WEB連載

出版物の案内

会社案内

ヤラセじゃなかったリチャード3世遺骨発見

photo
リチャード3世
(ナショナル・ポートレート・ギャラリー所蔵)

この2月、イギリスを沸かせたのがリチャード3世の遺骨発見。
  ホント?と思ってしまったのは、あまりにも出来すぎだったから。

  1. 古地図でリチャード3世が埋葬されているとされる、現在は駐車場になっている場所を掘る。
  2. 掘った初日に人骨発見!
  3. ビンゴ! その人骨がリチャード3世!

と、こういうお話なんだもの。

そのうえ、一部始終をチャンネル4がドキュメンタリー番組として撮っていたとは、ますます嘘臭い。

歴史に疎い私も、リチャード3世については、ちょっと知っています。というのも、ウィリアム・シェイクスピア作『リチャード三世』をBBCのドラマで見たばかりだったから。(*)
  ベン・ウィショーがリチャード3世役。ウィショーは、得体の知れない人を上手く演じます。代表作『パフューム ある人殺しの物語』では、究極の香水を求めるあまり、女性の放つ香りを採取しようと次々女性を殺してしまう主人公でした。シリアルキラーなのに、悪い人に見えない。不思議な生い立ちの孤児として描かれることもあいまって、香りの求道者、善悪を超えた人のようにも見える。
  敵対者を殺し、財宝を奪ったりするリチャード3世も、高貴な風情で、悪者なのか、根っからの王体質なのか、わからない感じに見せてくれました。

いずれにせよ、ものすごく恨みを買いそうな王ではあります。そのせいか、戦死した後も、そのへんの墓地に簡単に埋葬されただけ。古地図によると、たくさん並んだ十字架の1つの下に、リチャード3世が埋まっているという具合。それで墓地ごと忘れさられ、いろいろに土地利用されて今は駐車場となっていたのでしょう。
  今思ったけど、遺骨発見ヤラセ疑惑(私が勝手に抱いていた疑惑ですが)、番組の連続放映からして、BBCとチャンネル4の共犯説もありでしたね。

そんな疑り深い私も、今となっては納得。1.2.3の3段階には違いないけど、そこまで簡単なものじゃなかった。それどころか、アウトすれすれの危ないとこだったというのが、わかりました。チャンネル4のリチャード3世ドキュメンタリー第2弾、舞台裏編からの受け売りですが。

まず、掘る作業が危なかった。もう少し深く掘削してたら、骨ごと削り取っていたところ。古地図で位置は見当がついても、埋めてある深さまではわかりませんものね。
  リチャード3世には、背骨が湾曲しているという大きな身体的特徴がある。そして、掘り出された骨も背骨が湾曲! 限りなく本物と思えても、そこで手を緩めることなく調査は進む。
  そこにまたしても難局!各分野の専門家がそれぞれ作業を進める中、骨の形態を調べる班から、女性の骨である可能性が!
  一方で、歴史家は、女性的な体格の王だったという古い記述をちゃんと見つけ出している。

決め手となるDNAも、骨からDNAを抽出する班と、比較対象となるリチャード3世の血を引く人物を探し出す班で別々に進行。が、枝分かれしていく家系図の先が、子どもがないことで次々袋小路に!
  ようやく探し出された男性は、リチャード3世の系譜である母親も既になく、子どももいない、最後の1人かもしれない人。もし亡くなってしまっていたらとヒヤヒヤ。駐車場を掘ったのが今で良かった!
  そして、骨とその男性のDNAが目出度くマッチ! ついでに、頭蓋骨から復元された顔と、肖像画のリチャード3世がそっくり、その男性にも似通ったところが! バンザーイ、えらいぞ古地図!

探しものが見つかって万歳なだけじゃなく、その骨からは、どういうふうにリチャード3世が殺されたかなど、歴史の空白の部分も、いろいろわかるのだそうです。

2013.4.27 掲載


【2016.9.15 記事訂正】
(*) ウィショーが演じたのは3世ではなく2世、シェイクスピア作『リチャード2世』の間違いでした。お詫びして訂正いたします。その勘違いに気づいた顛末を本連載「シェイクスピア生誕400周年」に書きましたので、そちらも合わせご覧ください。

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る