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第37回 かぶる[被る](2)


(前回からつづく)
  「ダブル」(double)の場合は「る」がウ列の音で、動詞活用語尾の終止形のような気がするので、わざわざ「ダブルする」と言う必要がなく、「ダブる」(ラ行五段)という巧妙な言葉が出来上がった。

とは言っても、この「ダブる」の出現以前に、純粋に日本語で「かぶる」意味を言う場合は何と言ったらよかったのだろう。それは「重なる」だった。

ただし、「重なる」は

 Ex.おめでたいことが重なった。

というような例があるように、「重なってよかった」ニュアンスを表現することもあるから、すべてを「かぶる」に置き換えることは出来ない。「かぶる」はもっぱら「重なって困った」というネガティヴな意味に使われるからだ。


さて、「重なる」意味での「かぶる」は、元々は芸能人のテレビでの起用などで、「キャラがかぶるから出演できない」、「ネタがかぶった」などと使われていたのが一般化した言葉だ。

前回、辞書(広辞苑第五版)から引いた

 ・2-5 写真の露出過度で、不鮮明になる

という意味がテレビ業界で、映像、会話の重なりで、その存在意義が不鮮明になる意味に転じたと思われる。

本来は後から来た人に「かぶられた」か、または他人が「かぶったから困った」と言うべきなのだろうが、短縮化して「かぶった」になったに違いない。(つづく)

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[参考文献]
三浦正好2006「日本語の語源の謎」東京図書出版会
町田健2009「変わる日本語 その感性」青灯社



2013.11.15 掲載



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