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第25回 東をどりは世界の踊り


「東をどりは東京の踊り、、、東をどりは日本の踊り、、、東をどりは世界の踊り」。

「四君子」「新橋150年記念 お好み芸者の四季」と2部構成の第83回東をどりのフィナーレ総出演者によるゲイシャ・ダンスは、東京から世界へと景気良く盛り上げ、観客と共に手を締めてのお開きとなった。

「歌舞伎は時々見ているが、初めて見た芸者ダンスは実に綺麗だ」(英国フィナンシアル・タイムズ東京支局長デイヴィッド・ピリング)
  「ロシアはバレエ、日本は踊りだ!」(ロシア連邦イタルータス通信アジア太平洋総局次長 V ソーンツエフ)
  東をどりの主催者、新橋組合の日本ゲイシャ・イメージアップ作戦は見事に成功したようだ。

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お茶席を撮影中の特派員たち

安政4年、江戸時代から伝統ある新橋花柳界は今年で150年目の節目を迎え、従来のお茶屋や料亭関係のルートだけでなく、今回初めて広く一般日本人と外国人への公開を目指してPRしていたが、プレスクラブの特派員たちもこの機会に日本の伝統芸能を取材した。

新橋演舞場ではメインの踊りの他に、芸妓の教養でもあるお茶席も設けられ、特派員たちもお抹茶の接待を受けるはずであったが、実は撮影で忙しくお菓子を頂く時間はなかったようだ。


インタビューでは鋭い質問

踊りにはうっとり夢見心地で楽しんでいた記者たちも、質疑応答となると本来の鋭さを取り戻す。
  「芸妓の平均年齢は? 若い志望者はいるのか?」
  「ハリウッドの映画『さゆり』では芸妓を高級娼婦扱いしていたが、貧しい家庭の子を勧誘するのか?」
  「勤務時間は?」
  「芸妓になるのに親は反対しなかったか?」
  「客席には高齢者が多かったが、花柳界は今後どう存続するのか?」
  ドイツ、シンガポールなど東西の記者からの質問を和やかに受けとめたのは喜美弥、七重、さよりの3人の芸妓さんと、新橋料亭組合代表で江戸割烹米村の主人、藤野雅彦さん。

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新橋芸者の真実に迫る記者たち

サヨリさん(熊本出身)、喜美弥さん(岐阜出身)の両親は娘が芸者になるのは最初は大反対だったが、「東をどり」で伝統芸能の良さを発見した途端に態度をかえたという。「東をどりは新橋芸者の社会的地位を向上させた」というのが地方出身の若い二人の意見。(浅草芸者の伝統がある)浅草出身の七重さんは、最初から親の反対なし。 若い芸者の勤務時間は長く、勤務(お座敷)が深夜まで続いても、朝は11時から踊りや三味線のお稽古でみっちりしごかれるという。

新橋芸者の年齢は20歳代から80歳代まで、平均年齢は50歳位だが、近頃は学校教育では教えない日本の伝統音楽を習得したいと、アーティスト志望で芸妓修行に入る若い娘もいるそうだ。

新橋芸者の総勢は70人で大手置屋は三箇所だが、置屋から自立した芸妓の一人置屋まで入れると30を数える。



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インタビューを受ける踊の名手たち 喜美弥さん、七重さん、さよりさん(左より)

Visit Japan

「『さゆり』などハリウッドの高級娼婦イメージは現在の新橋のゲイシャには関係ない」と藤村さんは新橋ゲイシャの成り立ちについて外国記者を啓蒙。貧乏だから芸者になるというのは昔の話で、今や“株式会社 新橋演舞場”の株は料亭の旦那衆だけではなく芸者衆も持っている。

今年4月、国土交通省からの派遣でワシントンのJapan Weekには芸妓4人が派遣され、自分も料亭のおもてなし文化について講演して「Visit Japan」をPRしたが、来年は出来れば新橋からも派遣したい。

新橋組合の料亭では一見さんを受け付けない慣習を改めて新顧客と若い客層を開拓するため、AmexカードとDinersカード二社の料亭デスク経由の客は、日本人、外国人を問わず常連客扱いで受け入れ、芸者も手配したい」と藤村さんは強調した。

但しお値段の方は芸妓二人一組で4万円、お料理も一客4〜5万円の予算が必要だ。



舞台は暗転

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東をどり 「四君子」より (5月28日より31日まで新橋演舞場にて上演中・写真提供 新橋組合) 
  華やかな舞台の幕が下り、特派員たちが携帯電話をONにすると同時に飛び込んできたのが、松岡農水相が首吊り自殺を図ったとのニュース。半数の記者が楽しみにしていたゲイシャ・インタビューを諦め、農水省へと新橋演舞場を飛び出していった。

取材対象が時々刻々変化してゆくのが東京特派員生活だが、日本の歴史に造詣の深い特派員は「徳川幕府を倒した勤皇の志士たちが遊んだ新橋花柳界で自民党政権を揺るがす自殺のニュースを受けたことは、安倍内閣終わりの始まりのBad Jinksではないか」と筆者の耳元に囁いた。

「料亭というものに行ってみたい」と当選したばかりの若い代議士がのたまわったが、何時の世も華麗な芸者・料亭の舞台の奥は深いようだ。「東をどり」は一般の日本人や外国人がその花柳界文化を覗き見る、年に一度のチャンスだ。


2007.5.31 掲載

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