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生命力満々『127時間』

自ら腕を切断してアメリカ、ユタ州のブルー・ジョン・キャニオンでの落石事故から生還した登山家アーロン・ラルストンの実話を基にした映画。えぐさを超えて、フィール・グッド・ムービーになっているのが、すごい。

えぐいシーンの極め付け、腕の切断時は、ロンドン映画祭の試写会場でも、思わず、目、口、耳など手で塞ぎ、見ザル、言わザル、聞かザルみたいなことになってた人もちらほら。
  でも、そのシーンだけおサルさんになって、やり過ごしても、見る価値あり。奥深い人間の強さが描かれている。

腕を落石に挟まれ、127時間、身動きとれなかった主人公だが、思考の方は、それこそ走馬灯のように巡る。家族、友や昔のガールフレンドから、いつか築くであろう自分の家庭、生まれてくるかもしれない我が子にまで思いをはせることが、主人公の生きる力をかきたてる。
  主演ジェームズ・フランコの1人芝居と、ダニー・ボイル監督ならではのスピード感ある映像がお見事。

ラルストンは、腕を挟まれた状況下で、ビデオ・ダイアリーもつけている。
  それを見て感銘を受けたと言うフランコは、ダイアリーをつけるシーンで、死に直面しながら、品位、尊厳を失うことのなかったラルストンの強さを見せてくれる。笑顔、ユーモアさえ交えてこちらに向かって語る主人公からは、ビデオを見ることになるはずの家族や友人たちへの思いが伝わってくる。

ラルストン本人の映像とともに、その後を知らせるエンディングも心憎い。あの時点で、まだ見ぬ未来だったことが、現実となっている。上映後に巻き起こった拍手は、映画だけでなくラルストンにも向けられていたと思う。

会見でのボイル監督も力強かった。主人公と同じ状況に置かれたら、自分も腕を切り落とすと即答、「動物なら、いつでもしていることだ」ときっぱり。
  動物はそうでも、むしろ動物より生命力が弱っているのが人間では?ラルストンのように強くありたいものだが、それができる人はまれだろう。
  迷いなく言い切るボイル監督に、トレインスポッティング、28日後...、スラムドッグ&ミリオネアとヒット作を放ち続けている勢いを感じた。

『127時間』 6月18日公開 ■ ■ ■

快調にブルー・ジョン・キャニオンを行くも、落石に腕を挟まれ身動きがとれない状態になった主人公(フランコ)。発見されることは絶望的な場所で、自由になる片手を駆使し、わずかばかりの手持ちの水、食料と道具でサバイバルしていくが、衰弱も進む中での時間との戦いの結果、下した決断は…

 監督 ダニー・ボイル
 出演 ジェームズ・フランコ ほか

2011.6.20 掲載

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