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「第5回 理想国会」では、軍事ジャーナリストの田岡俊次さんにお話をうかがいました。
  安倍内閣が集団的自衛権の行使容認を閣議決定するなど、日本の安全保障が大きく変化しようとしています。

田岡さんの理想は「武装中立」だそうです。米軍抜きで日本が自国を守れるのか、自衛隊の能力はどの程度のものなのか、最近よく言われる中国の脅威はどれほどのものなのか、等々、日本の防衛の実態をわかりやすく説明してくださいました。
  当日のお話の要旨をご紹介します。

(ロゼッタストーン編集部:弘中百合子)

第5回 日本に「武装中立」は可能か?


【Q】日本の防衛はアメリカ軍にどの程度依存しているのか?

通常戦力に関する限りは依存度ゼロと言っていい。
  日本にいる米軍で日本の防衛の任務を持っているのは一兵もいない。

陸軍は2000人くらいいるが、これはもっぱら補給部隊と情報関係。日本の電話の盗聴も行っている。日本には三沢などに無線の傍受ステーションがある。それから陸軍の一部(ということになっているけど、多分実際はCIA)に、極東科学技術センターというのがあって、そこでは、日本の技術情報を収集している。雑誌など公に出た情報や学会で発表したものを収集して、それを翻訳してアメリカに送るのが任務といわれているが、中には、かなりグレーに近いような手段で収集した情報も含まれているらしい。そこで働く収集係、翻訳係などの日本人は基地従業員だから、その給料は現在、思いやり予算で日本が払っている。
  三沢の傍受ステーションも、タダで貸すのみならず、電気・ガス・水道料金、日本人従業員の給料を日本政府が負担している。つまり、日本はお金を払って、アメリカのスパイ行為に協力しているというわけだ。

海軍は横須賀に空母1隻、それから他に護衛艦が9隻いる。佐世保には揚陸艦が4隻と掃海艦が4隻。それは特に日本を守っているのではなく、西太平洋、インド洋全域に責任を持っている。だから今でも空母ジョージ・ワシントンはイラクの情勢がおかしいからとペルシャ湾に向かっている。
  冷戦時代には米国の制海権が日本の防衛にも役立った面はあるが、それはアメリカの防衛のためで、副次的に日本も得したという程度の話。

空軍に関していえば、日本は1959年から航空自衛隊が防空に関して全面的に責任を負っている。日本の航空総隊司令官・松前空将と、在日米空軍司令官・バーンズ少将による「松前・バーンズ協定」で、日米航空部隊は指揮系統を別とするということが決められた。同時にレーダーサイトを日本に渡した。レーダーサイトは防空指揮のセンターで、それを日本に渡し、さらに指揮系統を別個にするというのは、つまり米軍は日本の防空には加わらないということだ。

日本には、1970年代から80年代中期までは沖縄にしか米軍の戦闘機部隊はいなかった。これは韓国の防空を主任務とした部隊。韓国で戦争が起きたら危ないから、家族は安全な沖縄に置いて、飛行機だけが交代で韓国に派遣されていた。だから韓国の烏山基地に行くと、沖縄の嘉手納駐屯の第18航空団のマーク「ZZ」を付けた戦闘機がずらっと並んでいた。

ところが韓国が経済成長し、その軍もどんどん強くなり、北朝鮮はロシア、中国にもほとんど見放されて武器は買えずどんどん弱くなるし、在韓米空軍は第7空軍として日本にいる米第5空軍と分離したから、嘉手納から韓国への交代派遣も要らなくなった。結局いま何をしているかというと、中東などに時々交代で出ている。つまり嘉手納はアメリカ本土の母基地と同じ扱い。
  だからアメリカの議会で「なぜ日本に置くのか。アメリカ本土から出した方がいいんじゃないか」という意見が出ることがある。その度に国防省は、「いや、日本にいると基地の維持費は全部日本が出してくれる。これを呼び返すとその分高くつく」と答弁している。いまは、思いやり予算を目当てに日本にいるというのが実態。もちろん、海兵隊も同様で日本防衛部隊ではない。

97年にガイドラインズ、日本防衛協力の指針を改定したが、そこにもはっきり、日本が攻撃を受けた場合の措置として、「防空に関して自衛隊は主体的に対処する」と書いてある。「主体的に対処」というのは、英語を見るともっとはっきりするが、自衛隊が「primary responsibility」、一義的責任を負うとはっきり書いてある。同様に日本に対する着陸・上陸の阻止・撃退に関しても、陸上自衛隊が「主体的に対処」する。日本周辺の船舶の保護、港湾や沿岸警備なども海上自衛隊が「主体的に対処する」と。

原文で読むと、一義的に全部こっちの責任。向こうが何もしなくても、「一義的責任はあなたにあると書いてあるじゃないか」と言われるとそれまでの契約だ。
  ただ、それはその時に決まったというより、現状の追認に過ぎない。

だから、米軍が全部日本からいなくなったとしても何も問題ない。こちらが追い出そうとするとトラブルになるだろうが、向こうが自分で出て行くのであれば引き止めるべき理由は何も無い。だからこそ、米軍海兵隊のグアムへの移転についても、早く出ていってもらおうと日本が移転経費、つまり立ち退き料を負担している。


【Q】 そんな状況で、思いやり予算は必要か?

日米地位協定には、「米軍の駐留に伴う経費はすべて合衆国政府の負担とする」とはっきりあるので、実は思いやり予算を出す根拠はない。日本は土地を無償で提供し、沖縄などの民有地の地代を負担する契約だ。
  思いやり予算が始まったのは1978年。アメリカのドルが下落して1ドル360円が180円になった頃。米軍が日本人の基地従業員に払う給料は円で払うから、ドルだと突然2倍になった。日本の国家公務員と同等の年功序列で賃金が上がるうえに、全駐労との長い間の慣行で「基地勤務手当」などなど理解に苦しむような特別手当もあったため、占領当時から30年以上も勤続している守衛の主任の給料が米軍の基地司令官の大佐よりも高いというような事態になってしまっていた。

その頃、私は防衛庁記者クラブにいて、「地位協定の24条に全額米国の負担と書いてあるのに、何を根拠に米軍に補助金を出すのか」と質問したが、故・金丸信氏(当時の防衛庁長官)が「知り合いがお金に困っている時は思いやりの気持ちを持つのが人情で」と、巧みにはぐらかす説明をした。最初の負担額が特別手当の分だけで62億円程度だったこともあって、みんな笑い出し、事情もわかるのでまあ仕方ないか…と、それ以上は追及しなかった。

ところがそれが堤防に開けた蟻の一穴で、日本人従業員の給与のほぼ全額とか、光熱、水道、電話料なども出せ、となり、兵舎が古くなったから建て替えて欲しいなど、次から次へと要求が増えていった。いまでは、年間2000億円以上に膨れ上がってしまっている。
  日本本土の基地はほとんど旧軍の土地なので無料だが、沖縄県では民有地を米軍が無理やり基地にしたので、地代を払っている。国有地の推定地代まで入れると、日本が負担している額は、年間6500億円にも上っている。

なぜストップできなかったかというと、一つには外務省などが一種の宗教みたいに「安保条約あっての日本」と心から信じているからだ。今から20年くらい前、外務省を辞めた高官が「私も"日米同盟あっての日本"なんて現役の時に嘘も方便で言っていたけれど、この頃の若い課長たちと話すと、心からそう思っている」と嘆いていた。


【Q】自衛隊には本当に単独で国を守る能力があるのか?

自衛隊の能力が国民には知られていない。ヨーロッパは急激な軍縮をしているので、日本陸上自衛隊の規模はドイツ陸軍の約2倍半だ。日本の陸上自衛隊は15万1000名、ドイツ陸軍は6万2千名。戦車数はドイツ陸軍が今320両、日本が770両。ヘリコプターの数もドイツが260機、日本430機だ。

海上自衛隊は、能力的にアメリカに次いで世界で2位。イギリス海軍が今、水上艦18隻、潜水艦6隻。日本は水上艦47隻プラス訓練艦も新しいのを使っているので、トータル50隻。潜水艦は現在16隻で近いうちに18〜22隻にする予定。航空母艦は今小型が2隻だが、あと2隻建造中。数だけでなく、装備、訓練の能力も高い。


【Q】核の傘に守られなくてもいいのか?

日本は核不拡散条約をアメリカに呑まされたが、あれは本来おかしい。アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国、1967年1月1日以前に核実験をした5カ国のみ核を持っていい、それ以外は持ってはいけないという内容なのだから。
  しかし、核は一番頭の痛い問題でもある。スイスやスウェーデンは小さいながらもしっかりした軍備を持って中立を堅持するのが伝統だったが、核兵器が登場したため、核で脅かされたらどうしようかというのが一番大変な悩みだった。
  ただ、核を持てば脅かされにくくはなるが、他国に脅威を与えるので、他国との関係が悪くなるマイナス面が十分あるわけで、安全保障上難しい。軍事力強化が安全保障だと思っている人が多いが、むしろ敵を作らないことが安全保障の要諦。日本の戦国時代でも調略が大事だった。

理想としては、中立の方が安全。今年は第一次世界大戦の百周年。6月28日にオーストリアの皇太子フランツ・フェルディナントとその妃のゾフィーがボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボで暗殺され、それがきっかけで戦争が始まった。最初はセルビアとオーストリアの戦争で、7月28日にオーストリアが宣戦布告をして攻め込んだ。セルビアの後ろにはロシアがいて、オーストリアを牽制しようと予備役を動員し、戦争の構えを見せた。すると、オーストリアの背後にいるドイツが直ちにロシアとフランスに宣戦布告。ドイツは、東でロシアを抑えて西でフランスを制圧しようという計画があった。そういう動きを見せるドイツに、今度はイギリスが宣戦布告。……と、わずか一週間くらいで、オーストリアとセルビアの戦争が、ドイツ、ロシア、それからフランス、イギリスを巻き込み、最終的には30カ国以上が参加する大戦争になってしまった。

こうなった理由は何かといえば、同盟網。それが導火線になって延焼した。イギリスでは戦後、なぜセルビアとオーストリアの戦争にイギリスが参加して、94万人の戦死者、209万人の負傷者を出し、国債の償還に歳入の半分を費やさざるを得ないような負担をすることになったのかを検証し、これは同盟網のせいだという話になった。セルビアが攻撃されればロシアとしては助けざるを得ない、ロシアが立つならドイツとしてもオーストリアを助けざるを得ない。ロシアとフランスは同盟関係だから、ドイツは先手を打ってフランスに入る。イギリスはフランスと協定があったから出て来る。だから同盟というのは非常に危険なもので、一カ所で火をつければ花火の導火線みたいに町中で爆竹が鳴り出してしまう。そこで、別の形でお互いの保障をし合おうと、同盟網の代わりに作ったのが国際連盟だった。

そんななか、スウェーデンとスイスは1814年のナポレオン戦争以降200年、あの大戦乱のヨーロッパにあって戦争をしていない。スイスはナポレオン戦争後のウィーン会議で永世中立国になった。スウェーデンは他国と組まないというのが政策。両国はそれによって第一次世界大戦、第二次世界大戦に巻き込まれずに済んだだけでなく、双方に武器を売れるからぼろもうけをした。

スウェーデンのストックホルムに立派なオペラハウスがあるが、その基礎の銘板に1944年建設とあるのには驚いた。昭和19年。世界中が戦争をしている最中に、彼等は双方に優秀な武器や特殊鋼、ボールベアリングなどなどを売り、大儲けしてオペラハウスをつくって楽しんでいた。


【Q】日本が中立国になれないのはなぜか?

まず宗教的とも言えるようなアメリカ信仰。冷戦は1989年、いまから25年前に終わっていて、同盟の基礎は失われ、NATOもやめるのも角が立つから形骸化して残っている。ところが日本では外務省が、日米同盟あっての日本と布教しているので、国民も冷戦が終わったということをほとんど自覚していない。


【Q】日本だけで本当に中国の侵略からも守れるのか?

守れる。中国は海軍力が増えているといっても、大したことはない。中国の揚陸能力では台湾を取るのも無理。台湾海峡を渡ってどれだけ運べるかというと、商船、漁船を動員してもせいぜい2個師団4万名が最大限。台湾陸軍は20万名、新鋭戦闘機330機だから「侵攻は根本的に不可能」と台湾の国防当局が議会で言っている。まして日本への本格的侵攻は無理だ。


【Q】中国の軍備と日本の軍備を比較すると?

戦闘機は例えば向こうが使っているスホーイ27と30は、日本のF15と大体同程度。しかし、根本的な所、例えば防空レーダー網、防空をコンピュータで指揮するシステムや電波妨害などは全然レベルが違う。

しかし、中国空軍は馬鹿にはできない。特に尖閣諸島のある東シナ海は、最重要だった台湾正面なので、もともと最精鋭の航空部隊を置いている。中国空軍は、台湾に面する南京軍区に戦闘機を340機配置しているが、そのうち180機はF15と対等な新鋭の戦闘機。日本は那覇に20機置いているだけ。島の防衛は、制空権が根本だが、20機対180機ではどうしようもない。那覇の滑走路が近く2本になるので、あと20機くらい追加するかもしれないが、それでも40機対180機で、それほどの差は少々の技術力ではしのぎにくい。年間の一人当たり飛行訓練も150時間で日本と同じくらいだと見られるので、尖閣諸島に関していえば、向こうが「棚上げ」にしようと言っているのだから、それに応じるのが一番賢い。

棚上げというのは「日本が実効支配することを認める。両方とも領有権の主張は続けざるを得ないから、お互い勝手に主張はしよう。ただし、日本も部隊を置くとか兵舎を建てるとか現状変更はしないで欲しい。お互いしばらくそっとしておこう」ということ。日本にとっても結構な話なのに、なぜ外務省は「棚上げはけしからん」とわざわざ解決を長引かせるのかわからない。

アメリカのオバマ大統領が来日したとき、日本の新聞は外務省の言う通りに、「オバマ大統領が安保条約の5条を尖閣に適用すると述べた」と大きく報道したが、あれは当たり前で、アメリカが前々から言っている話。尖閣列島の中に赤尾嶼、黄尾嶼という2つの岩礁がある。中国風の名前だから、今は大正島と久場島と日本名で呼び換えているが、日米地位協定では、赤尾嶼、黄尾嶼が射爆場(標的)としてアメリカへの提供施設に名前が載っている。だから安保条約の適用範囲であるのは当然。といっても、自衛隊が一義的に防衛の責任を負うことになっているので、必ずしもアメリカが日本を守ってくれるわけではない。

それより大事な点は、後の共同記者会見でオバマ大統領が会談内容を明らかにし、「私は安倍首相に直接言った」として、“keep the rhetoric low”(rhetoricは修辞法。つまり「言葉遣いに気を付けろ」)。それから“don't take provocative actions”(挑発的行動を止めろ)。中国とこの問題をエスカレートするのは“fundamental mistake”(根本的な誤り)であって、協力の方法を考えるべきだ、などと注意した、と言った。だから、あの時の見出しは「尖閣列島に安保条約適用」ではなく、むしろ「米国、日本に対中関係改善を要求」とすべきだった。

オバマ氏は「中国は世界にとって大事な国であり、米国との結びつきは強固だ」とも言った。アメリカにとっては日本よりも中国の方が大事に決まっている。

よく言われるのは、アメリカ政府の国債は今1兆3000億ドルくらい中国が持っていて、日本よりも上だということ。それよりも、中国の外貨準備3兆6000億ドルくらいがほとんどドル建てで、ウォール街で運用されていることの方が大きい。アメリカの証券、金融の最大の顧客は中国。だからアメリカで一番発言権のある銀行、証券は中国様々になっている。
  アメリカで発言権が強い軍需産業も、中核の航空機産業で最大のお得意様は中国。中国は年間150機くらい旅客機を買っている。アメリカの航空機業界の発表を見ると、2030年までに中国の旅客機需要は3800機に達する見込みで、その半分くらいを受注できないかと狙っている。
  自動車も、GMが一時駄目になっていたが、急激に復活した。世界でのGMの売上は年間900数十万台。そのうち中国で370万台も売っている。


【Q】中国の脅威はどの程度のものなのか?

中国軍事費の急激な増大を言う人が多いが、実は中国の軍事費のGDPに占める率はほぼ低下の一途。鄧小平氏が政権を握った1979年には5.5%だったが、今はGDPの1.3%だ。中国のGDPは1979年から2013年の33年間で140倍になったが、国防費はその間に33倍、歳出に占める比率は17.4%から5.3%に下がった。

日本でも高度成長期の1960年から1993年までの33年をとると、GNPは38.8倍、防衛関係費は29.6倍になった。韓国、台湾などでも、高度成長期には国防費も急増した。
  GDPが伸びれば当然政府の歳入はそれ以上に伸びる。歳入が増えれば当然歳出も同じように増える。その時軍にだけ分け前をやらないというわけにはいかない。中国の場合、他の費目の方がもっと増えているが、軍もある程度は伸びているというだけの話。
  去年の日本の防衛白書では、中国の国防費は「過去25年で33倍以上」と書いている一方で、「中国は経済建設に支障のない範囲で国防力の向上のための資源投入を継続するものと思われる」とも書いている。前段は素人をおどかすためで、後段はプロ向けに「我々も分かっていますが」という意味だ。

それに、アメリカを引き込んで中国と戦争なんてことは考えられない。中国と日本が紛争を始めれば、アメリカは調停に乗り出し、それでも駄目なら多分向こうに付く。国際政治はイデオロギーや価値観などという文学的なものよりは利害計算で動くことが多い。米国は中国に付く方が得と考えるだろう。

間もなく2年に一回のリムパック(環太平洋合同演習)が始まる。米海軍が主催し、本来は同盟国の海軍演習だったが、今回は中国海軍が初参加する。有名なアメリカ海軍の兵学校、アナポリス兵学校にも中国人の士官候補生を入れる。
  中国海軍将校がアメリカで教育を受け、アメリカと一緒に演習する。それはおそらくアメリカが将来中国に兵器を売る伏線だろう。

しかし、アメリカと中国が仲良くするのは、日本にとってはかえって楽な話。両方が対立していたら、どっちに付くか難しいが、向こうは仲が良くて日本にも「お前も仲良くしろ」と言っているわけだから、何も悩む必要はない。中国市場の争奪競争で米国とひどく対立しないよう、適度に中国市場でのシェアを確保すればよい。


【Q】ベトナムと領土問題で争うなど、中国の強硬姿勢が気になるが?

中国はサンフランシスコ条約に入ってないので、翌年、1952年に日華平和条約を結んだ。これはその当時日本が中国の正統政権として認めていた蒋介石政権との条約。その第2条「領有権の放棄」で、「日本国は1951年9月8日にアメリカ合衆国のサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第2条に基づき、台湾、及び澎湖諸島並びに新南群島(南沙)及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄したことが承認される」と書いてある。

台湾、澎湖諸島、新南群島(南沙)は日本が統治していた頃には台湾の一部だった。西沙は日本が戦争中に占領していた。二国間条約で日本がこれを放棄するというのは、それを渡すということだから、日本としては当然南沙、西沙は中国領であると認識していたわけで、中国の主張にも正当性がある。1974年に西沙、84年に南沙で中国とベトナムが衝突した際には、当時中国はアメリカ寄り、ベトナムはソ連寄りだったから日本外務省は「西沙、南沙は日華平和条約で日本が中国に対して放棄した」と言っていた。

その後、南沙と西沙で中国とベトナムがまた対立するので、最近、国際法課長に確認したら、彼が本当に困ったような顔をして、「放棄すると書いてあるが、どこに放棄するとは書いてないからまだ未定なのだ」と言う。だが、未定だとすると、台湾、澎湖諸島、新南群島、西沙群島と並んで書いてあるので、台湾、澎湖諸島の帰属も未定という変なことになってしまう。
  中国が国家の権利の「承継」(相続のようなもの)として日華条約を持ち出せば、ぐっと有利だろうが、その調印当時、中国は蒋介石政権を「偽政府」と呼んでいたから、いまになって「あの条約は有効」と言いにくい。日本もその方が知らぬ顔ができる。


【Q】北朝鮮のミサイルの脅威は?

あれが一番本当に真剣な脅威。小泉氏が2002年9月に北朝鮮に行って、日朝平壌宣言をしたが、一番のポイントは核開発を止める、ミサイル実験を中止するという条項だった。その見返りに日本は北朝鮮と国交を開こう、経済協力もしようとなった。中止するついでに手土産みたいに北朝鮮が拉致問題を謝ったが、日本はその手土産の話で騒ぎになって、結局平壌宣言を履行できなかった。宣言の内容は、北朝鮮が核問題についてすべての国際的合意を守る。すなわちNPT核不拡散条約を守り、韓国との朝鮮半島非核化宣言を遵守するという話だったから、それが実施されれば今日の核問題は無かった。仮に北朝鮮が秘密で進めたとしても、IAEAの査察は受けるわけだから、今みたいに大手を振って核実験はできなかった。

だから拉致問題でそれを潰した安倍は何たる無責任、と当時から思った。事の軽重を考えろと言っていた。一番初歩的な核爆弾でも、東京の上空、例えば国会の上で一発爆発したら3キロ圏内が大火災。ウィークデーの昼間を考えると、約159万人が3キロ圏内にいるから、80万人くらいの死傷者は出る。他の都市にも撃ち込んで来ると、数百万人の犠牲が出てしまう。

ミサイル防衛というのは、気休めだ。ミサイルはスピードは速いが決まったコースで来るから、一発だけであれば上手く行けば当たるかも知れない。しかし、北朝鮮は核弾頭は7、8個でもミサイルは何百発も持っている。火薬弾頭を付けたミサイルと一緒に撃たれたら、どれが核を積んでいるミサイルか判らない。海上自衛隊はイージス護衛艦一隻あたり、ミサイル防衛用のミサイルを8発しか積んでいない。対空ミサイルは、不発や故障に備えて1回につき必ず2発ずつ撃つことになっている。しかも上昇中の頂点に近い所でまず撃ってみて、それをミスすると後でもう1回と、4発撃つことがよくある。となると、相手のミサイルたった2発にしか対処できない。一発16億円もする高価なものだし、あまり有効でないから1隻に8発しか買っていない。8発撃ってそれで任務終了だ。


【Q】集団的自衛権は必要か?

これまで集団的自衛権を行使できなかったというのは嘘。1951年に調印した最初の日米安保条約の前文に、国連憲章は個別的及び集団的自衛権を認めていて、その権利の行使としてこの条約を結ぶ、ということが書いてある。条約を結ぶという行為がつまり、集団的自衛権の行使に当たる。
  日本では自衛隊が合憲であるということを無理矢理言おうとして、海外で武力行使をするのが集団的自衛権の行使、それをしないから自衛隊は憲法違反ではない、という理屈にした。それを今になって集団的自衛権を行使するために憲法解釈を変えるというのは、そもそもおかしな話。

政府が示した集団的自衛権が必要な8例を含む15の事例は、ほとんど個別的自衛権で対処可能だ。尖閣問題はもちろん個別的自衛権だし、PKOに関しては、元々集団的自衛権の話ではない。集団的自衛権らしきものが8項目あるが、全て海軍マター。だが、安保法制懇には海軍のことを知っている人が誰もいないのが問題。

例えばアメリカがどこかと戦争になった時に、敵に物を運んで行く船を公海上で停めて検査するという臨検、それを日本が集団的自衛権でやるというが、本来公海上にある船は船籍を置く旗国の主権下にあり、日本が停めて検査する権限はない。臨検というのは旗国の主権侵害だから、交戦国特有の権利。戦争をしている国にとっては敵の所に物を運んで行くのを黙って見ているわけにはいかないから、停船させて武器弾薬を没収してもいい、軍隊向けの食糧は没収できる、積み荷の半分以上が軍隊向けであれば船ごと没収してもいい、そういうことが決まっている。これは交戦権の典型的なケース。ところが政府の説明は、日本がまだ攻撃されていないという前提だから、交戦国ではないし、憲法も交戦権を否定しているから船を停めるのは違法行為。仮にすべての安保常任理事国が臨検を認めても、確立されている国際法をしのぐ力があるのかは疑問だ。

また、安倍首相は女性が赤ちゃんを抱いて避難するパネルを見せて、今の日本の憲法の解釈では、アメリカの船が避難している日本人を運んでいるときでも、自衛隊が米軍の船を守ることができないと言った。
  しかし、アメリカの軍隊が日本の難民を運ぶことはまずありえない。97年のガイドラインズで、アメリカは朝鮮有事を想定して、自国民を日本に避難させる際、米軍家族はパスポートを持っていないので、軍の身分証明書をパスポート代わりに認めてほしいと要求した。さらに、自衛隊の航空基地や民間空港、港湾の使用、宿泊、輸送、衛生、医療などの援助などを求め、日本側も了承した。
  その代わり、韓国にいる日本人の避難を助けてくれるのかと言ったら、それはできないと拒絶された。ガイドラインにもはっきり「日本国民又は米国国民である非戦闘員を第3国から安全な地域に退避させる必要が生じた場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する」と明記されている。

これは現実の反映で、アメリカが救出しなくてはいけないのは、アメリカ国民それからグリーンカードを持っている人、それが韓国に22万人もいる。22万人ということは、1000人乗りの船で220隻。旅客機に400人乗るとして550機。22万人助けるのも無理かもしれない。
  さらに救助の優先も決められている。1番はもちろんアメリカのパスポートを持っている人。2番目がグリーンカードを持っている準アメリカ人。3番目がイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド。4番目がその他。日本人も中国人もドイツ人もみなその他に含まれる。つまり、米軍が日本人を助けるのは現実的に無理だから、アメリカは断ったのだ。

シーレーン防衛では、海上自衛隊は海上通商路を守るために、世界第2の海軍を持っている。実際商船の護衛能力では、日本は世界一。
  アメリカの巡洋艦、駆逐艦はほとんど空母の護衛用で、商船の護衛能力はゼロに近い。日本の場合は商船の護衛用に、訓練用3隻を含み50隻の護衛艦と、P-3哨戒機77機、哨戒ヘリコプター86機など、錚々たる最新鋭のものを揃え、訓練度も高い。シーレーン防衛は、今は日本の商船を守ることではない。日本籍の商船は今150隻しか残ってなくて、外航船員は2000人を切っている。日本は人件費が高いので、香港やシンガポール、パナマなど、外国に子会社を作り、そこに日本の船を売って向こうの船籍にし、外国人船員を乗せている。それが便宜置籍船というチャーターバック。日本の2012年の輸入量を調べてみたら、日本籍船によって運ばれたのはわずか10.1%、便宜置籍船で55%くらい。純粋の外国船で運んだ物が残りの33%。

日本籍の船だけ守っていては1割しか守れないわけだから、当然日本のシーレーン防衛は外国籍の船も守ることになっている。それは個別的自衛権の範囲で、それが来なかったらこの国は存立しえないわけだから、どの国籍の船を守ろうが、これは日本の個別的自衛に決まっている。
  海上自衛隊はそういうことで今までずっとやってきたが、誰も文句を言っていない。それを安倍首相が「今の憲法の解釈では外国の船は守れない」と言う。それではこれまで海上自衛隊がやってきたシーレーン防衛は、ずっと違法行為を計画し、訓練してきたことになる。その現在の最高司令官は安倍首相だ。
  だから海上自衛隊でも、何を馬鹿なことを言っているのかと、笑い話になっている。


【Q】中立が理想であっても、米軍は簡単には出て行かないのでは?

それは難しいだろう。いまそれをやろうとしてアメリカと対立するのは得策ではない。しかし、本来は対ソ同盟だったので、本当の意味での同盟の目的は失っている。同盟というのは共通の敵がいて成り立つもので、本来の目的が失われた後も残そうとすると変なことになってしまう。冷戦時代と違っていまは日本に本格的に攻め込む能力を持つのはアメリカしかいないのだから。

原理的に軍事学的に考えると一番安全なのは武装中立。歴史的にみてもそうだが、現実的にすぐに中立国をめざすのは難しい。それは長い時間軸で考えなければいけない。
  ただ、外務省は同盟を愛情で結ばれる結婚のように思っているが、同盟は企業のジョイントベンチャーのようなもので、そのときどきの利害によってくっついたり離れたりする。超人種主義のヒトラーと日本が同盟を結んだり、日本の完全武装解除をした米国が日本に再軍備させ同盟するなど、理念や価値観とは無関係な例が多い。

今日のアメリカの国家目標は「財政再建」「輸出倍増」で、中国の「封じ込め」は考えず、エンゲージメント「抱き込み」を目指すと、何度も公言している。外務省は過去のアメリカに追随しようとするかっこうだ。


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