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70Sを追い続けたジュリアン・テンプル監督
『ドクター・フィールグッド  オイル・シティ・コンフィデンシャル』

セックス・ピストルズの『ザ・フィルス&ザ・フュー リー』、クラッシュの『LONDON CALLING/ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー』に続く、ジュリアン・テンプル監督の70年代ブリティッシュ・ロック・トリロジーの締めとなる作品。

予備知識なしに見ても、しだいにドクター・フィールグッドの発する熱に巻き込まれていく。当時のファンには、若き日のデヴィッド・キャメロン首相やダイアナ妃もいたという。見終わる頃には、イギリスの一地方のパブ・バンドが、またたくまにイギリス中を魅了したことに、何の不思議も感じなくなっている。

オリジナル・メンバーでギタリストだったウィルコ・ジョンソンが、還暦を迎えたかという年齢となって、案内役を務める。
  マシンガンのようにギターを構え、ギョロ目で観客を威圧する独特の演奏スタイルを作り出したジョンソンは、それから数十年を経て、語り口でも楽しませてくれる。根っからのエンターティナーのようだ。
  そのジョンソンと、切れそうに張り詰めて歌うリー・ブリローの個性のぶつかりあいが、バンドのダイナミズムを生み出す。またとないコンビと思える2人が、あまりに急な人気がプレッシャーともなり分解してしまう。

彼らが少年の日々を過ごし、安いスーツに身を固めてバンドを結成した故郷カンビーの盛衰や、バンドが進出していった時代の白黒映像も混じる。失われたバンドへの思いとあいまって、そこに居合わせることのなかったイギリスのその時代、その土地さえもが懐かしく感じる。

テンプル監督は、ローリング・ストーンズやデヴィッド・ボウイ、カルチャー・クラブにブラーといったイギリス・ロック界のスターや、ホイットニー・ヒューストンなどアメリカの歌姫たちのミュージック・ビデオでも知られる。
  テンプル監督のドキュメンタリー作家としての力量は、トリロジー中でも本作が一番よくわかると思う。シド・ビシャスやジョー・ストラマーの伝説的な物語を重ね合わせて見る人も多いであろう前2作とは逆に、本作は良くも悪しくもローカルなドクター・フィールグッドを世に知らしめるものとなっている。

『ドクター・フィールグッド オイル・シティ・コンフィデンシャル』
4月9日公開
■ ■ ■

「パンク・ロックの草分け的存在」、「偉大なローカル・バンド」とも称されるイギリスのロック・バンド、ドクター・フィールグッドのドキュメンタリー。バンドとともに、彼らが出てきたイギリス、エセックス南端の島の町カンビー(キャンビーと発音する人もいる)と、バンドに熱狂したイギリスの一時代を見せる。

 監督 ジュリアン・テンプル
 出演 リー・ブリロー、ウィルコ・ジョンソン ほか

2011.4.8 掲載

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