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第81回 親父と戦争

先日、名古屋に住む兄から、
「今年の夏に、姉貴の37回忌と親父とおふくろの27回忌をやるぞ」
と連絡があった。
  姉の37回忌と両親の27回忌。そうか今年はそんな年なのかぁ。そういえば僕自身もうすぐ46歳になる。母が父と一緒に亡くなったのは、母が50歳、父が55歳の時。あと数年で、僕もその歳になる。なんだか複雑な気分だ。

両親が亡くなってから、1年後に母の父親、僕の母方の祖父が亡くなり、一昨年、父の母、父方の祖母が亡くなった。僕にとって、血の繋がった身内と言えるのは、  自分の家族と、あとは名古屋に住む兄の家族だけだ。
  名古屋の兄の家には、奥さんと3人の子供達がいる。上から男・男・女の三兄弟。我が家が上から女・女・男なので、まるで反対。年齢も、こちらの長女とむこうの  長男、こちらの次女とむこうの次男、こちらの末息子とむこうの末娘、それぞれが同い年か一つ違い。
  むこうの兄弟はマジメで頑固な兄貴の元で厳しく育てられ、こちらは僕の元で自由で軟弱に育った。

そんな名古屋の甥っ子たちに久しぶりに会った。
  まるで違う環境の中で育った子供達、一つだけ共通点がある。基本的にみんな明るい。
  これはきっと、僕と兄貴が若い頃に姉と両親を亡くしたため、くよくよしても人生ははじまらない、という考えがどこかにあり、人生そのうちなんとかなるさ的に生きてきたからだと思う。

じゃあ、僕らの親父はどうだったか。
  うーん、決して明るい人ではなかったように記憶している。うちの親父は僕と正反対でひどく無口で、自分のことは息子たちにはほとんど何も語らない、頑固な大正生まれの男だった。
  僕も兄貴も親父とじっくり話をしたことなど一度もなく、その反動からか、子供たちとはよく喋る。会話をしながら、自分を見つめ、相手を見つめる。会話には、自分の欠点が露骨に晒され、そして生きるヒントがあるような気がする。僕にとっては会話は生きる上で大切な行為なのだ。

話はかわるが、僕はいま戦争を題材にした芝居を作っている。うちの親父は若い頃、学徒出陣で戦争に召集されたらしい。正確に言うと、戦いに行ったわけではなく、行く前に終戦になったと誰かに聞いたことがある。
  先日、親戚に不幸があり、そのお通夜の席、親父のすぐ下の弟?(実を言うと僕はこの方が苦手なのだが)に初めて親父の戦争経験について聞いてみた。

「うちの親父は、招集されてから、何をして、どこで終戦をむかえたの?」
「なんだよいきなり」
「いや、そういえば親父がどこで終戦をむかえたのか今まで知らなかったし、考えたこともなかったから」
「そうか。うーんと・・・お前のお父さんは、人間爆弾に乗るはずだったんだよ」
「人間爆弾?」
「飛行機にエンジンのないグライダーを積んで、それを敵艦が見えたら切り離すんだ。当時、そういう飛行機があって、グライダーはそのまま敵艦に突っ込んでおしまい。そのグライダーの方に乗るはずだったんだよ」
「へえー、そうなんだ・・・・・」
「でも、出陣する前に終戦。帰ってきたときには、行く前よりも太って帰ってきたなぁ」
「なんで?」
「人間爆弾に乗る人間は、飛行機から切り離されたら死んでしまうから、数日前から旨いものをたくさん食べさせてもらっていたらしいよ」
「そうか、親父は若い頃に、一度は死を覚悟したのか・・・・」
「うん。過酷だったよ、あんたの親父さんは」
「終戦はどこでむかえたの?」
「たしか、福井の航空練習場じゃなかったかなぁ」
「えっ、福井?」
「うん、たしかそうだ、終戦の声を聞くまではつらかったろうなぁ、親父さんは・・・・」

僕は、今年の秋、福井で芝居を作る。その芝居も、今作っている芝居同様、戦争を題材にした作品。そう、今年の僕が作る芝居は二本ともテーマが戦争なのだ。
  そうか、こんなところ、福井と戦争の縁があったのね。思い切って、聞いてみてよかった。
  なんだろう、苦手だった叔父に少しだけ好感が持てた。人というのは、会話によって見方も変えられることがある。

最近若者たちと接していて思うことは。
  人と会話をすることをひどく怖がっている、ということ。会話によって自分が傷つくのが怖い、という。
  傷ついたら、そこから学べばいいではないか。傷の深さや切り口を見つめ。傷つく理由を知ればいいではないか。
  もしものすごく辛かったら、それを自分だけは他人に対してやらなければいい。そういうことを学べばいいではないか。
  いいものだよ、他人と話をすることは。最近特にそう思う。

2006.6.16 掲載

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