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第59回−番外編− 俳優というもの


今回から「不運から風雲・番外編」にはいります。
  皆様、引き続きよろしくお願いいたします。

僕は約25年の間、俳優という仕事に携わってきました。
  たくさんの素晴らしい俳優さんと表現の場を共にしてきたのです。
  でも、人というのは振り子の原理と同じで、素晴らしいと言われる人物には必ずや素晴らしくない一面があります。ましてや表現の場においてそれは顕著に見られます。すみませんヒネクレております、わたし。

ところで、俳優として素晴らしい人、というのは何をもってして言うのでしょうか。これが難しい。俳優として有名であることなのでしょうか?それとも俳優として素晴らしい演技をすることなのでしょうか?はたまた俳優であることも含めた一個人としての評価なのでしょうか?

俳優としては有名でも演技はどうなのだろう?と思える人。  演技は凄いけれども無名な人。   無名で大根役者、でも人としてはものすごーく素敵な人。

その他、いろいろな俳優さんがこの世界には存在しています。ハッキリ言ってなにが素晴らしい俳優の定義なのかよくわからなくなります。ですからここからはあくまでも僕のものすごく個人的な見解でお話をしていきます。

まず初めに、演技者として素晴らしい人、についてお話をしようと思います。僕の経験上、演技者として素晴らしい人は、一般常識から考えると必ずやどこかしら人間として破綻をきたしている方が多いように見受けられます。勝新太郎さんしかり、大地喜和子さんしかりetc・・・・・。もちろん、お二人とも僕はお会いしたことすらないのですが、お二人と仲の良かった方々のお話では、私生活ではかなり破天荒であったと聞きます。こういう破天荒な方は名優と言われる俳優さんの中には少なくないようです。他にもまだまだたくさんの破天荒の方がいらっしゃるのですが、一線で活躍されておられる方もいますので、ここでは実名は省かせていただきます。

僕が思うに素晴らしい演技者の方は、みなさんものすごく孤独で人見知りでワガママな方が多いように思います。性格もかなり偏屈で、協調性のかけらもありません。あっ、もちろん、物作りというものは共同作業ですので、まったくないわけではないのですが、まぁ、かなり低いと思っていただいて結構でしょう。でもきっと当人は、私はなんて協調性があるのだろう、と思っているとは思いますが・・・・・。

素晴らしい演技者はなぜ人として破綻している方が多いのか。
  それは、それだけ「演技をする」ということは身を削る思いを強要されるからです。
  俳優というのは役を与えられた瞬間から、自分の人格の中にもう一つ役の人格を作ります。このときから自分であって自分ではない。なにかちょっと不可思議な人物になるのです。

僕は以前、あるドラマで、あの幼女殺人の宮崎勤をモデルにした人物を演じたことがありました。そのときなんかは、気がつくと近くの公園でジッと幼い女の子を目で追いかけていたりしました。はたから見たらほとんど変質者だったと思います。  そういった役の人格が自分の人格の中に入った状態が、役を演じ終わるまで続きます。

よく恋人役の俳優さんどうしが、実際にも恋人どうしになり結婚するケースがあります。これなんか、お互いの人格が役の人格の影響で愛し合ったりしていることが多いので、役が抜けると同時に恋も醒めることもあり、そうした場合、後になって別れるカップルの方もよくいらっしゃるようです。

役を演じ終えても、すんなり役の人格が自分から離れてくれないときもあります。これは役の作り込みが激しいほど、役の離れが悪いようで、あまり入り込めなかった役は、終われば何事もなかったかのようにスーっと離れていってくれます。

この、"役が自分から離れてくれない"ときは本当にシンドイ。自分の身の置き所に困ってしまいます。なんといっても表現の場ではない日常において、自分であって自分ではないのですから。気がつくと心のあちらこちらに不協和音が鳴り響いているのがわかるのです。それを解消するためにあらゆる作業をしなくてはなりません。そうでもしないとやがては自殺をしたくなってしまうから。

この作業というのはちょうど一般の人が行っているストレス発散をもっと過剰にしたもの、と思っていただいても良いでしょう。その結果、アルコール依存、薬物依存、セックス依存などの依存症にかかってしまう方も少なくはありません。以前ご一緒させていただいた、名優と世間では呼ばれていらっしゃる方はセックス依存でものすごく悩んでおられました。あらゆる人とのセックスのヤリ過ぎで、ふつうの恋愛ができなくなってしまった、と言うのです。それも俳優の業と言ってしまえばそれまでですが・・・・・・・。

何かに依存しなければ人様が注目するような演技は出来ないのではないか。僕はなんとなく、そう感じないではいられません。外から見ていると、なんてお気楽な商売、と思っていらっしゃる方も多いと思います。が、決してそんなことはないのです。大半の方がいろいろな意味で苦しみ悩み生きております。そして、その悩みや苦しみを決して板の上や画面では見せてはいけない。ほんと因果な商売だと思います。

役を作り込むのに骨身を削り、終わってからは心の血を流す。
  評価されれば報われるけど、無視されることも多々あります。
  なんと疲れる・・・・・・・・・・・・・・・。

なんだか前置きだけで長くなってしまいました。次回は具体的に名前を挙げて、僕が出会った素晴らしい演技の持ち主たちをご紹介いたします。

2005.7.15 掲載

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