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第80回 キャスティング発表

恵まれない俳優志望の人たちを対象に、昨年から始めた演劇ワークショップ。
本年度の演劇ワークショップが始まってちょうど二ヶ月が経ちました。

今年の参加者は9名、下は19歳から上は30歳まで、男女比は1:2で女子の方が多い。
  ワークショップが始まって二ヶ月目にワークショップ公演のキャスティング発表がある。
  昨年もそうだったのだが、このキャスト発表が実に頭が痛い。芝居のできる人たちの中から何人かを選ぶのではなく、芝居のできない人たちから何人かを選ばなくてはならないのだ。

7月末の本番まであと二ヶ月。この二ヶ月で、はたしてどれだけの成長を遂げてくれるのか。そんな可能性をみながらキャスティングをしていく。
  もちろん、こちらとしては全員本番に使うつもりで稽古を進める。だけど、どうしてもついてこられない人たちが出てくる。いろんな手を駆使して叱咤激励しながらやるのだが、なかなか響かない。参加者9名中、泣く泣く3名を落とすことになった。

二ヶ月もの間、稽古に付き合っていると自然に情はわいてくるし、自分に人を選択するような技量があるのだろうかと、迷いも生じてくる。
  このキャスト発表、本当につらい。
  落ちた人たちは、このままワークショップに来なくなるのだろうか、本番に向かうことがなくなったら、ますますヤル気を無くすのではないだろうか、僕は彼らに立ち向かったつもりだが、本当に全力を尽くしたのだろうか。
  気がつくと、食欲もなくなり、眠れない日々が続いている。

考えなくてはいけないのは、役に付けなかった子たちの身の振り方だ。スタッフとしてこの芝居に付けさせるのか、このまま俳優修業を続けさせるのか、はたまた違う道を選択させるのか。

僕のワークショップでは、とりあえず表現に立ち向かっていく勇気があるかどうかを問わせることにしている。
  表現に立ち向かっていく勇気とは、まずは自分自身と闘えるかどうかなのだ。
  自分自身に足りないものを知り、それを補う努力をする。
  言葉にすると簡単なのだが、今の子供達はこれをしない。すぐに言い訳を探し、他者のせいにする。これではいけない。いずれ、人生においても負けてしまうだろう。

いや、人生勝ち負けではない。負けてもいい。次につなげてくれればそれでいい。そのためにも、逃げずに自分自身と向き合うことをしなくてはいけない。
  結局、落とした3名は、一人は高校受験に専念させ、一人はスタッフ見習い、一人は僕が身柄を預かることにした。

これで良かったのかどうか。吉と出るか凶と出るか。それは今後の僕たちの生き方次第。人生やってみなければわからない。とりあえずは、みんなでいい芝居を作らないと。まぁ、やるしかないのだから。

最後になりますが、恥ずかしながらも、このワークショップ公演のチラシに載せるコメントをここに記しておきます。
未だに思うことは、自分に人をジャッジする能力や資格があるのだろうか、
ということ。
  まだまだ勉強の日々は続きます。


以下、チラシのコメント。

若者達と芝居を作ることになって、2回目の公演がやってきた。今回も前回同様、頭を悩ます日々が続いている。集中し、自然に喋り、自由に動き、素直に感情を出す。いたってシンプルなことがまったくできない。来る日も来る日も、中年は小言を繰り返す。すでに小姑と化している。
今回のテキスト台本は別役実作「海ゆかば水漬く屍」。戦争という大きなものが背景にある作品。まずみんなでやったことは、各自が研究してきた戦争講座。これを週一で発表して貰った。大東亜戦争を調べるもの、峠三吉の詩を持ってくるもの、戦争とはなんぞや、戦争を繰り返す人間とはなんぞや、そして自分とはなんぞや。いろいろな事をない知恵を絞って考え、発表してくれた。これはよかった。何かを調べ、それを他者に伝えるという行為は役者としての表現にもつながる。僕の知らないこともたくさんあった。今の若者達にとっては、戦争を考えるいい機会だったと思う。
今回のワークショップ参加者は全部で9名。4役しかない配役を2ヶ月かけて争って貰った。役を勝ち取ったのがチラシに写っている4名。名前だけ載っている他の2名は、僕が勝手に付け足した黒子と電信柱という役割。9名のうち3名は芝居には出られない。この3名、ハッキリ言って敗者には違いない。でも、負けは勝ちにつながる。僕はそう信じている。たとえ出られなくても、役に付いた人間がどう本番に立ち向かい、どう成長していくか、それをしっかりと見つめる。人の成長を見届けたものは、己も知らずに成長を遂げているもの。そして、次に生かす。長い人生、負けばかりではない、そのうち勝つこともあるのだ。未熟者で結構。未塾者ほど、この先成長する楽しみがある。
逆に、役に付いた人間は、役に付けなかった人間をしっかり背負っていくだろう。他者を背負える役者は強い。是非そんな役者になってもらいたいと思っている。
芝居は一人だけでは作れない。
多くのスタッフと見えない人々に支えられている。
だから本当ならこう言いたい。今回の出演者は9名ですと。
ああ、いつまでたっても青臭い中年である。

ワークショップ2006参加者:岡田桂子・奥村円佳・今野太郎・小杉元・玉島吉茶・新島亜矢子・羽太結子・薬袋いづみ・村尾俊明

2006.6.5 掲載

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