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ロンドン映画祭受賞作!『イーダ』『My Fathers, My Mother and Me』

『イーダ』は昨年のロンドン映画祭で最優秀映画賞を獲得した映画です。イギリスで活躍するポーランド出身のパヴェウ・パヴリコウスキ監督が、故国の悲しい歴史に向き合って撮ったものです。
  白黒の静謐な画面が、修道院を離れ自分のルーツを探す若き女性イーダの佇まいともマッチしています。俗世に出て、心を通わせられる男性とも出会いながら、厳しい決断をする最後が、イーダの見つけたルーツの惨さの結果として重く心に残ります。

1人の女性の運命に戦争という大きな物語を絡ませた『イーダ』は深みのある作品ですが、それに負けないほどドキュメンタリーの最優秀作も良かったです。今回は100回ということで、そちらをご紹介しつつ、映画全般のことを書きたいと思います。

ドキュメンタリー賞に輝いた作品は『My Fathers, My Mother and Me』といいます。Meはポール=ジュリアン・ロベルト監督、My Fathersと複数なのは、出産に立ち会うなど父親的役割を果たした男性、戸籍上の父親、生物学的な父親の3人を指してのこと。3人のうち1人は自殺し、残りの2人もロベルト監督とは別の人生を歩んでいます。そうなったのは、ロベルト監督が生まれたのが特殊なコミューンだったからです。映画はそのコミューンの記録です。

コミューンは、前衛芸術家オットー・ミュールが、オーストリアで1972年に開いたものです。最盛期には500人もが暮らしたコミューンでは、全てが共同所有でした。それは性についても同様で、フリー・セックスでたくさんの子どもが生まれました。資金難に陥ったコミューンでは、女性たちをスイスに出稼ぎさせます。ロベルト監督は、母が戻ってくる日には、またスイスへ旅立つ日までの日にちを数え、もう寂しくなったといいます。
  歌ったり、踊ったり、みなに表現をさせたコミューンでは「常時、人前で何かをさせられて、それが判定される」という状態で、嫌がる子どもに水を浴びせるオットーや、上手く出来ずに笑われる子どもという酷い映像が残っています。性教育として、女の子はオットーと、男の子はオットーの妻と初体験までさせています。
  結果、子どもたちへの性的虐待や、ドラッグ使用によりオットーが逮捕され、コミューンは1991年に解散になりました。その際にDNA鑑定が行われ、それまでは不明だったそれぞれの子どもの父親がわかりました。

記録映像では、コミューンの中で次第にパラノイア的になっていくオットーに、独裁者の末路を見る思いです。そういう記録としての部分も興味深いですが、この映画の一番の見所はロベルト監督と母との会話、若かりし日にコミューンを選んでしまった母に問う息子の部分です。解散時、12歳だった監督は、幸いにも性教育は免れたそうですが、それでさえコミューンでの辛かった思いは消えていません。両者とも声を荒げることは無く、穏やかに話しているのですが、時に強い感情が交錯するのがわかります。

この映画もそうですが、映画祭を取材するようになったからこそ見られた良い映画がたくさんあります。せっかく見られた良い映画については書きたいと思うのですが、あんまり需要がないんですよ、これが。映画について読むのは、やはり公開される映画の中から、どれを見ようかという時ですものね。
  というわけで、見られた良い映画の中には、イギリスで公開されるものもあるので、それに合わせ、イギリスにお住まいの方向けに書くサイトまで始めてしまいました。

でも、前回のように、忘れた頃に日本公開となる映画もあるので油断できません。次回もそんな映画の1つ、2010年製作『エッセンシャル・キリング』です。8月16日公開なのですが、その日はもう1つ、こちらは今年のベルリンで国際批評家連盟賞受賞ほやほやの『FORMA』も公開で、101回も2本立てとなります。あらためまして、今後とも、よろしくお願いいたします。


『イーダ』8月2日公開 ■ ■ ■

60年代のポーランドの修道院で、孤児アンナとして育てられた少女は、叔母の存在を知らされる。訪ねあてた叔母から、自分のほんとうの名前がイーダで、ユダヤ人であると告げられた少女は、自分のルーツをたどり…

 監督 パヴェウ・パヴリコウスキ
 出演 アガタ・クレシャ、アガタ・チュシェブホフスカ ほか


『My Fathers, My Mother and Me』公開未定 ■ ■ ■

丸々とした可愛らしい赤ちゃんを入浴させる若い母。コミューンが売り出したビデオの中のロベルト監督と母の姿は、健やかで平和そのものだ。だが、実際のコミューンの中では…

 監督 ポール=ジュリアン・ロベルト
 出演 オットー・ミュール ほか

2014.7.29 掲載

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