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Vol.25 - 我、脱兎のごとく歌舞伎町から逃げる。


image 4/30に新宿で行われた「自由と生存のメーデー07」というフリーターやニートそしてホームレスの人たちが主導となったデモの様子を見にいったんだけど、その想像以上に物々しい雰囲気に驚いた。
特に20代前半の若者たちだと思うんだけど殺気だった雰囲気を醸すものもいて現代の閉塞感を如実に表していたと思う。
でも世はバブルの再来だとか、就職ゴールドラッシュなどと信じられないようなことを言っている。
本当なのかな?もしそうだとしたら僕の世代ってどこまでもどこまでも割が合わないなあ。どんなにあがいても、2浪しても大学に受からなくてノイローゼになった知り合いだっていたのに… でもそうは言っても増え続ける自殺者や不遇な人々。
一体真実はどこにあるんだろう?そんな凄く複雑な気分になった。

***

話変って僕のローリングストーンライフ。
10何年前、完全に完璧にそのエクセレントなまでの愚かさに腹を抱えて笑ってしまうほどのザマで社会に突入した僕の最初の仕事。それは新宿歌舞伎町のデートクラブの客引きという、もし母親が聞いたならば“我が子いったいどこまで愚かなりや?”と自分の不遇を恨むしかないようなものだった。今の僕がその時の母親の立場なら間違いなくこう思うね。“お前今までの学費返せよ” 間違いなく。

※デートクラブ… ひらたく言えばソフトな売春斡旋所みたいなところ。店には女の子がいて男は金を払って入店。そのあとは好きにしな、ただし金は払えみたいな感じのところ。

imageいやいや、しかし職業に貴賎なし。職業に貴賎はないってことはデートクラブだって素晴らしい仕事じゃあ、あーりませんかとその頃の僕に思えるはずもなく、ありとあらゆるまっとうな労働現場からはじき出され苦虫を噛み潰したような顔で東スポで見つけたその仕事の事務所に面接で訪れたのは確か夕刻4時くらい。どっからどう見てもいけすかない、僕、日サロ常連ですといった顔した18才くらいの野郎の面接を受け、ものの3分で“はい採用。早速仕事しようか”とその時だけは口調がソフト。何だか意味わかんないけど店にいたドエロイ女の子を一人肩に抱きながら僕を新宿の靖国通りと歌舞伎町の間のあたりにつれていき、そこに立っていた先輩社員に僕を紹介した。

“彼、新入り。面倒見てやって”

紹介された色白でヒョロっとした、だが、眉毛は限りなく細くああ、何か不純な科学合成物質を体内に入れるのがお好きですね?という顔をしたその先輩が僕を見る。そして彼の“ああ、どうも、よろしくお願いします。”と関西イントネーションの拍子抜けするくらいの腰の低さにびっくりしたのもつかの間、それだけで日サロ野郎は“しっかりやれよ”とさっきとは180度違うドスの聞いた声を捨て台詞にして、そそくさとそこを女と立ち去ってしまった。

僕はその先輩と会話した。

“仕事って何やればいいんですか?”
“うーん早い話がポン引きやな”
“ポン引き?”
“若い女と金でSEXしたそうなオッサンを捕まえるということや”
“ほー”

ほー。じゃねえよお前とタイムマシンに乗って自分自身にツッコミを入れたいところだけど、それにしてもえらい求人広告と違うなあ。広告には確か“スカウトマン募集”とか書いてあった気がする。でもまあ、欲望で股ぐら暴発寸前のおっさんをスカウトする。そういうことね。わかりやすい。

そしてさらに会話はすすむ。
“Sさん(先輩社員のこと)、関西出身なんですか?”
“そや、先週こっちに来たんや、上から行けって言われてな”
“上?”
“そう、上。うちの会社はヤバイからな。あっちの筋やからな。逆らえんのや。ほんまは飛びたいんやけどな、でも飛んだら何されるかわからんしなあ。困ったもんやで”

そうちょっと愛嬌のある病弱そうな顔で言う(※だが顔は怖い)Sさんの独白にただ“ほー…”と相槌をうち就業5分にして限りなくやる気ゼロとなったのは人間であれば許される範囲なのではないでしょうか。そしてさらにSさんは追い打ちをかける。

“給料も安いしなあ。今は10万も貰ってないで”
“え!?でも求人広告には30万上って書いてありましたよ”
“ああ、あれはあくまで店のノルマを達成しないと。一日10人くらいポン引きすればもらえるで。でも実際そんなん難しいけどね”
“…”
“でも、あの人(日サロ野郎)みたいに店長クラスになれば金も100万くらい貰えて、おまけに店の女の子とやり放題なんだよ。ああ、早く俺もそうなりたいなあ”

と、アホまるだしで夢見がちな少年の瞳をするSさんの横で僕のやる気メーターは完全に振り切れ。
じゃあ、僕あっちでスカウト始めますんでとそそくさとビルの隙間へと逃げ込み、渡されていたデートクラブ割引チケットをあたりにぶちまけ全速力で走って逃げた。脱兎のごとく逃げた。

そして一人暮らしのアパートに帰り、まずは電話線をひっこ抜き、電話をしばらく不通にした。
怒ったあの日サロ野郎から電話が来るのを恐れたためだ。さらにもしかしたら家にあいつら来るんじゃないだうか?ああ、こんなことなら履歴書に嘘を書いとけば良かったなどと我ながら小心者ぶりを爆発させ、耐え難い不安を安い日本酒をすすりながらごまかし、些細な物音にも、そう隣人が家に帰ってくる足音とかにも怯えながらしばらく家でひっそりとしてた。

我ながらなあ…

何ていう社会への第一歩だ!!

しかし、こんなもんじゃあ、転がる石は止まらない。これはあくまで序章。
転がる石に苔はつかない、なんてーもんは大嘘で、転がれば転がるほど僕の体とスモールハートには血と涙と安酒とニコチンと悲しみとがまとわりついてゆく。そしてしまいには心の奥底にある触れちゃあいけない闇の部分のドアも開いてゆく。

汚れちまった悲しみに。

中原中也のこの詩を完全暗記するような10何年前の日々。




つづきやすよ。

2007.5.7 掲載

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