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奇想天外に普遍のテーマ『恋に至る病』

主人公の妙なテンションに引いてしまうのはほんの一瞬、アレヨアレヨと引き込まれてしまう。主人公のヘンテコさがストーリーの奇想天外さを相殺し、気がつくと、意外にすんなり、その世界の中にいる。脚本も書いている木村承子監督、変だけど可愛い主役の我妻三輪子、ともに新人。たいしたものだ。

恋愛に没頭する人の「相手を独占したいとか、自分の思いを押し切る様子に惹かれた」と言う木村監督は「相手の体の一部を取り込めば独占できるのでは、というビジョンが浮かびました」と説明する。女子高生ツブラの恋焦がれる生物教師マドカと性器を交換したいという妄想が、現実となってしまう騒動を描いたお話だ。

木村監督、発想にオリジナリティがあるだけでなく、それを物語に落とし込む仕方も上手い。マドカの共生と寄生についての生物の講義が、そのまま人間関係を思わせるものになっていたり、ちりばめられる個々のエピソードが大筋のストーリーを補強する。

人との関係を避けているようなマドカと、そのマドカと無理やり関係してしまうツブラという極端なカップル(?)に、もう1組、ツブラの友人エンと、エンを思うマルの関係も面白い。冷めた美人のエンに、振り回されるマル。

消極的な姿勢が今時の若者風でもあるマドカの斉藤陽一郎、大人びた女子高生エンの佐津川愛美に、普通の男の子っぽいマルは、園子温監督『ヒミズ』でベネチア映画祭最優秀新人賞受賞の染谷将太と、それぞれがキャラクターの雰囲気に良くはまっている。

ツブラ、マドカ、エン、マル。主要キャラクターの名前が、全部、円の読みであることは、木村監督に明かされるまで気づかなかった。荒唐無稽とも思える展開のドタバタで笑わせながら、男と女、ジェンダー、人と人とのつながりといった普遍のテーマを考えさせる佳品になっている。

『恋に至る病』10月13日公開 ■ ■ ■

さえない生物教師マドカ(斉藤)の一挙一動をうっとり見つめる女子高生ツブラ(我妻)。交じり合いたい、相手を取り込んでしまいたいという妄想が、なぜか現実となり、2人の性器が入れ替わってしまう。人目につかない場所に逃れた2人を、ツブラの友人エン(佐津川)と、エンに恋するマル(染谷)が追ってきて…

 監督 木村承子
 出演 我妻三輪子、斉藤陽一郎、佐津川愛美、染谷将太 ほか

2012.10.12 掲載

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