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第82回 「終戦のエンペラー」

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(左から)野村祐人、奈良橋陽子、カレン・セバーン(司会)

8月15日の敗戦記念日を控え、7月25日に(社)日本外国特派員協会(プレスクラブ)では話題作「終戦のエンペラー」の試写会とプロデューサー、奈良橋陽子・野村祐人親子の記者会見を行った。

マッカーサー元帥を最高司令官とする占領軍の従軍欧米記者たちの取材拠点として67年前に誕生した当クラブなので、当時の事情を知る古い会員なども押し掛け、開演45分前に満席となる「橋下会見」以来の混雑ぶりであった。

日本国民にとって、マッカーサーといえばコーン・パイプを銜えて丸腰でタラップを降りる厚木飛行場での勇姿、モーニング姿で直立する昭和天皇の横でカーキの平服で腰に手を当てている傲慢なスタイル、政策の違いからハリー・トルーマン大統領に解任されると最後に“Old soldiers never die. They just fade away”(老兵は死なず。ただ消えてゆくのみ。)と米国議会で泣かせる退任演説を披露するなど、カッコイイ英雄の印象が強い。

プロデューサーの奈良橋陽子さんはマッカーサー元帥の多面性を描いた、と述べたが、常に自分の周囲にカメラマンを集めておき、大地図の前では指揮棒を動かし、カメラ目線を確認するなど敗戦天皇になり代わって日本国民の絶対的崇拝を集めたダグラス・マッカーサーの自分のイメージを気にする俗人ぶりを淡々と描いている。

「決められない御前会議」の馬鹿馬鹿しさ、軍部による天皇の全国民に降伏を知らせる玉音放送レコードの争奪戦、上院議員たちの反対を押し切って天皇の戦争責任回避のため部下のフェラーズ准将に10日間の秘密調査を命じるマッカーサーの本音はどこにあったのか?

終戦のエンペラー

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占領軍人とこれに抵抗する日本官僚の中で日本文化に深く肩入れしているフェラーズ准将と大学時代からの恋人アヤ、さらにその叔父鹿島大将との交流が現代史ドキュメンタリー・サスペンスのなかに人間的暖かさを加えている。

野村祐人さんは映画の中立を期するためオーディションで選んだピーター・ウエバー監督は英国人。撮影はニュージーランドで行われ、荒涼たる廃墟の東京を示すために東北大震災の映像も一部使われたという。また、この映画を“Good filmでなくGreat film”にするためスタッフ、俳優たちから提案を受け、マッカーサー元帥役のトミー・リー・ジョーンズは大乗り気で「鼻の形をかえようか?(マッカーサーは有名な鷲鼻)髪型はこれでよいのか」と常に提案してきたという。

マシュー・フォックス(フェラーズ准将)西田敏行(鹿島大将)、火野正平(東条英機)、片岡幸太郎(昭和天皇)等ベテラン俳優に新進の初音映莉子(アヤ)が加わり、本年度の日米映画界随一の話題大作となっている。

筆者は奈良橋さんに個人的に「どうして敗戦のエンペラーにしなかったんですか?」と尋ねたが、野暮な質問で、プロデューサーとしては当然、政治的判断より興行的判断の方を優先するのだろう。

試写後にバーに集まった記者たちは三々五々感想を洩らしたが、最近会員になった週刊誌ライターは厳しかった。
「マッカーサーは国内で日本兵のゲリラ戦を防ぐため天皇の戦争責任を認めなかったというが、この判断こそが日本では最高責任者は責任逃れできるという先例をつくったのだ」

学校の教科書は現代史に触れず、分厚い歴史書は読み辛い。この映画はたった107分で今まで報道されなかった戦後日本の一面を伝えてくれる。8月15日の敗戦記念日前後に改めて観賞したいものだ。

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共同プロデューサー奈良橋陽子、野村祐人親子
奈良橋陽子さんと筆者

2013.8.5 掲載


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