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第121回  変態中年ハゲオヤジ!?

桜が満開なのに、心は閉塞状態。気がつくと右の親指のツメが割れ、左の中指がバネ指になっていた。春はいつもどこかが壊れている。気分を直しに近くの温泉へチャリンコを走らせる。途中の環状八号線交差点付近、道路の向こう側からこちらにニッコリ手を振る人がいた。知り合いかと思い、こちらもニッコリ手を振り替えしたら、後ろに立っていた人の知人だった。ニッコリ笑顔を作ったことが、ひどく損をしたように思われた。

下高井戸の温泉は混んでいた。脱衣場のロッカーの空きが少なく、見つけるのに一苦労。脱衣場のトイレは面白い。みんなフルチンで用を足している。ものすごく無防備。なぜ素っ裸の人間はみな、強そうに見えないのだろうか。こんなところに無差別殺人犯でも来た日には、全員即死に違いない。

そうやって考えると、刺青というのはきっと、裸でも強く見えるようにするための工夫かもしれない。風呂場での男という生きものは、他の男のイチモツを品定めし、自分のイチモツと比べてみる習性がある。イチモツというものは顔や姿形に関係なく付いている。大男のイチモツが粗末なものだったり、チビでハゲの男がものすごく立派なものを持っていたりする。強さを売り物にしている男にとって、これはある意味もの凄く残酷なことだ。でも、刺青さえあれば、下半身に向かう視線が刺青に釘付けになり、本当はお粗末なものもカモフラージュされ、立派に見えてくる効果が期待できる。

そんなことを考えていたら、便意をもよおしたので個室に入る。全裸で便器にまたがるこそばゆさ。風呂上がりに用を足すと損した気持ちになるのはなぜだろう・・・。目の前の壁に、ウォシュレットの乾燥故障、とあるので久しぶりに紙で拭く。トイレを出て洗面所に行くと「ブワォーーーーー」というドライヤーの音が飛び込んできた。見ると、御老人が尻穴をドライヤーで乾かしているのに遭遇。M字開脚ならずA字開脚。ものすごい光景だ。ひょっとして、これは、乾燥機の代用かもしれない。うーん、なんということ・・・ここでも春満開です。

そういえば、4月から息子が東京に住むことになった。8年ぶりの息子との同居。いまさら緊張はしないが、毎日のように顔を合わすことに慣れない。なんだか恥ずかしい。なにかの拍子に息子の前で「父は心が狭いからなぁ・・・」と呟いたことがあった。もちろん、「そんことないよ」「思ったこともないよ」とかの返事を期待した上でのことだったのに、何も返して貰えなかった。ということは、息子は、自分の父親は心が狭いと思っていることになる。

もちろん、自分は決して心が広い人間だとは思っていない。常日頃、「心が狭い人間」と言い切っている。しかし、自分以外の人間に「心が狭い」ということをそう簡単に受け入れて欲しくない。はっきり言うと、自分以外の人間からは「心が狭い」と見られたくない、思われたくない。このみっともない矛盾はなんだろうか。きっと、我こそがいちばんみっともない人種なのだと思う。でも、そうは言ってみても、他者から「みっともない」と思われるのは嫌なわけで・・・。

先日も下北沢からの帰りの夜道で猛烈な便意をもよおした。その道は、真っ直ぐ進めば家にたどり着く一本道。肛門をギュッと絞めながら、できる限りの全速力で歩く。肛門に力が入っているせいか、歩き方が競歩のようにギクシャクしてしまう。小刻みに襲ってくる便意と、脂汗をかき乍らヒーヒーと唸り声をあげて格闘している姿は、端から見れば、まるで病んだケダモノのように見えるに違いない。

できることならこのまま誰にもすれ違うことなく家にたどり着きたい。そう思った否や、前方にミニスカートの女子高生発見。それも、こちらを振り返りつつ小走りしている。あきらかに遠ざかろうとしているのが見え見えだ。無理もない。病んだケダモノのような中年が、油背を垂らし、ヒーヒー言いながら追いかけてくるのだ、誰だって逃げるに決まっている。しかし、こちらとて猛烈な便意という止むを得ない一大事。この一大事を一小事にするには、早く家にたどり着き、便器に腰を下ろすしか解決策はない。たとえミニスカートの女子高生が怖がったとしても、スピードは緩められない。ただひたすら急ぐだけ。

必死に小走りの女子高生。必死に競歩のハゲ中年。追いつきそうで追いつかない。閑静な住宅街の中をデッドヒートする二人。僕は痴漢じゃありません!変質者でも、ましてや殺人者でもありません!そう心の中で叫ぶのだが、相手に聞こえるはずもない。血相変えて逃げる女子高生。しかし、勝負に勝つのは必死さが勝る方に決まっている。

中年男はついに追いつき、並んだ。っと、その瞬間、便意が「ブスッ」という音と共に小さく破裂。水気が穴から飛び出した。「ううっ!!」とうずくまる中年男。並んだ男がイキナリにしゃがみ込んだという行動に「ギャー!!」と叫ぶ女子高生。「ち、ちがうんだ!」言葉にならない言葉を発しようとする男と初めて目が合う。汗と苦労に満ちた中年男の目を見た女子高生は、目を見開き、まるでケダモノを見るような視線を投げつけ、これまで以上の全速力で走り去っていった。あとに残ったのは、切ない中年男となま暖かい春の風だけだった・・・。

全てをあきらめ、なすがまま、流れるがまま、家までの残りの道をとぼとぼ歩く。女子高生の中ではきっと、変態中年ハゲオヤジでしかない自分を哀れみながら・・・・。



2008.4.21 掲載

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