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第65回 オペラ、歌舞伎観劇も

(社)日本外国特派員協会は内外の記者会見を行うばかりではない。協会に入会した会員の楽しみの一つは、正・準会員双方に向けた観劇会があることだ。前評判の高い出し物の特別席をブロックで確保するため、団体観賞券が発売される数ヶ月前に協会から会員へのお知らせが出されると2−3日で満席となる。

この秋のハイライトは10月15日東京文化会館で行われたオペラ通好みのプラハ国立劇場の「トスカ」(全三幕 G.プチーニ作 原語上演、日本語字幕付)と、中村勘三郎が江戸歌舞伎の発祥地、浅草は隅田公園内に設けた仮設芝居小屋「平成中村座」の11月5日昼の部公演。

東日本大震災の放射線報道が続き、ドイツからの音楽家の訪日が次々とキャンセルされ観客数も劇的に減少する中、約束通りのキャストで公演したプラハ国立劇場の「トスカ」には、予約席数を倍増してプレスクラブのオペラ・ファンが詰めかけた。

プラハ国立歌劇団「トスカ」
プラハ国立歌劇団「トスカ」(コーラス)
ノルマ・ファンティーニ(トスカ)とピエロ・ジュリアッチ(カヴァラドッシ)

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「歌に生き、恋に生き」「星は光りぬ」などお馴染のアリアは、東北と共に大震災の苦しみを生き抜いている日本人につかの間の甘美な時間をもたらしてくれたようだ。
  「震災以来ずっと力を入れたままの肩がほぐれたみたい」
  「近頃は新解釈によるロック・オペラなどのゲテモノが登場するが、やはりヨーロッパの古い伝統を継承するプラハ・オペラには安心して観られる」
会員たちの感想だ。

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江戸時代の芝居小屋を再現「平成中村座」
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中村勘九郎 鳶頭鶴松
* * * * *

「平成中村座」は江戸時代の芝居小屋にタイム・スリップさせる。履物は入り口で脱いで座布団席か椅子席に向かう。上演中の飲食も自由で2階正面にはロイヤル・ボックスならぬお大尽席まで設けてある。
  「平成中村座」昼の出し物は「双蝶々曲輪日記」(角力場)、「お祭り」(清元連中)、「義経千本桜」(渡海屋、大物浦)の3本。

中村勘三郎は勘九郎時代よりプレスクラブの贔屓役者で、彼のニューヨーク、パリ公演などの前後には記者会見も行っている。昨年来、勘三郎が難病に倒れ引退の噂まで流れると、会員間に歌舞伎の将来を案ずる声が広がった。

「お祭り」でその勘三郎が粋でイナセナ鳶頭鶴松に扮してセリ上がってくると、大向こうから「中村屋!」「待ってました!」との大声がかかる。「待ってました、とはありがてえ」と答える勘三郎に仮劇場が揺れるばかりの大拍手。もちろん、クラブ席からも身を乗り出しての拍手喝采。

勘三郎の鳶頭が喧嘩を仕掛ける若い者たちを粋にあしらい、見栄を切ると、舞台正面のホリゾントが大きく開く。「祭り」の幟がはためくリアルな隅田川の情景。東京スカイツリーまでしっかり見える。またも小屋を震わす大拍手。「大阪の平成中村座では背景に大阪城を見せたのよ」と隣の客に話しかける人も。
  颯爽と舞台を去ってゆく姿に、勘三郎がまだ幼い頃からのクラブの贔屓客たちは涙をぬぐっていた。

隅田公園内に建てられた仮設劇場は地下鉄、東武浅草駅より徒歩15分の距離だが、終演後は臨時の都営バスが無料で観客を浅草駅まで送ってくれる。治安が心配なニューヨークのハーレムにあるアルビン・エイリー舞踊団の公演では、市バスがミッド・タウンまで観客を送っていた。日頃はバスの停留所を一つ増設するにも規制ずくめの東京都の交通機関がこんな機転をきかすとは、日本も文化国家になったのだろうか。


2011.11.19 掲載


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