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第26回 テンション(2)


(前回からつづく)
  ところが、筆者はこの言葉を1970年代前半の大学生の頃から日常的に使っていた。と言っても、それは音楽専門用語としての「テンション」である。ちょうど我が国においてヤマハがポピュラー音楽理論の普及を始めた頃、私は作編曲理論の門を叩いたのだ。「テンション」とは、たとえばソ・シ・レ・ファというような普通の和音にラ(またはラ♭)やミ(またはミ♭)などを加えられた音のことだ。モダンジャズやボサノヴァで多用される。クラシックの和声学においては和声外音に含まれるが、テンションにぴったり意味が重なる言葉は見当たらない。

いつ頃からこの言葉が日本語に出て来るかを検索(注*)すると、「気分」、「高揚感」の意味での「テンション」の出現は2005年頃だが、それに先立ち、2003年頃からは「ハイテンションが持続する」という表現が散見される。この「ハイテンション」は音楽家が使い始めているケースが目立つ。元々、音楽理論でのテンション音は周波数で整数倍比の音、つまり倍音が当てはまることからの連想で「ハイテンション」という言葉を使い始めたことが推測されるのだ。

音楽にテンションの音を加えると、普通の和音に比べ、濃い感じになったり、柔らかさが出たり、波間に葉がたゆたうような浮揚感が出たりする。その代り、力強さやスピード感を出したい時はこのテンションを使わない方がよい。

また、テンションを多用した曲の中で、急に普通の単純な和音が出て来ると、シラけた感じになってしまうし、フォークソングのような素朴な曲にテンションを使うと「やりすぎじゃね〜の」と言われる可能性が高い。

ことほど左様に、人が集まった時に、ただテンションが高ければいいというものではなく、よく空気を読むようにしたいものだ。

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(注*)[参考文献]
国立国語研究所データベース「少納言」

2012.12.15 掲載



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