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第79回 4月は「観察」の月

G.W.も終わり、そろそろあの嫌な梅雨が近づいてきました。
  あの期待に胸ふくらませた新しい学校や新しい会社も、当初の期待とは少しズレがあることに気がつき始めた頃ではないでしょうか。

僕は4月が好きではありません。
  正確に言うと、4月という月によく見られがちな、人々の浮き足だった雰囲気が嫌いなのです。というより、ついて行けないと言った方が正しいかもしれません。支配権・主導権をやたらと取りたがる人が出てくるのもこの時期だと思います(笑)。

なので、期待に胸ふくらませて道行く人を見かけると、ついつい、あとで足元すくわれるぞ、と意地悪な思いがよぎります。
  4月に元気な人っていうのは、夏の終わりと共に元気がなくなっていく、これは僕の勝手な持論です(笑)。

中学の頃から、4月はひとまず周りの様子をよく見ること、を自分のモットーとして生きてきました。
 4月は観察、5月・6月はその観察を生かして、自分と気の合いそうな人間に近づく、7月・8月はその人たちをもっと交流を深め、9月・10月にそいつらと事を起こし、11月・12月はその余韻にひたる。そして新年はとことん前年の反省をし、2月・3月は新年度に備えて計画を練る。
  これが、ひねくれ者である僕の1年です(笑)。

今年の4月、また新しい年度が始まりました。
  今年度、あらたにスタートを始めたのは、2006年度演劇ワークショップ、某大学の演劇のゲスト講師、そして、衛星放送の「日本の朝市」という番組ナレーション。
  それぞれ、同時期にスタートを切ったので、かなりシンドイ状態で4月を乗り切り、今は自分の中のズレに気がつき始め、軌道修正を計っているところです。

まずは、演劇ワークショップ。
  昨年に引き続き、二回目のワークショップ。
  今回は9人の参加者。で、出演できるのは、脚本上、最小で4人。なぜ最小かと云うと、4人以上役者として使える者がいれば、ダブルキャストなどにして、なるべく出演させてあげたいからです。

でも、今のところ、使えそうなのは2人。登場人物4人の芝居に2人。これでは芝居は作れません。  頭にきたので、参加者にハッパをかけてはいるのですが、なかなか響いてはくれず、みんなで足の引っ張り合い。僕の教え方が悪いのか、彼らの頑張りが足りないのか。たぶん両方だとは思いますが、どうしたものかと頭の痛い日々が続いています。

口うるさくすると萎縮する。甘やかすと何もしない。なかでも困るのは、何がわからないのかわかりません、と云われること。
  君たち自身がわからないものを他人の僕がわかるわけがない。もっと自分と格闘して考えて欲しい。格闘する前に、すぐに音を上げる。考えることがそんなに嫌なら役者なんかになるものじゃない。それでなくてもたいへんな世界なのに、他人に依存ばかりしていないで、自分で考えなくてどうする。そんなことではいくつになっても役者なんかになれないぞ、ついつい声を荒げてしまいます。

ホント、役者志望の若者達との闘いは疲れます。それでも、引き受けた以上は、何らかの成長を遂げさせるのが僕の仕事。日々毒舌の中年親父と化しています。ワークショップ終了まであと二ヶ月。さて、どうなりますやら。

次に大学の演劇の講義。こちらは役者志望の子が対象ではなく、一般の大学生に演劇とはなにか、ということを教える講義。みんな演劇なんぞに触れたことがない若者達ばかり。主に、演劇なんぞ誰でもできる、と言うスタンスでやっております。

あちらでは役者なんて簡単にできるものじゃない、と言い。こちらでは、役者なんて君にもできる、なんてことを言う。これではまるで嘘つき中年です(笑)。
  でも、まるっきり嘘でもないのです。誰にでもできるし、誰にでもできないのが、役者という世界。うーん、やっぱりわかりませんかねえ(笑)。今のところ、生徒は物珍しさも手伝って授業に出席してきてくれていますが、そのうち欠席が多くなることでしょう。そろそろ新しい展開を考えないと生徒が逃げていく気がします。うーん、先生という仕事は頭を使います。

最後に番組ナレーション。僕はCMナレーションの仕事はたくさんしたことがあるのですが、一本の番組のナレーターをするのは初めてでした。

この初体験はかなりの苦労を要しました。
  役者というのは台詞だけを喋っていればいいのですが、ナレーターというのは、解説・心象風景・台詞などを変幻自在に喋らなければなりません。それも、僕のこの極端に短い舌で。

録音の前々日か前日にナレーション原稿が来ると、まず言葉のチェック。僕の舌では喋りづらい言葉を書き出し、上手く言えるように工夫を施します。次に、原稿を解説・心象風景・台詞に分け、そのギアーチェンジのタイミングをなんとなく掴み、あとは画像をイメージしながら頭から終わりまで何度も何度も読み込み、声に出し、録音本番に備えるのです。

次の日、録音現場で初めて画像と対面。ここで、頭で描いていた画像のイメージと実際の画像のズレを認識し、すぐさまそのズレを修正。あとはディレクターと話し合いながら録音。録音時間およそ2時間。原稿をいただいてから録音終了まで、長くて三日。この間、全ての時間をナレーションに費やし、終わったときは、もうグッタリ。次の日は何もできない状態になります。もうたいへん。もう少し、このナレーションの仕事に慣れ、なんとかしないと、それこそ身体が持ちません。頑張らねば。

このように4月からいろいろなことが始まり、とりあえず走ってみて、今はそのズレを確認している時期です。
  みなさんも、たまにはズレを確認してみてはいかがですか。
  早めの修正は、大事故を避ける。
  僕はそう思います。

話はかわりますが、今日は母の日。
  夜、最寄りの駅から家に向かう途中。50歳前後の男の人が、電気の消えた坂の下の家の前に立っていました。
  よく見ると、右手には透明のビニールにくるんだ一輪の紅いカーネーションの花が握られています。

僕は足を止め、男の様子を見守りました。
  男はその一輪の花をソッとその家の玄関にもうけられた二・三段の小さなコンクリートの階段にそのまま置き、時間にして数十秒、ただジッとしていました。そして、何ごともなかったように、その場をゆっくりと去って行きました。

男に何があったのか、坂の下の家の住人とどういう関係なのか僕は知りません。でも、なにか、直接渡せない事情があるのでしょう。
  他人の人生の在り方に、少しだけ触れてしまった気がします。
  自分勝手な話ですが、ほんのちょっと心が温かくなりました。

2006.5.18 掲載

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