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第65回−番外編− 毒素を撒き散らす天才 清水 宏


本名 清水 宏
生年月日 1966年1月21日
出身地 愛知県
血液型 O型
資格 英検2級、剣道2段
特技 水泳、英会話

清水宏という「俳優」、または「お笑い芸人」がいます。ちょっと変わり者です。もちろん、いろんな意味で。

ふつう俳優というのは、ひとたび舞台に上がれば、異常な空気をあたり狭しとまき散らすもの。それが清水宏に関していえば、普段からそうなのです。普段から一種異様な空気を周りにまき散らしている。というか、垂れ流している。そう、自分で自分の毒を処理し切れていない感じがするのです。彼と一緒に暮らす女性がいたとしたら、きっと、とても大変な気がします。四六時中あんな毒気にやられたら、たいがいの人はおかしくなってしまいます。

清水宏は早稲田大学に二度も入学した経験があり、以前所属していた劇団山の手事情社では看板俳優でした。

僕は2年前のとある舞台で、彼と共演する機会に恵まれました。その舞台はほぼ全編アドリブで構成され、彼は機関銃のように喋り続けました。

このような舞台では、俳優の個性や技量が芝居のデキを左右します。彼は稽古初日からアドリブを飛ばし、最終的に芝居の8割方が彼のセリフで埋まりました。一言で8割と言ってもそれは凄いことです。ほとんどワンマンショーに近いのですから。

彼がいったん喋り出すと、周りの温度が2度は高くなり、その口から発する毒素によって瞬く間に空気が汚染される感じになる。一緒に演じていてとても楽しいけれど、同時にとても疲れるのも事実。彼の毒が自分の身体の細部にまで浸食してしまうのですから。そうなると、稽古も本番も、もうグッタリ。寿命が縮む思いです。

こんな彼の親御さんはどんな人物なのでしょうか。
「清水さんのお父さんはどんな方ですか?」
  稽古の合間に聞いたことがあります。
「ああ、キチガイですね」
  まず、返ってきた言葉がそれでした。

それからが凄かった。自分の父親がいかに酷い人間であるか、そして、そんな父親を自分はいかに憎んでいるのかを延々と語るのです。その言葉の量もスピードも尋常ではありません。見ると彼は大粒の汗を流しているではありませんか。こんなに大声で、なおかつ一生懸命に自分の父親を酷く言う人間を僕は初めて見ました。父親の悪口を言うのにも必死なのです。

しかし、ふつう、人の悪口を聞かされるのはとても嫌な気分になるハズ、なのに、聞いているこちらに不快感はまったくない。それよりもなんだか爽快さを覚えるほどでした。

清水さんの口が休むのを待って、僕はこう訊いてみました。
「清水さんがお父さんを悪く言えば言うほど、僕には清水さんがお父さんを愛しているように聞こえます。清水さんにとっては、とても愛すべきお父さんじゃありませんか?」
  彼はニヤリと笑い。
「ええ、愛すべき父親です……とても。自分で父の悪口を言う分には全然抵抗はないけど、他人が父の悪口を言うと、そいつのことを殺してやろうかな、と思いますねぇ……」
  その瞬間、彼はふつうに親を持つ、一人の子でした。

この歪んだ愛情表現こそ、彼の表現の原型になっているようです。僕は清水宏という俳優のことが大好きになりました。

公演の最中も僕は清水さんとよくお話をしました。
  映画の話、芝居の話、女性の話、などなど話の内容は別にたいしたことはないのですが、問題なのはその話しっぷりなのです。まるで、酔っぱらっているかのようなテンションの高さと話し口調。もう、エネルギーの塊です。

ふつう、芸人さんや俳優さんは、普段の喋り口調は大人しい人が多いように思います。だけど、彼は違うのです。ステージでも普段でもものすごくエネルギッシュ。まるで馬車馬のように生き、そして表現をするのです。ちょっとした発言が毒舌ととられ、そこから変人というレッテルを貼られ、誤解を招くことも多いようです。

この公演が終わったある日、彼は単身ニューヨークに飛びました。
  かれの長年の夢、「サタデーナイトライブ」に出演する足がかりを掴むためです。この番組に出演したいがために、彼は早稲田の英文科に入り直し、そして今なお、お笑いをやり続けているのです。

「サタデーナイトライブ」というのはアメリカのお笑いテレビ番組で、ここから世に出た芸人は、ジョン・ベルーシ、ダン・エクロイド、チェビー・チェイス、ビリー・クリスタル、ロバート・ダウニーjr、アンディ・カウフマン、エディ・マーフィー、ビル・マーレイ、マイク・マイヤーズ、マーティン・ショート、ベン・スティラー、などなど数知れず。

ニューヨークに降り立った清水宏は、手当たり次第にニューヨークのお笑いスポットと交渉し、みごとにライヴに出演しました。

なんなのでしょうか、この行動力は。別にたいしたことないように思えるかも知れませんが、全くツテのないアメリカに単身乗り込み、出演交渉をやってのけるのは、並大抵の熱意ではありません。普通に考えれば全く無駄に見える行動を、彼は意地と情熱のみで意味のある物にしてくるのです。普通の人ならやらない、いや、やれないことを、彼はいとも簡単にやってのけてしまう。これが清水宏の清水宏たる所以なのでしょうか。

独立独歩の彼は今日もお笑いを追求して、あちらこちらのライヴや芝居に出演し続けています。

僕としては、もっとテレビや映画に出演して、この面白くも何ともない表現世界に波紋を投げかけて欲しいのですが。まだまだ、時代は彼を必要とはしていないようです。

清水宏。そのうち、人々に忘れられない名前になることでしょう。

2005.10.15 掲載

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