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第61回 米国上院議員ダニエル・イノウエ氏 日米関係を語る

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ダニエル・イノウエ上院議員

司会のケネス・クキエ氏(特派員協会理事・エコノミスト記者)は「もし米国に日本のような人間国宝制度があれば、まず選ばれるのは20世紀—21世紀にかけて日米の懸け橋となったこの人物」と5月31日プレスクラブ昼食講演会で米国上院最古参、民主党重鎮ダニエル・ケン・イノウエ上院議員を紹介した。

イノウエ上院議員は1924年ホノルル生まれ、第二次世界大戦中に日系アメリカ人として人種差別を受けるものの、アメリカ人としての忠誠心を示すためハワイ大学医学部予科生のまま志願兵となり、ヨーロッパ戦線で米国陸軍における勇猛果敢で伝説となった日系人部隊442連隊戦闘団で小隊長として戦った。

イタリアにおけるドイツ国防軍との戦闘で日系のみならず米国民の英雄となり、名誉勲章はじめ数々の栄誉をうけ大尉として除隊し大学に戻ったが、戦闘中に右腕を失ったため医学志望を諦め弁護士となり、政界に進出することとなった。

1954年当時準州だったハワイ議会の議員に当選、59年連邦下院議員に。1963年からは上院議員となり、戦時補償法の制定、ウォーターゲート事件とイラン・コントラ事件の上院調査特別委員会長を務めるなど、米国議会の良心として米国内外の信頼を集めている。

現在86歳。上院歳出委員会及び国防歳出小委員会委員長として米軍予算に強い影響力を持ち、また上院最古参議員として米国上院仮議長の名誉も担っている。

訪日中のダニエル・イノウエ上院議員は米軍普天間基地移設に関する海兵隊のグアム移転経費の日米負担額についての外務、防衛担当閣僚(2プラス2)の見方、今後の日米関係、中国の海軍、空軍の増強のなかでのアジア・太平洋地域の安全保障における日本のプレゼンスの重要性について率直に述べ、講演時間を延長して内外の記者たちの質問に応えた。

イノウエ上院議員は米軍の関心は今やヨーロッパでなく、インド・太平洋地域にあり、北海道や東北よりも沖縄に8000人の海兵隊員が駐留するのは、中国の潜水艦の数が米軍を超え、空母や宇宙開発でも米国を追い上げる存在になったからだと語った。

「米軍が撤退すれば日本は独自に軍備増強を図らざるを得ず、『隣人たち』も同様に増強する。「この結果、血が流れるのは歴史が示している」。東日本災害で延期されているが、「グアムへの100億ドルの移転費がいまや170億ドルに膨らんでいる」。

「仙台では自衛隊と米軍は兄弟のように協力している。『フレンドシップ』には値段表が付いているものだが、米国の友情には値札が付かない。本物で強力なものだ」

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司会ケネス・クキエ(エコノミスト記者)、イノウエ上院議員、
デイヴィッド・マクニール(インデペンンデンス記者)筆者(右より)

質疑応答から


新月テレビ:私も米国人。沖縄の人々の80%が反対投票しているのに、どうして米国は人々の意思を尊重しないのか?
イノウエ上院議員:米国は(沖縄という地方自治体ではなく)中央政府レベルで合意している。

インデペンデント:自民党から民主党になって変わったか?
イノウエ:菅は同じ。(会場笑い)
インデペンデント:鳩山は?
イノウエ:彼は考え方を変えた。(会場爆笑)

エコノミスト:日本の地球社会での責任だが、軍事面では沈黙しているのではないか?
イノウエ:日本は独立国家としてもっと責任を担うべきだ。

フリーランス:日系人として差別をうけたが?
イノウエ:私は二世。長男として生まれた。一世でも三世でもない。イタリア戦線で最初の交戦中に隊員たちがそれぞれ口にしたのは、「家族に不名誉の名は着せられない」という言葉だった。

エコノミスト:日本人は敵性国民として収容された。
イノウエ:我々はヨーロッパ人ではないから。

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満席の会場 ヴェテラン記者の姿が目立った

最後の質問を振られていた筆者は、上院議員の86歳の生涯の中で「最高の瞬間、またはもっとも記憶に残る瞬間とその理由」を尋ねた。

ダニエル・イノウエ上院議員は熟考後、絞り出すような声で答えた。
  「最高の瞬間は思い出さない。もっとも記憶に残る瞬間は、今なお脳裏から消えない。忘れられたら、と願っているが……。私はイタリア戦線で匍匐して迫ってくるドイツ兵に標準を合わせ射殺した。仲間は賞賛し、(当時は)自分も誇りに思った。(しかし)酒も飲まず煙草も吸わず聖書を信じている真面目なキリスト教徒である私が、どうして同じ人間を殺せたのか……」

ハワイ好みの軽いタッチで終わる筈の質疑応答が、想定外の深刻な答がでて会場が一瞬沈黙した。

しかし「タカ派の上院議員に人間としての深みがあるのは、彼のこの自責の念ではないか」というのが会見後の記者たちの感想であった。


2011.6.07 掲載


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