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Vol.11 - 僕はニート


image世の中、毎日、毎日、ニートだフリーターだってうるさいね。
僕はニートもフリーターも経験済みだから、何だか政治家や行政が言う救済論が果てしない理想論に思えるよ。
そんなに甘いもんじゃないんだ。
ニートの地獄っていうのは。
毎晩、毎晩、発狂しそうな気持ちを迎えているんだ。
うつ病と同じ。
よくうつ病の人には"頑張って"という言葉はタブーって言うでしょ。
それはニートも同じ。
"頑張って働け!甘えるな!"は意味がない。
働きたくないから働かないんじゃないんだ。
引きこもりたいから引きこもるんじゃないんだ。
道が見えないんだ。
若いから人生と戦う方法がわからないんだ。
だから仕方なくニートって呼ばれるんだ。

僕は今回から、昔の僕と同じ目をしている友たちに書く。
読めばもしかしたら一瞬心が休まるかも知れない。
そう祈り書く。
でも、みんなこれだけは憶えておいて欲しい。
明けない夜はない。
僕の夜は明けた。
だからみんなの夜もきっと明ける。
明けたからと言って楽ではないけどね。
生きることは永遠に戦いだから。
困ったもんだよね。



***


18歳の 3月、僕はなんとかギリギリで高校を卒業した。
あてもない、未来のない状態のまま。
親がどうしてもというから受けた大学も予想どおり全部落ちた。
今さら!?というレベルで探した専門学校も全て応募締め切り状態で門前払い状態だった。
神田かなんかにあった専門学校の窓口に行き、願書が欲しいんですけどと言う僕に "来年のですか?"と冷たく言ったメガネ女のことが何故か今も忘れられない。

無だった。
ただ一つ無力な命があるだけで、存在理由がなかった。
学生ではなかった。
社会人でもなかった。
バイトもしてなかったからフリーターでもなかった。
受験する意志がなかったから浪人でもなかった。
友達もなかった。
友達のように思えた知り合いも、なんだかんだ言って上手くこの世界をすり抜け専門学校で楽しそうにしていた。
恋人もなかった。
若い鬱屈した性欲は夜中のマスターベーションで解消された。
深夜TVで卑猥なポーズを取る女たちが僕の恋人だった。
夢もなかった。
プロのミュージシャンになるという夢もまったくもって上手くいかず、後には徒労感と無力感だけが残っていた。
僕は何も出来ない。そういう思いに心を鷲づかみにされていた。
だからギターを捨てた。
金もなかった。
僕の収入は親からもらう恥ずかしさにまみれたお小遣いだけだった。
それで夜中にビールを買う、安酒を買う。
そして家で隠れるように飲む。
不安でどうにもならない頭をそれで少しだけ、本当に少しだけ麻痺させる。
そして深夜の台所に向かい冷蔵庫をあさる。
鬱屈した欲求を解放するがごとく、そこにあるものを貪り喰らう。
そしてまた酒を飲む。
気持ちよくなったところで恋人のTVと戯れる。
マスターベーションをしながらしばしの夢を見る。
また酒を飲む。
最後に気持ち悪くなる。
吐く。
泣きたいような気持ちで、気絶するように眠るよう努力する。
だか眠りの世界はそう簡単には僕を受け入れない。
image必死に必死に目をつむる。
そしていつしか眠る。
しかしそこには次の敵が待つ。
悪夢。
悪夢にうなされる時間が来る。

起きていても寝ていても安らぎはない。
そしてそのうちとてつもない現象が起きはじめる。
突然、心臓の鼓動が早くなり止まらなくなる。
汗が全身から水のように吹きだす。
僕はその一瞬で体重が20キロくらい減ったんじゃないかと思うくらい体力を消耗し、実際に夜中、何度も何度も体重計に乗ってみたのを覚えている。
明日の見えない不安からとてつもない恐怖が深夜の僕を包む。
僕は胎児のように体をまるめてシーツを噛みながら必死に耐える。
全身がガクガクと振るえ歯はガチガチをかみ合わないくらい震える。
これはタバコの吸いすぎによる中毒症状もあるかも知れない。
後にも先にもこの頃の不安が今でも僕の中で最大値だった。
本当に怖かった。

そんな最悪の社会への旅立ちだったのを覚えている。
18歳の春。

僕は確実にニートだった。


つづく


MIZK 2005-9-30
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