれば殺人・傷害事件を回避できた可能性はあるか。→ある。

  1. 渡邊朋之医師が、普通の常識的な能力を有する精神科医師であれば、また主治医として必要な経過観察をしておれば異常を発見することは可能であった。特に、処方変更後に経過観察を行うことは、当時でも現在でも変わることがない医療の基本であり、また常識である。
  2. 病状が悪化した野津純一氏に対して、向精神薬の投薬を再開し薬量を元に戻しさえすれば、症状が緩和し、殺人衝動が減少したことは容易に想像できる。突然中断した薬剤の使用上の注意に従うなら、そうしなければならなかったし、そうすることが対応の基本である。更に、渡邊朋之医師は野津純一逮捕後には、そのように処方した。渡邊朋之医師が事件後に何が原因かを理解した証拠である。
  3. 患者野津純一氏は、緊急の診察要請を担当看護師を通して伝えた。主治医がこの診察要請を拒否しなければ、通り魔殺人行為に及ぶことを回避できた可能性は大きい。元々、野津純一氏には矢野真木人を含む市中の通行人を個人的に攻撃対象にする動機や恨みはなく、向精神薬の突然中断による激高がおさまれば、外出時に包丁を買うことも無く、殺害に及ぶこともない。

(4)、論点D:いわき病院は、事件の発生を回避する努力をしていたか。→事件発生回避の努力は全くしていない。

  1. 主治医の渡邊朋之医師は薬剤師の協力を得ておらず、重大な向精神薬の処方変更と、関連する重要注意事項を病棟看護師などの精神科医療スタッフに知らせていない。
  2. 処方変更後の精神障害の病状の経過観察の注目点と、異常を発見した際の対応を明確に指示していない。
  3. いわき病院の医師も医療スタッフも危機意識を持たず、患者を放置した。野津純一氏が殺人後に病院に戻ったときも、返り血や食欲不振にも注意を払わず、逮捕されてから患者がいないことに気がついたようなお粗末さであった。

(5)、結論

常識論に基づけば、「因果関係の存否は、結局のところ、発生した損害を誰に負担させるのが公平であるかという社会通念から決定される」と考えることが正しい。野津純一氏の放火暴行履歴に基づけば、再発時で激高した場合には、病院内の看護師だけでなく不特定の者に対して殺戮行為を働くことは十分に予見できた。野津純一氏が激高状態に至った原因が、いわき病院(渡邉朋之医師)の治療上の重大な過失によるものであり、本件事件で事前の結果予見可能性を持ち得たのは唯一主治医の渡邊朋之医師であった。



   
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