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壊れるものだからこそ愛しい『ブルーバレンタイン』

前回、予告として「個人的には2010年ラブストーリーNo.1。」と書いた後、ふと思った。ほかにラブストーリー見たっけ?2010年に見られた新作は100本くらい。でも、ラブストーリーは?
  プレス試写の機会があるものは、ほぼ見ているから、選り好みはしていない。ラブコメはあった。メインストーリーに恋愛がからむものもあった。でも、直球勝負のラブストーリーは、ほかにはなかったような…。恋愛は、コメディか添え物にしかならないご時勢なのかも。

いや、うれしい時代だなあ、なんて、甘ったるいラブストーリーは、あまり好きではないのだが、この映画はいい。人は変わる、愛も永遠ではない、ということになってしまうから、なおさら恋に落ちた2人が愛しい。

結婚して数年たっているカップルの今と出会いの頃を、行きつ戻りつしながら進む展開が効いている。泣き濡れての結婚式と、別れの予感に泣き濡れる今がだぶる。さまざまを経ての結びつきが描かれることで、見ているほうまで壊してほしくないと願ってしまう。それが、その当の2人によって壊されそうになっている。

今時はラブストーリーというだけで珍しいのかもしれないが、これは女性側にこれっぽっちも共感できなかったという意味でも、私にとっては珍しい映画。
  たとえ女性に非があっても「でも、やっぱり男がこうだから、そうなったのよ」と女性にえこひいきしてみることが多いのだが、この映画に限っては妻(ミシェル・ウィリアムズ)のほうに、なぜ?なぜ?の連続だった。こんなにまでしてくれた夫に、どうしてそんな仕打ちができるわけ?恩をあだで返す、などという古風な言葉まで浮かんでしまった。

ワーキングクラスの夫(ライアン・ゴズリング)と、中産階級の家から出た妻というのも、きしみ出した一因として描かれる。だが、気楽に行こうよ、というタイプの夫だからこそ、妻の若き日の過ちを全部背負ってくれた部分もある。妻は、横暴だった父親がトラウマになっているらしい。でも、妻のあちこちで媚を売る感じが、もう次を探しているようにも見えて小憎らしく、トラウマを理由に持ってくるのは、あっさり却下したい気分。

デレク・シアンフランス監督は、子供の頃、両親が別れてしまうことを最も怖れていたという。それが20歳の時に現実となってしまい、その体験をアーティストとして結実させた映画と説明。うーん、確かに、共感はできなくても、よりしっかりとした安定を求めて、上昇志向が強くなりすぎているようにも見える女性は実際よくいそうではある。女性の嫌らしさを見せつけられるようで、反発したくなるのかもしれない。

出会いの頃、ゴズリングがウクレレみたいな楽器をかき鳴らして歌うのに合わせ、ウィリアムズがちょっと踊ったりするシーンは、何気ないことさえ輝かせる恋そのものを絵にしたようで忘れがたい。せつないまでに幸せだった、そんな2人を壊してしまった張本人としても、ウィリアムズが浮かぶというやっかいなことになっている。ヒロインとかたき役が同一人物というのが、まさに人生そのもの?

『ブルーバレンタイン』4月23日公開 ■ ■ ■

すれ違っていく夫婦の今を、出会いの頃と重ね合わせながら、描写してみせる。今と若き日を演じわけるゴズリングとウィリアムズが見事。うまくいかない様子を言葉よりよく表すベッド・シーンも評判になった。ウィリアムズのオスカーノミネートはじめ、2人は様々な映画賞にノミネートされ、受賞もしている。

 監督 デレク・シアンフランス
 出演 ライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズ ほか

2011.4.22 掲載

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