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いわき病院医療が引き起こした矢野真木人殺人事件
相当因果関係と高度の蓋然性


平成26年5月7日
矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


8、北陽病院事件に関する最高裁判例

(4)、精神科開放医療と他害の危険性の予見性

(1)、措置入院及び刑事記録がある他害の危険性

いわき病院代理人は「北陽病院の犯人は、他害の危険性が診断された措置入院患者で、過去にも無断離院をするなど他害の危険性を考えることができない任意入院患者の野津純一氏とは異なる」との立場である。また、「純一は放火暴行履歴の前科がないため、他害の危険性を診断することはできない」と主張する。これに関連して精神科医師から「精神科医療で他害の危険性を予想した対応を行う前提として、前科の記録があることが条件」と指摘があった。「前科がなく措置入院でもない野津純一氏が通り魔殺人したいわき病院事件は、北陽病院事件判決を前例とすることは困難」という意見である。

精神障害者の場合、患者の放火他害行動を行った事実と刑事罰(前科)は必ずしも連動しない。殺人事件の加害者が精神鑑定で心神喪失が認定されて、刑事処分が行われず心神喪失者等医療観察法の下で治療を行うことは珍しくない。何回傷害事件(殺人未遂)を起こしても、また殺人をしても前科が付かないことがあり得る。そもそも精神科医療における患者の診断と、刑事処分は異なる。精神科医師は患者の過去の行動歴および患者診察で示す表現等の観察及び発言を聴取して患者の行動の特質を診察することが正しい。ましてや、事件直前の野津純一氏は渡邊朋之医師の複数の向精神薬の同時突然中止で攻撃性が極めて亢進した状況にあり、主治医は慎重に経過観察を行う義務があった。しかし、いわき病院代理人の論理に基づけば、野津純一氏が任意入院を希望したから自傷他害の危険性を検討しなくても良い事になる。精神科専門医(精神保健指定医)としての知識や技能は必要ないとする無責任な精神科医療である。これは、厚生労働大臣により知識及び技能を有すると認められた指定医(精神保険福祉法第18条)は、措置入院の決定だけでなく、任意入院患者の行動の制限の是非も判断することが求められる(精神保健福祉法第37条第1項に基づく厚生労働大臣が定める基準)ことに反する。

いわき病院(渡邊朋之医師)が、野津純一氏は「自傷他害など考えられない任意入院患者」と主張した事が、そもそも精神科医師の義務逸脱である。また、いわき病院が、任意入院患者がおこす暴力事件(殺人)という結果の予見を特段の根拠もなく行わないで、精神科開放医療を推進したことを証明する。結果予見性を持たなければ、結果回避可能性は無い。これは医師の義務違反であり、発生した事故に対して過失責任が問われて当然である。高松地裁判決が、任意入院患者であることを根拠に他害の危険性を否定したいわき病院の医療を容認したことは、重大な誤審である。精神障害者福祉法第36条第1項では、任意入院患者に対しても、医療又は保護に必要な限度において行動の制限を行うことができるとしており、同法第37条第1項では厚生労働大臣が入院中の患者の処遇について基準を定め、精神科病院の管理者はその基準を遵守する義務を定めている。本意見書16ページの参考で示したように、事件発生当時でも厚生労働大臣の基準では、任意入院患者の開放処遇を制限する場合として自傷行為の恐れがある場合等(他害の恐れも含むと理解できる)を挙げている。指定医の渡邉医師が知らなかったはずはない。


(2)、野津純一氏の放火暴行歴と他害を行う可能性

矢野真木人を直接的に殺人した野津純一氏に前科が記録されてないことは確かである。しかし、17歳時の自宅及び両隣を全焼させた大火災の原因者は野津純一氏(本人は放火と診察で述べた)であり、未成年及び精神障害者でなければ刑事処分や補導の対象となった事件である。また、包丁を持った医大女医襲撃未遂事件は殺人未遂と言える事件であるが公式の記録になっていない。さらに、いわき病院に入院する前の香川県庁前の通行人襲撃事件は親が示談金を支払って解決した。しかし、精神障害者でなければ示談金を支払っても暴行行為で前科となる事件である。野津純一氏はいわき病院に入院後にも平成17年10月21日に突然看護師を襲った。隠された事件がなくても、野津純一氏には上記の暴行歴がある。野津純一氏の両親はいわき病院入院時に過去の放火暴行履歴を説明し、野津純一氏も主治医が交代した時に渡邊朋之医師に「25歳時の一大事」などの暴行を行った事実を説明した。いわき病院と渡邊朋之医師が「前科がないから、放火他害行動歴を調査しなくても良い、野津純一氏の行動歴を分析しなくても良い、自傷他害の危険性が無い患者、自傷他害歴は知らない」などと主張することは、精神科開放医療を推進する医師として、義務と責任の放棄である。


(3)、いわき病院の向精神薬に関する錯誤は重大な過失である

渡邊朋之医師は主治医として受け持った患者の病状を適切に診断せず、病状の変化に対応しない臨床医師である。渡邊朋之医師の不誠実な診療姿勢と不作為が明らかな精神医療を以下に、列記する。

  1. 複数の向精神薬の同時突然中止
  2. ア、 慢性統合失調症患者に抗精神病薬(プロピタン)を中止して、統合失調症の治療を中断したまま放置し、抗精神病薬の再開を考えなかった
    イ、 突然中止の危険性が特に指摘されるパキシル(抗うつ薬)を突然中止した
    ウ、 患者がアカシジアで苦しんでいることを承知しながら、アカシジア治療薬のアキネトンを薬効がない生理食塩水に代えるプラセボテストを実行して、医師によるプラセボ効果の評価判定を行わなかった

  3. 病状変化を経過観察しなかった
  4. ア、 平成17年11月23日(祝日:重大な薬剤処方変更を開始)から12月7日の身柄拘束までの間に11月30日の1日しか診察した記録が無い
    イ、 プラセボテストを3日だけ行うと計画したが、12月1日のプラセボ実施から3日後に診察せず、効果判定を行わず、漫然とプラセボテストを継続した
    ウ、 受け持ち患者野津純一氏の度重なる診察要請に応えず、診察拒否をした
    エ、 野津純一氏が顔面に自傷した根性焼きを発見することがなかった

  5. 医師としての基本的素養の欠如
  6. ア、 統合失調症治療ガイドラインの基本を無視した抗精神病薬の中止を行った
    イ、 当時は既に常識であったパキシル突然中止の危険情報を知らず、またパキシル添付文書の記載を間違えて理解していた
    ウ、 パキシル添付文書の突然中断の注意に関する理解を間違えていた
    エ、 パキシル・プロピタン・インタビユーフォームを中途半端に理解していた
    オ、 重篤副作用疾患別対応マニュアル、アカシジアの中途半端に理解した無謀な処方中止を実践した
    カ、 重大な処方変更後、患者に問診せず、病状悪化に気付かなかった

(4)、11月23日からの精神科医療に不作為があった過失

いわき病院と渡邊朋之医師の決定的な過失は平成17年11月23日から野津純一氏に対して行った、複数の向精神薬(プロピタン、パキシル、アキネトン)の同時突然中止及びその後の患者の病状変化を経過観察せず、病状の悪化に対して治療的介入を行わなかった不作為である。渡邊朋之医師が行った医療は「精神科開放医療を誠実に行っている中の不可抗力で病院から許可による外出中の患者が殺人事件を引き起こした」と弁明できない。渡邊朋之医師が主治医として行った複数の向精神薬の突然同時中断で患者の病状が悪化していたにもかかわらず、主治医として患者を経過観察せず、放置して責任放棄を行った事実が過失である。渡邊朋之医師は、野津純一氏のような放火暴行履歴がある統合失調症患者に抗精神病薬を中止して治療を中断する危険性を認識せず、合わせて、パキシル突然中断の危険性も認識せず、漫然と外出許可を出し続けた。渡邊朋之医師は精神科医師であれば当然の、患者の重大な自傷他害の危険性に関して、常識ある、普通の医師であれば当然持つべき、予見可能性を持たず、治療的観察と介入を何も行わなかったことで、結果回避可能性を持たなかった。いわき病院と渡邊朋之医師の過失責任は極めて重い。北陽病院の比ではない。いわき病院と渡邊朋之医師には、精神科医療の本質面で、錯誤があり、同時に不誠実な医療を行っていた。



   
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