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第110回 「けいせい仏の原」PART2


 まず訂正をひとつ。
 前回で、「けいせい仏の原」のキャストを書いた。
 10人全員書いた。つもりだった。実は一人抜けていた。本人からの泣きながらの訴えにより判明した。
 その人の名は、榎ちひろ君。主役の文蔵に使える侍の役だ。そして、福井の劇団で代表を務めている人間でもある。
 どうして書き忘れてしまったのだろうか。
 役者10人、それぞれを愛してきたつもりだが、彼に対しては愛が薄かったのだろうか。
 いや、そんなことはない。芝居ができない彼に対し、稽古量は人一倍費やしてあげたし、ダメ出しの時間も長かったハズ。
 劇場に入ってからも特訓が続き、なんとかしてあげたい思いが強すぎて、千秋楽の日にはついつい足まで出てしまった。そんな思い出深い人物を忘れてしまうなんてことはない。
 と思っていたが、本当に忘れてしまった。
 ごめんなさい。
 では日記を続けます。

8月某日
 あまりにも腰と背中が痛むので、稽古終了後の22時過ぎ、紹介して頂いた地元で整体をやっているという方のお宅へ行く。古い建物の玄関を入り、細長い廊下を進み、小さな部屋を横切ったところにこれまた細い階段がある。どうやらその上が治療室のようだ。ゆっくり階段をあがると、白衣を着た中年の方が整体の本を片手に僕の到着を待っていてくれた。これから治療を行うのに、目の前で整体の本を読まれるのもいささか不安だ。
 まるで映画監督が、撮影現場で映画の本を片手にああでもないこうでもないと試行錯誤するのに近い感じがするのだが、まっ、いいか、今日はこの人に身を預けよう。
 身体をベッドに横たえると、早速治療が始まった。
 「腰骨の○番と○番の間がずれていますねー」
 といいながらも本は片時も離さない。
 不安はつのる。

 「えーっと、ちょっといじりますねー」
 僕の両足を持ち上げ、左右に激しく捻る。
 「痛い、痛い、痛いですー」
 声をあげてみるが、そんなことはお構いなし。
 捻りは数回繰り返される。
 僕としては軽いマッサージを期待していたのだが、どうやら勝手が違うようだ。ちょっと変わった整体の仕方に動揺する。
 でも、それよりなにより、この方どうやら完全なプロフェッショナルではないような気がする。なんとなく趣味的に副業でやっている感じがするのだが、そんなこと恐くて聞くこともできない。

 そのまま身を任せること40分。
 どこも気持ちが良くならず、どこも痛みは治まらずに終了。
 それでも料金は東京に比べると3分の2程度。安いけど、効果はなし。

 細い階段を下り階下に着くと、来たときは明るかった階下が真っ暗。手探りで足を進めるが、なかなか玄関に辿り着けない。
 ゆっくりと片足ずつ前に出していると、あっ!!足に何かが当たった!
 目を凝らし足元をよーく見る。
 っと、なんと!そこにはあったのはおばあさんの顔!! この家のおばあさんが寝ているではないか!!
 なんで、こんなところにおばあさん??
 思わず踏みつけてしまいそうになった自分を落ち着かせ、その場を脱出!!
 どうにも、こうにも、癒されに来たのか疲れに来たのか、よくわからない整体だった。

8月某日
 稽古場で、奥州役の薬袋嬢に厳しくダメ出し。
 落ち込んで思い詰めてしまった薬袋嬢は宿舎まで歩いて帰るという。
 その日の稽古場から彼女の宿舎までは歩くと約1時間強。
 「いいから車に乗りなさい」
 と言っても、
 「歩きます」
 の一点張り。
 その強情さを芝居に生かせばいいいいのにと思うが、
 「そう、じゃあ好きにしなさい」
 と言い残し、他の者たちは帰宿。

 あとで聞いた話だが、実は彼女、役作りのため、稽古場から真っ直ぐ東尋坊に向かったそうだ。
 東尋坊と言えば自殺の名所。一年に30人くらいの人間がここから飛び降りている。
 夕暮れの東尋坊に思い詰めた若い女性が立っていたら、誰だって自殺と勘違いするに決まっている。
 薬袋嬢が崖っぷちから海を見つめ、自分の演技の反省をしていると、地元のオバサンが心配をして声をかけてくれたそうだ。
 落ち込んだ彼女の心には、オバサンの声がとても暖かく響いたと思う。
 こんなところも、レジデンスのいいところ。
 頑張れ薬袋嬢。

8月某日
 三國の花火大会。
 三國という町、ふだんは住人以外、ほとんど人がいない。
 でも年に二回だけ、人で溢れかえる日がある。5月の三國祭りと8月の花火大会だ。
 今日はその花火大会の日。
 夜の稽古はお休みにして、東京チームを中心に花火大会を観賞。
 その前に場所取り。
 大林君が女性物の着物を着て、木彫りの大きな象の置物と一緒に炎天下の中長時間頑張ってくれた。
 そのおかげで、みんなで花火大会最高の場所で花火を満喫。
 落ち込み気味だった薬袋嬢も大喜び。最後の大花火の連続発車に、彼女は気が狂ったように大笑い。
 この大笑いをなんとか芝居に生かしたい。花火大会なのに、演出家の視線で見ている自分の業の深さを知る。

8月某日
 三國に来て、初めてのお休み。
 役者陣はそれぞれ自由行動。
 僕は、思ったより長い芝居になりそうなので、台本の手直し。結局休みにはならなかった。
 気分転換にでかけた福井市内。
 主役の加藤君と二度ほどバッタリ。うーん、県庁所在地にもかかわらず、ものすごく狭い町である。
 結局気分転換にはならず、福井のカフェで芝居談義。
 本番まであと半月。
 果たして芝居はできるのだろうか?

2007.9.29 掲載

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