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第103回『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』

パリで株式仲買人として働きながら、趣味で絵を描きはじめたゴーギャン(バンサン・カッセル)。しかし1882年にパリの株式市場が大暴落すると、それまでの裕福な生活は一変し、生活は困窮。ゴーギャンは絵画を本業にするべく、理想の創作環境を求めてフランス領タヒチに渡ることを決意。しかし、妻と5人の子どもたちは同意せず、別れて一人で出発することに。1891年、わずかな資金を手にタヒチへ渡ったゴーギャンは、希望の新天地にすっかり魅了される。そして、"原始のイヴ"の如き美女テフラ(ツイー・アダムス)と出会うが…。

ゴッホ、セザンヌらと並んで後期印象派を代表する一人として、日本でも人気の高い画家ゴーギャン。

本作は彼の生誕170周年を記念し、自身が書いた伝記『ノアノア』を元に、最初にタヒチに滞在した1891年6月~1893年7月までの日々を中心に描かれたものです。

ゴーギャンの人生において、タヒチで過ごした時間は決して長くはないものの、画家人生に与えた影響は計り知れません。というのも、ゴーギャンの代表作と呼ばれているものの多くは、タヒチ渡航以降に描かれたものだからです。

また、サマセット・モームの傑作小説『月と6ペンス』の印象も強く、ゴーギャンといえばタヒチ、というイメージを持っている方も多いと思います。

本作について触れる前に、個人的なことを1つ。

中学生時代、美術の授業で、教科書に掲載されている名画の中からどれか1つ模写をする、という課題が出ました。

そこで僕が選んだのが、ゴーギャンの『タ・マテテ』という作品です。その理由として、一番簡単そうだった、というのもありましたが、何より絵から受けるインパクトが大きかった!

作品が描かれた背景を読みながら、まだ見ぬタヒチという国へ想いを馳せたものです。

その後、しばしの時を経て、美術館めぐりが趣味となり、世界各国でゴーギャンの作品を目にしました。絵を見る時には、同時にタヒチのことを思わずにはいられません。

ゴーギャンのタヒチでの日々は一体どんなものだったのだろうか?

そんなこともあり、本作には一際強い期待と思い入れを持って見た次第です。

特に印象に残ったのは、“生みの苦しみ”。

表現者の誰もが抱えるものといっても過言ではありませんが、本作におけるゴーギャンのそれは、尋常ではない。

まさに愛と苦悩の日々と呼ぶにふさわしい。

辛くも生き抜いてきた過去と、目の前の今、そして未来とが、同時に錯綜するような何とも言えないもので、見ているこちらまでも苦しくなってきます。

しかし、そんな制作背景が、彼の一筆一筆を強く、重くした。一見するとシンプルな作品の奥に、底知れぬ厚みや重み、深みを与えているのだと思わずにはいられません。

中でも、「アハ・オエ・フェイイ?」、「イア・オラナ・マリア(マリア礼賛)」、「メランコリー」「マナオ・トゥパパウ(死霊は見守る、死霊が見ている)」などの代表作の誕生秘話は、本作のハイライトといってよいでしょう。

ファンにとっては、たまらない場面ですね。

タヒチの美しき自然とともに、ゴーギャンの芸術魂をぜひ堪能してください。


『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』
2018年1月27日より公開中
■公式サイト
http://gauguin-film.com

2018.2.25 掲載

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