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第109回 「けいせい仏の原」PART1


 読者の皆さまこんにちは。
 8月は、まったく更新できなくて、誠にすみませんでした。福井県三國町での芝居作りに、身体も脳みそも持って行かれ、大好きな本を読む暇もなく、あっという間に夏が過ぎてしまいました。連載を抱えているにも拘わらず、このような事態になってしまったのは、全て自分の甘さが原因だと思います。深く反省しております。今月よりまた再開致しますので、皆さま宜しく御願い致します。
 今回は三國での芝居作りの模様を日記形式でお届け致します。

7月31日
 「けいせい仏の原」という芝居の稽古のため、福井県三國町へ車で移動。
 午前十時に新宿を出発。夕方には三國のサンセットビーチに到着。
 衣装の早川嬢と女優の薬袋嬢と三人で、日本海に沈む夕日を見る。海に日が沈んで行く後景を見るのはいつも感動的だ。切なく、悲しく、そして空しい。
 まるで自分の人生を見ているようだ。
 これから若い俳優達との40日間のレジデンスが始まる。夕日に向かって、「どうかこの芝居に、無事に終わりが訪れますように」と願いを込める。

8月1日
 今回のお芝居は近松門左衛門の「けいせい仏の原」という芝居を、大幅に脚色&アレンジ。それを三國と東京の合同スタッフ&キャストチームで公演する。
 東京の役者は40日間のレジデンス。東京のスタッフは三國・東京間を行ったり来たりの繰り返し。登場人物10名、関係スタッフ約30名の大所帯。問題が起きないはずがない。
 早朝、地元の三國神社へ安全祈願「よろしくお願いいたします」。
 昼過ぎ、東京から、残りの役者陣4名が三國入り。さっそく会場である三國文化未来館へ下見。
 主役の加藤君に「ようこそ三國へ。ところで何をしに来たの?」と毒をぶつけると、「勘弁して下さいよー」とすでに泣き顔(笑)。
 夜、三國の俳優陣も揃い、初めての全員での本読み。
 主役の文蔵には加藤幸夫(東京)、その恋人の花魁・今川に定村文恵(東京)、文蔵の元恋人の元花魁・奥州に薬袋いづみ(東京)、文蔵の弟・帯刀に大林和晃(東京)、文蔵の許嫁・竹姫に東みゆき(三國)、竹姫の側近・一角に沼畑真(東京)、文蔵の父に岡田利雄(三國)、今川の父に湯浅弘祥(三國)、黒子に源藤一代(三國)。
 三國の俳優陣は、昼間は普通の仕事をしている方達ばかり。スケジュール調整も大変な上、十人みんながバラバラな個性の持ち主。この十人をどうやって本番に向かわせればいいのか。どうやって一つのチームとして固めていけばいいのか。どうすれば、なんとか芝居という形に持っていけるのだろうか。頭の中を不安が渦巻き、初日から頭を抱えることに。

8月2日
 稽古初日。
 今日から、昼の2時?5時、夜の7時?10時の稽古が始まった。
 午前中は稽古の予習。夜は稽古の反省。朝は7時起き、就寝は夜中。芝居漬けの日々が始まった。
 病気をしてからは、初めてのハードスケジュール。果たして倒れることなく完走できるのだろうか。
 この日、稽古場に付いてくれる地元スタッフの大町さんの父上がご病気ということが判明。手術は8月末。大町さん本人は降りることはせず、稽古場に付くことを希望。なので、そのまま任務を遂行して頂くことに。いやはや、芝居作りにはいろいろな問題が付きまとう。とくにスタッフの家族のことは毎回いつも何かある。これはどうゆうことだろうか・・・。大町さんの父上の無事を祈るしかない。

8月7日
 三國へ来てからの初めての稽古休み。
 しかし、帯刀役の大林君がどうもよろしくない。大林君の感情が動かないのだ。
 僕と大林君は休みを返上しての特別稽古。大きな稽古場に二人きり。
 彼の感情の起源を探りながらの稽古。さすがに疲れるが、諦めるわけにはいかない。彼の感情が開くまでこちらもしっかり付き合う。
 彼に僕をビンタさせたり、僕がビンタをしたり。お互いの皮膚を通して、彼の心の何かが動くのを待つ。
 夕方、にっちもさっちもいかない彼に業を煮やし、彼の背中に乗ってブツブツとダメ出しをしていると、急に彼が泣き出した。
 どうしたのだろう? 今まで動かなかった彼の心が動いたのだ。
 まあいい、なんでもいい、とにかく彼の心が動いた。
 僕が彼の背中に乗ったまま台詞を言わせると、台詞に生命が入り始めた。うん、いけるかもしれない。
 背中に侍り付いたまま、稽古を続行。
 彼の背中に乗っかっていると、彼の人生がこちらの心に入ってくる。彼の悲しみが、僕の心を占拠する。お前にも、辛いことがあったんだね・・・・。
 泣き出しそうになるのを堪え、必死になって彼の吐く言葉に心を傾ける。彼の台詞がなんとかこちらに届き始めた。
 今日のところはこれでいいか。
 しかし、こんな姿、他人に見られたらゲイだと思われるに違いない。大きな若い男の背中に、中年のハゲ親父が乗っかっているのだ。稽古場に誰も入ってこなくてよかった・・・・。
 大林君の心が少しだけ理解でき、稽古は終わった。
 稽古後、彼を連れて食事に行く。腹が減ったのか、彼は特盛りのステーキ丼を平らげた。
 まだ稽古が始まって1週間。
 先は長い。

2007.9.15 掲載

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