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殺人事件がコメディに『バーニー/みんなが愛した殺人者』

以前、自分が犯罪を起こしたりせずに済んでいるのは、単にそこまで追い詰められたことがない、リミットまでいったことがないというラッキーだけではないか?ということを書いた。(第7回『精神』です。)
  今回の『バーニー/みんなが愛した殺人者』では同じことを逆側から思った。このお婆さんと出会わなかったら、バーニーも良い人で済んでいたのではないか?

この映画は、実際にあった事件を基にしている。葬儀サービスをする男が、お客として知り合った、大富豪の未亡人を殺害したという事件だ。
  と書くと、すぐに遺産狙いでは?のように思われそうだが、そうも見えないのがこの映画の面白いところ。

主演のバーニーを演じるのはジャック・ブラック。遺族に寄り添うような親身さで、しかもつつがなく、葬儀を取り仕切っていく。その懸命さが可笑しい。
  孤児たちのためにレスラーになろうと奮闘する教会の下働きの男を演じた『ナチョ・リブレ 覆面の神様』、無気力な子どもたちにロックの楽しさを教えようとする教師役の『スクール・オブ・ロック』と、一生懸命な人を演じるだけでコメディになるというブラックならではのバーニーだ。

対する未亡人役がシャーリー・マクレーン。『アパートの鍵貸します』など名作の数々がある言わずと知れた名女優だ。一時期、幽体離脱体験を書いた本を出版したりして、ドラッグか何かでおかしくなったのでは?と心配したが、79歳となった今でも元気に活躍中。失礼いたしました。

この未亡人、自分に親切にしてくれるバーニーを試すようなところがある。いじめじゃないかと思うほど、我がまま放題な要求をつきつけるのだ。
  確かに、バーニーの親切さには、ちょっと無理してるようなところもあって、突き詰めたくなるのも、わからないでもない。でも、良い人になろうと、良い行いをして、それが身についてきたら、その人はもう良い人と言ってもいいのでは?

このあたりの駆け引きの面白さは、リチャード・リンクレイター監督の面目躍如。アドリブ? ドキュメンタリー? と言われたほどの驚異的に自然な会話(という表現も変ですが)の『恋人までの距離(ディスタンス)』(原題 Before Sunrise)が、第3弾『Before Midnight』まで出る人気となった監督だ。『スクール・オブ・ロック』でも組んだブラックとの再タッグで、これまでのブラックとは一味違う、可笑しくて哀しいキャラクターを作り上げている。

含み綿か何かで様変わりして登場のマシュー・マコノヒーも意外で可笑しい。笑いながら見るうちに、実際に親切な町の人気者だったという実物のバーニーを知りたくなる一作。

『バーニー/みんなが愛した殺人者』7月13日公開 ■ ■ ■

その親切さで町の人気者でもあるバーニー(ブラック)の葬儀屋に、大富豪の夫を亡くした老女(マクレーン)が葬儀を依頼する。葬儀が終わった後も、未亡人はバーニーを何かと頼るようになる。もちろん懸命に応えるバーニー。だが、どんどん要求がエスカレートしていき…

 監督 リチャード・リンクレイター
 出演 ジャック・ブラック、シャーリー・マクレーン、マシュー・マコノヒー ほか

2013.7.15 掲載

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