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第98回 日本の空にLGBTの虹を

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左より、杉山文野さん、東小雪さん、山縣真矢さん、渡辺晴子(司会)

渋谷区議会が3月31日、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め証明書を発行する「同性パートナーシップ条例」を可決したことから、L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシャル)T(トランスジェンダー)などの性的少数派の発言が急に高まった。

4月25・26日、代々木公園で予定しているRainbow Pride告知のためLGBTコミュニティーを代表する3人がプレスクラブを訪れたが、クラブ会長ルーシー・バーミンガムさんの事故のため、筆者が急遽司会することとなった。

「同性パートナーシップ条例」とは聞きなれない言葉だが、結婚に相当する関係との証明書があれば、渋谷区では家族向け公営住宅への入居も可能になり、病院の入退院への同意、会社からの結婚祝い金支給などの場面での後ろ盾となる。

杉山文野さんは元女性フェンシングの選手で、現在は著述業と講演者として各地を巡っている。「世界を変えたいのではなく、普通の生活をしたいだけ」と訴えた。中学生になると心は男性なのに体は女性として発達するのに苦しみ、ついには同性愛者としてカミング・アウトした。その後は50か国以上を旅行したが、旅券には女性と記されているのに本人は髭ずらの男性であることが北欧以外の入国管理の移民局に理解されにくく、ある国では20時間待たされた挙句入国拒否されたという。日本では戸籍上男性となるには生殖器を切り取らねばならず、「この手術は保険も利かず、心身に苦痛をしいるだけ」。

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杉山文野さん

山縣真矢さんは1994年設立されたRainbow Prideの設立メンバーで、今回のパレードの主宰者。パレードへの参加は年々増加し、昨年は2万人、今年は3万から4万人を予想しているという。タイ、台湾、韓国などからも参加があり、同性婚を認めている北欧5か国を代表してデンマーク大使館が特設ブースを出すと説明。

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山縣真矢さん

東小雪さんは2年前ディズニー・シーで初の同性結婚式を挙げた元宝塚花組のスター。パートナーの女性とコンサルティングとマーケティングの会社を経営している。
 「仕事も一緒、家事も一緒の生活」と楽しそうに話す。区議会の条例可決の場面では思わず涙がこぼれた。「自分たちのためだけではなく、自殺率が高いと言われる性的少数派の若者の将来のために嬉しかった」という。

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東小雪さん

プレスクラブのベテラン通訳高松さんはこれまでにない猛スピードで日本語から英語へ、英語から日本語へと逐次通訳したが、今まで内外の大手メディアの前で発言する機会がなかったため溜りにたまっていたのか、講演者は制限時間を超えても自分の発言を中止できない様子だった。

会場からは「東京では出会いの場があるが、友人の住む鹿児島では情報もない。地方のLGBTをどう支援するのか?」「期待される条例の運営は?」「地方議会が条例などで公に認めることが大切」など3人の人権活動に対する好意的な質疑応答が続き、司会者である筆者はプレスクラブ事務局と会場の了解を得て予定の時間を30分延長した。

唯一の例外はバーレーン大使館員で医師のコメント。同性愛者と性の同一障害について持論を展開し、「誕生時に男女を取り間違えた女の子の性器を10代になって手術して正常に戻した」と述べたが、「20時間待たした挙句入国を拒否した国はバーレーンです」と杉山さんが反論し会場の失笑を買った。

「日本では男性だけの歌舞伎、女性だけの宝塚歌劇など文化面では性差別はないが、どうして社会構造となると抵抗があるのか」という筆者の最後の質問には杉山さんは「見えなかったから。今までLGBTは日本社会の5.2%と言われていたが、電通総研の今日の発表では7.6%に上る。日本社会にはいないのではなく、言えない」。東小雪さんは「宝塚100年の歴史、4000人の卒業生の中でカミング・アウトしたのは私1人」。

条例の施行は4月1日からだが証明書発行についての規則などは今後の規則で定めるため、LGBTのコミュニティーでは4月26日実施の区長と区議会の選挙には特に注目し、4月25日と26日に代々木公園で行うパレードにLGBTと支援者の参加を呼び掛けている。

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【後記】 4月26日の統一地方選挙で「同性パートナーシップ条例」作成を主導した元区議「完全無所属」の長谷部健さんがネットと口コミの選挙戦で、自民と公明が推薦した村上英子さんを破って区長に初当選した。テレビ中継で見た長谷川さんに駆け寄る杉山さんの笑顔が印象的だった。
 

2015.5.1 掲載


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