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第11回 女性初の新聞論説トップ 産経論説委員長
      千野 境子さん  特派員・学生の人気を集める    


「産経の編集方針は分りやすい。朝日が左といえば産経は右」
  「たまに朝日が右といえば産経は左とゆうんじゃないの?」
  皮肉屋の多い特派員たちの日本の大新聞に対する見方は辛辣だ。

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保守系大新聞である産経は2002年4月14日朝刊一面で派手に「ジェンダーバッシング」を行い、行政や女性団体に衝撃を与えた。産経がその報道の3年後、2005年4月1日、ベテラン女性記者千野境子さんを論説のトップに任命したのを知って、報道委員会委員たちは驚いてしまった。
  是非彼女の話を聞いてみたいと講演を申し入れたが、論説委員長としての仕事の他に、産経の「広告塔」としても忙しい千野さん。講演が実現したのは、任命後半年以上も経ってからだった。

新聞トップの女性

米国メディアの最強女性の一人であるキャサリン・グラハムさんは父親と夫から1963年にワシントン・ポストを相続し、2001年に死亡するまで会長として同紙に君臨した。
  フィリピン新聞界のゴッド・マザーと呼ばれたベティー・ゴー・ベルモンテさんは1986年父親を含む有力なジャーナリストと共にフィリピン・スターを創刊し、1994年に死亡するまでその会長を務め、自らコラムを担当していた。

米国とアジアの女性ジャーナリストの重鎮がそれぞれ父親や夫の威力で新聞のトップを勤めたのに対して、全国紙初の論説委員長となった千野境子さんは実力派といえる。1967年新卒で産経新聞に採用され、37年のキャリアの結果としてトップに登り詰めた。千野さんの講演には、会員のみならずジャーナリスト志望の男女の学生たちが詰め掛け、熱心にノートを取っていた。

千野さんの論説委員長就任に関しては、ただでさえ口達者な内外の記者連中から色々なコメントがあった。「朝日や読売など大新聞が女性を論説のトップにしないのに、なぜ最も保守的な産経がやるのか?」「保守色を薄めるため任命したのだろう」。もっともまともなコメントは「ジェンダーにとらわれないでベテラン記者をそれなりに待遇する時代が来たのだ」。

実際、千野さんは長年の記者生活を通じて十分な業績を示している。早稲田大学でロシア文学を専攻。卒業と同時に産経新聞に入社。夕刊フジ、産経社会部、教養部、外信部を経て、1987年−88年マニラ特派員、1990−93年ニューヨーク支局長。その後外信部長、シンガポール支局長、それに国内ではあるが「大阪特派員」兼論説委員など、ユニークな職種も経験した。

千野さんが講演で強調したのは、中国・北朝鮮報道に対する産経の一貫性。文化革命の報道で日本の新聞は次々と追放されたが、その後他紙は中国側の条件を受け入れて特派員を送った。しかし、産経は31年間北京支局を閉鎖され、再開するまでは他の方法を駆使して中国問題を報道した。「外信部長時代に中国の外交官に会うと、ポケットから小さな切抜きを出して文句をつける。ご愛読を感謝します、とお礼を言ったものです」と記者たちを笑わせた。

北朝鮮・拉致問題では、産経は1980年代の一連の拉致疑惑報道で、17年後の1997年新聞協会賞を受賞した。「もし、産経新聞が疑惑を報じた段階で他紙や政府、日本社会がもっと関心を示していれば、これほどの悲劇にならなかった。最後の1紙となっても、この問題に取り組む」と決意を述べた。

また、「産経の論調は保守的だが、人事は革新的」。戦後一貫して女性記者を採用し、昨年まで夕刊(大阪)編集長は女性、他社からのスカウトも多く、2005年日本記者クラブ賞と文芸春秋社の菊池寛賞をダブル受賞したのは、共同出身の産経ソウル局長、と語った。

独占インタビュー

「記者生活のハイライトは?」という質問に対して、「米国が指名した3悪人。パナマのアントニオ・ノリエガ将軍、キューバのフィデル・カストロ議長、ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領との独占インタビュー」と答えた。「米国がパナマを爆撃、将軍の住む宮殿を破壊したので、私のインタビューが彼の国際社会との最後の出会いとなった」

産経の右傾化に対する米国記者の質問には「日本のナショナリズムというより、日本が普通の国になったのではないか」と答え、学生からの「記者クラブ制度は閉鎖的ではないか?」という質問には、「記者クラブ制度を過大評価しないように。私はいままで所属することなしに仕事をしてきた」と忠告した。

今後の抱負として「しなやかに、したたかに、刺激的に」と結んだが、この千野さんの講演が刺激したのか朝日新聞論説主幹若宮啓文さんが3月14日特派員協会で講演し、読売新聞会長兼主筆渡邉恒雄さんは3月23日に来訪することとなった。

2006.3.20 掲載

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