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女もほれる女『カケラ』

まずは、前回『マイレージ、マイライフ』中のクイズ、
"今回のジェイソン・ライトマン監督と次回『カケラ』の安藤モモ子監督の共通点は何でしょう?
(ヒント:お二方ともメディアで紹介される際に使われたりもする言葉)"
おわかりになりました?

もう一つヒント、次回ご紹介予定の『月に囚われた男』のダンカン・ジョーンズ監督にも共通。
  答えは二世。それぞれ『ゴーストバスターズ』のアイヴァン・ライトマン監督、奥田瑛二・安藤和津夫妻、デヴィッド・ボウイのお子様で、いわゆる二世と呼ばれる方々。

これ、ねらったわけではなく、ご紹介しようと考えていたこの3つの日本公開時期がなぜか連続。
  それで、しばし二世考。有名人が親だと、注目されるというメリットと、親を基準としがちで評価が辛めになるというデメリットがありそう。そのあたり、ヒット作続きでアカデミー賞候補ともなったライトマン監督はもうクリア、安藤監督、ジョーンズ監督も、デビュー作を見た限りでは、今後も厳しい目に耐えていきそうな期待大。

本作では二人の女性メインキャラクター、ハル(満島ひかり)とリコ(中村映里子)がいい。
  欠けた体の部分を作るメディカルアーティストで、欠けた月を美しいとも言うリコは、自分のどこか欠けた部分も、そのまま抱えてやっていこうとしているようだ。それには強さが要る。強くあろうとすることが、リコを優しくもしている。
  強くなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない…ハードボイルドの名セリフを思ったりもするが、ハルは学生らしいアパートで、リコは下町の風情が残る町で家族と、それぞれ地に足の着いた暮らしを送っている。

自分の気持ちをストレートに話すリコだが、ハルにひかれ、つきあいが始っても、何も無理強いすることはしない。ハルの意向などおかまいなしに、自分の都合、欲望を押し付けるハルのボーイフレンド(永岡佑)とは、対照的に描かれる。
  人に無理を強いないリコは、自分が無理を強いられそうな時も、できないことをきちんと伝える。リコが乳房を作った女性(かたせ梨乃)が、乳房だけでなく、欠けた心までリコに埋めさせようとするのを感じると、うやむやにぜず、思いにそえないことを誠実に話す。

プレミアが開催されたロンドン、レインダンス映画祭での上映後の質疑応答では、フェミニズムについてのやりとりがあった。確かにボーイフレンドとリコの対比では男性に分が悪く、フェミニズム映画ととれないこともない。
  だが、本作では主に性を通して描かれる人への姿勢は、性に限ったことではない。家族でも友人でも、慣れ親しんだ間柄ほど、何かを強いる、自分の何かを埋めさせる関係に陥りがちだ。
  そこをおろそかにしないことで清々しさを感じさせるリコ、等身大の女子大生として描かれ共感を呼ぶハルともども魅力的なキャラクターになっていて、原作のLOVE VIBES(桜沢エリカのコミック)も読み比べたくなった。

『カケラ』4月3日公開 ■ ■ ■

ボーイフレンド(永岡)とのつきあいも、今ひとつパッとせず、喫茶店でぼんやりしていたハル(満島)にとつぜん話しかけてきたリコ(中村)。最初はとまどうハルだったが、ちょっと変わったところのあるリコとの時間を楽しむようになり…
  ところで私、今の今まで、リコの上司として登場したの長門裕之だと思い込んでました!出演者の名前書くのに確認したら津川雅彦…年齢とともに兄弟同じ顔になってない?

 監督 安藤モモ子
 出演 満島ひかり、中村映里子、永岡佑、根岸季衣、光石研 ほか

2010.3.24 掲載

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