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第150回『日本の未来は女性が決める』知日派英国記者の提言


“March comes in like a lion and goes out like a lamb.”
(3月はライオンのようにやってきて子羊のように去っていく)*注1

“April is the cruelest month but it's the merry month of May!”
(4月は最も残酷な月。だが、5月は陽気な月だ!)*注2

過酷な冬の季節を終えて3月になれば暖かさを期待するものの、花咲く4月になり緑が深まる5月が来てもその厳しさは続くばかりだ。

* * * * *

3月8日は「女性の政治的自由と平等のために戦う日」として提唱された国際女性デー。
女性の地位向上や差別撤廃を目指す日、として日頃は女性問題に関心を示さない日本のメディアも改めて紙面や時間を割くことが普通になってきた。

今年2020年は1975年に始まった国連世界女性年から45年の節目の年に当たるが、「すべての女性が輝く社会づくり」をスローガンに掲げる安倍政権の下では、リップサービスだけは行われているものの真摯な取り組みはなされていない。

スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が毎年発表している女性の社会進出の指標「男女格差報告」で日本は2019年、153か国のうち過去最低の121位に沈んだ。先進7か国中でも76位のイタリアから大きく離された最下位である。

この報告は経済、教育、健康、政治の4分野のデータごとに女性が男性と比べてどれだけ地位や機会を得られているかを見て総合順位をつける。健康分野はデータ上、一位とわずかな差の40位だったが、教育分野は大きく下げて65位から91位となった。経済分野も115位でかなり低いが、より深刻なのは政治分野で前年の125位からさらに低下して144位。「女性の議員や閣僚が少なく、さらに女性首相が誕生していない」と指摘された。

* * * * *

英国「エコノミスト」の元編集長、長らく同紙の東京支局長を務めたビル・エモット氏は、このほどプレスクラブの記者会見で、「外国人であり男性である自分が、自己の能力を社会の偏見の中で切り開き結果を出してきた日本の女性たちにジャーナリストとしてどれほど感銘を受けたか」を語った。

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ビル・エモット氏(撮影/A.シーゲル)

昨年出版した『日本の未来は女性が決める!』(日本経済新聞出版社)では国際公務員、社会起業家、芸術家、学者、ジャーナリストなど、職業の枠を越えて活躍する日本女性22人をインタビューし、「21世紀、男女のバランスが取れた日本に変化すれば、女性の力が日本に輝かしい未来を約束するだろう」と述べている。

彼の興味深い指摘の一つは、「女性のトップ・リーダーを創るためには、国立大学の全ての学科入試に課せられているセンター試験や2次試験から理科と数学の2科目を必修から外す必要性がある」ということ。これらの学科は女子高校生に人気がなく苦手とされている。

東大、京大、名大、一橋大、東北大などトップ10国立大学の女子学生比率は28%で、国際ランキングでは国立大学より上を行く慶応、早稲田、上智、同志社、関西学院など私立大学の女子学生比率の平均は44%。欧米の公立、私立大学ではこのような現象はなく、ハーバード、プリンストン、オックスフォード、ソルボンヌなどいずれも男女半々だという。

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ビル・エモット氏(左)と司会のアンドリュウ・ホルヴァ―ト氏(撮影/A.シーゲル)

政界や大企業のトップ・リーダーのポストが東大や京大などトップ国立大学の卒業生で占められていることを考えると、これは男女平等のバイアスとなる。因みに慶応、早稲田と匹敵するオックスフォードやケンブリッジは文系の学生に理数科の試験は課していない。
「もし、理数科の試験があれば自分はオックスフォード大学に合格できただろうか?」と、ビル・エモット氏は冗談を飛ばす。

話は飛躍するようだが、コロナを抑え込む国は女性がリーダーとなっている。アンゲラ・メルケル首相(ドイツ)、ジャシンダ・アーダー首相(ニュージーランド)、蔡英文総統(台湾)、アーナ・ソールバーグ首相(ノルウェー)、いずれも冷静な決断力で感染の拡大を防ぎ国民を守っている。一方、コロナ災害を自分の利益に利用するマッチョなトランプ大統領やプーチン大統領の足元では被害が拡大している。

官僚や専門家に判断を任せて決断しない安倍首相の下で日本の未来はどうなるのか。ネットでは『女性が輝く(shine)を「死ね」』と読んでいる。

さて、4月は残酷な月、と冒頭に言ったものの、日本でもうれしいニュースがでた。4月8日、同志社大学の学長に副学長植木朝子氏(52歳)が女性初で選出された。任期は2024年3月31日まで専門は日本中世文学。江戸文学専門の法政大学学長田中優子氏とともに日本女性の高等教育へのロールモデルが複数になった。

尚、この著作は今秋オックスフォード大学から英語版が出版される予定。

2020.5.12 掲載


*注1 直訳すると、3月はライオンのようにやってきて子羊のように去っていく。「3月はライオンのように荒れた天気で始まり、子羊のように穏やかな天気で終わる」という意味の英語のことわざ。

*注2 “April is the cruelest month”(4月は最も残酷な月)は、T・S・エリオットの詩“The Waste Land”(荒地)の冒頭のフレーズ。“The merry month of May”(5月の陽気な月)は、パリの学生デモを描いたジェームズ・ジョーンズの小説のタイトル。


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