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コリン・ファースの集大成『英国王のスピーチ』

この掲載中に、アカデミー賞が発表されるはず。『ソーシャル・ネットワーク』とこちら、さあ、どちらか?
  作品賞は華のある『英国王のスピーチ』、シャープな『ソーシャル・ネットワーク』には監督賞で、これまでのすごい作品の数々で切れ味を磨いてきたデヴィッド・フィンチャーに報いるのが妥当な線?
  英国王〜のトム・フーパーは、イギリスのテレビで見ごたえのあるドラマを作ってきた監督。映画は、こちらも好評だった『くたばれ!ユナイテッド-サッカー万歳!-』(第33回で少しふれています。)に続く3作目にしてオスカーに王手。

確実とも噂されるけど、コリン・ファースの主演男優賞はぜひとも、そうなってほしいところ。コリンにあげたいというより、この役だからこそ、あげてほしい。
  コリンと言えば、ブレイクのきっかけになったのがミスター・ダーシー。ジェーン・オースティン原作のBBCドラマ『高慢と偏見』で、家柄よし教養ありでお高くとまった嫌味な奴かと思いきや、というダーシーで、イギリス女性のハートをがっちりつかんだ。その高慢と偏見をベースにした『ブリジット・ジョーンズの日記』のダーシーで、今度は世界の女性ファンを獲得。
  その後、画家、妻を亡くしたシングル・ファザー、ゲイの大学教授などなどバリエーションをつけながら、情も感じさせる知的な紳士役と言えばこの人という役者になった。今回の吃音に悩む国王は、その極めつけ。売れっ子とは言え、こんなに良さが出せる役はそうあるものじゃない。

ジョージ6世は、吃音をかかえてしまう人として「典型的」と後に出会った治療者ライオネルが言う子ども時代を過ごす。将来の王として育てられた兄の影で、左利きを直す厳しい特訓を受け、X脚をまっすぐにするため痛みをともなうギブスもはめられる。幼少の頃から矯正され続け、おびえ続けて育った。
  そんな生い立ちを聞いただけで泣けてきそうなとこに、恋のため王座を捨てた兄に代わって王となったことで、ますます深刻に吃音に悩まされたなんて、もう好きな英国王ナンバー1だ。いえ、勢いで言ってるだけなので、ナンバー2や3は聞かないでね。
  でも、好きになるのは、映画を見るとすぐその気になるお調子者だけではないようだ。ジョージ6世は、戦時下、王妃とともに国民を励まし続けた王として、大変人気が高い。やっぱり、つらい経験してる人は人の痛みもわかるのね。なんて言うと人情ドラマみたいだけど、ユーモラスな場面の方が多いくらいで、笑いながら見て、見終わった後から、しみじみいい映画と思える。

俳優としては大成しなかったようだがスピーチ・セラピストとしては型破りでも一流だったライオネルを、ひょうひょうと演じているのがジェフリー・ラッシュ。本物のライオネルのお孫さんも「いい仕事してくれた」と太鼓判の演技だ。
  へレナ・ボナム・カーターも、クイーン・マザーとして親しまれつつ2002年に亡くなったエリザベス王太后の暖かい人柄を髣髴とさせる。ティム・バートン作品などのぶっ飛んだ役柄とは打って変わった王妃役で、もともとがコスチューム・ドラマ(時代劇、と訳すとチャンバラみたい?当時の衣装をつける時代もの)『眺めのいい部屋』で注目された若き演技派だったことを思い起こさせる。ちなみにヘレナは、ジョージ6世がプリンスだった頃の首相アスキスの曾孫で、親類縁者にも各界の名士がずらり。見かけによらずお嬢様育ちだからポッシュな口調も実はお手のもの?
  兄エドワード8世役ガイ・ピアースも、真面目なジョージ6世と対照的な伊達男ぶりで、いかにも恋に生きそう。
  セットや衣装もクラッシックさとモダンさの加減がいい感じで、これからアカデミー賞でますます盛り上がった後に、好感度大のケイト・ミドルトンとウィリアム王子ご成婚で、王室ブームになだれこむ?
  ともかくも、細部までしっかり作りこまれた、まさに映画の王道をいく1本。

『英国王のスピーチ』2月26日公開 ■ ■ ■

兄の“王冠をかけた恋”により王位を継いだジョージ6世は、吃音でプリンス時代からスピーチでは痛い経験をしている。王妃が見つけた、俳優もやっているという治療者ライオネルのもとに通うが、時代は第二次世界大戦へと向かう頃、王が国民に向けるスピーチの重要度も増していき…。

 監督 トム・フーパー
 出演 コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム・カーター ほか

2011.2.23 掲載

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